ユリちゃんが帰ったあと、お客もそれなりに来ていたがその波も今は落ち着いている。店内で一人机を拭いたりしてゆっくり時間を過ごしていると、ガラリと戸が開く音がして目を向ける。

現れたのは華奢な体躯に雪のような真っ白な髪を高く結わえ、女性とみまごうほどの端麗な顔立ち。そして隣には、透き通った水色の体毛を持つイーブイの進化系であるグレイシア。

「カグヤさん、こんにちは」
「ふふ、ツバキ。いらっしゃい」

ポニーテールを揺らしながら花葉色の瞳に和菓子を写し、その細い身体のどこに入るのか不思議な量の和菓子の量を注文してツバキは椅子に腰掛ける。

いちご大福、うぐいす餅、どら焼きに練りきり、それから最中。

それらを机の上にことりと置けばツバキは目を輝かせ、きちんと「いただきます」と手を合わせる。

「ん〜、美味しいです!」
「ふふ、おおきになあ。ツバキの食べっぷりは見ているこっちも気持ちええわあ〜」
「カグヤさんの作る和菓子はどれだけでも食べられます!」

ふんすと得意気な顔をするツバキに思わず少し笑い、先ほど来ていた長い黒髪に袴姿の女の子が脳裏に思い起こされる。

「ツバキもユリちゃんもようけ食べてくれるから、作り手冥利に限るわあ〜」
「え、もしかしてユリちゃん来てたんですか?」
「せやで〜。まあ今日は食べていかずにお持ち帰りしていったんやけどな」
「そうなんですか。あー、もう少し早く来ればよかったなあ」

俺の店で出会ったツバキとユリちゃんは、お互い甘味好きで意気投合していたことを思い出す。そしてユリちゃんがツバキを女性だと勘違いしたのは今となっては思い出の一つだ。

「ユリちゃん、元気にしていました?」
「ふふ、元気いっぱいやったで〜。体重が増えていたと言っていたけど、俺にはそうはみえへんかったなあ」
「女の子は少しでも増えたらすごく気にしますからね。年頃の子は特に」

それで無理なダイエットをするのは体に悪影響だからやめてほしいなあと、医者ならではの観点から言葉を溢す。

その間にもツバキは絶え間なくもぐもぐと和菓子を口に運んでいる。…ほんま、この細い身体のどこに入るんやろうなあ。

これだけ食べてもカロリーが体重となって反映されないからユリちゃんはとても羨ましがるんやろうなあとぼんやり思い、同時に人の体は不思議やなあと一人うんうん頷く。

「?カグヤさん、どうかしたんですか?」
「いや、ツバキはぎょうさん食べるのに細いままやな〜と思ってなあ」
「ああ、俺みたいに量は食べるけど太らない人は脂肪細胞の中の褐色脂肪細胞が多いんですよ。まあ、太らない人は褐色脂肪細胞が多いのかといわれたら必ずしもそうではないんですけどね」
「へえ〜…」
「他にも太らない理由として挙げられるのは、腸内環境のバランスが良い、基礎代謝量が多い、姿勢が良く骨格の歪みが少ないことですかね」
「へえ〜!」

まるで講義をしているかのようなツバキの説明に思わず感嘆の声を出していると、机の上にあった大量の和菓子をぺろりと平らげたようで。

「カグヤさん、ごちそうさまでした」
「ふふ、よろしゅうおあがり」

自分の作った和菓子を食べてくれ、笑顔で美味しいと言ってくれる人がいる。

赤字だろうが黒字だろうが、結局はそれが一番大切やと俺は思う。

「あ、そうやツバキ。今新作の和菓子を作っているんやけど、よかったら味見してみいひん?」
「いいんですか!?ぜひお願いします!」

先ほど大人びた表情で俺の疑問に答えてくれたツバキはどこへやら、新しい玩具を買ってもらえる子供のように花葉色の瞳を輝かせるツバキにくすりと笑う。

今度も美味しいと言ってもらえるやろうかと思いながら、試作品を取りに店の奥へと向かった。


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