父親は、暴力をふるう男だった。そこに理由なんてない。あの男にとって自分は息子ではなく、利用価値のある道具。そう実父から告げられたのは、何年前のことだっただろうか。

誰しもが親から無償に与えられるはずの愛情というものは自分は知らない。優しく頭を撫でてくれる親の手は知らない。

憎むことができればよかった。そうすれば、心の内でもたげる負の感情を全て父親にぶつけて楽になれたのかもしれない。

けれど、それができないのは、あんな男でも血の繋がった親だから。どんなに暴力をふるわれても、愛してもらえなくても。

それでも、たった一人の父親だから。

「……馬鹿だよなあ」

青年の嘲笑の言葉は、誰の耳にも届かない。



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