季節は巡って、冬。肌を刺す冷たく厳しい風に首巻きに顔を埋める。隣にキュウコンがいるから暖かいけれど、風が吹くと寒さが身に染みる。

「うう…寒いですわ…」

はあ、と息を吐けば真っ白。何か暖かい飲み物でも買おうかしらと思案していると、鼻孔を擽る甘い匂い。

「…あ!」

冬の定番、焼き芋。匂いはこれだったのだと納得すると同時に吸い寄せられるように足を向ける。目を向ければどうやら先客がいるようだ。

雪のような真っ白な髪を高く結わえた、一見すると女の人にみえる綺麗な男の人。

「ツバキさん!」
「あれ、ユリちゃん?ふふ、久しぶり」

ツバキさんは花葉色の瞳に私を映し、柔らかく微笑する。そして今しがた買ったはずの焼き芋を私に「はい」と渡し、ツバキさんは新たにもう一つ焼き芋を買っている。

「?ツバキさん、お二つ食べられますの?」
「ううん、それはユリちゃんの分。今買ったのは俺のだよ」
「まあ、ありがとうございますわ!でもお気持ちだけで十分ですわ」
「いいのいいの。ほら、早くしないと冷めちゃうよ?あっちのベンチに座って食べようか」

焼き芋は熱いうちに食べるのが一番だからね、とツバキさんはふんふんと楽しそうにベンチまで歩く。本当に頂いていいのかしらと思ったけど、ここはツバキさんのご好意に甘えよう。

「寒い中での焼き芋って格別だよねえ」
「本当に…美味しさが一層引き立ちますわ」

寒空の下二人で焼き芋を頬張る。ゆらゆらと揺れるムウマージは焼き芋に興味を惹かれたようで、差し出せばおずおずと口を開いて一口。紅い瞳を瞬かせくるりと舞う。どうやら気に入ったらしいパートナーの可愛らしい仕草に笑う。

時折吹き抜ける北風も私のキュウコン、それにツバキさんのヘルガーもいるから気にならない。むしろ心地好いぐらいだ。

「暖かい部屋で食べるのもいいけど、こうやって外で食べるのもいいね」
「ええ。こうやってツバキさんにも会えましたし」
「ふふ、ありがとう」

ツバキさんはにっこりと微笑む。雪のような真っ白な髪が風にあおられて揺れ、「もう冬かあ」と一人言のように言葉を溢す。

「少し前は秋だったのにねえ」
「寒くなったと思ったら冬ですしね。でも、冬が過ぎたら春ですわ」
「春かあ…。春になったらお花見したいね」
「まあ、是非ともやりたいですわ!私でよければお弁当は用意致しますし」
「ふふ、楽しみにしてるよ。春はお花見があるし、夏は夏祭りがあるし、秋は───」
「「食欲の秋!」」

二人で声と顔を合わせ、くすくすと笑う。
芸術の秋も読書の秋も情緒を感じられて素敵だけれど、私はやっぱり食欲の秋が一番だ。

「そういえば、カグヤさんのお店で売られてた秋限定の和菓子とても美味しかったなあ。ユリちゃんは食べた?」
「もちろんですわ!秋らしくかぼちゃを使ったおまんじゅう…秋限定なのが勿体ないぐらいですわ」
「だよね。こうして話していると食べたくなるなあ。帰りにカグヤさんのお店に寄ろうかな」
「あ、私もちょうどそう思っていましたわ!」
「じゃあ、一緒に行こうか」

ツバキさんの長い睫毛に縁取られた花葉色の瞳が穏やかに笑む。冬の澄んだ冷たい空気に負けない温かな笑顔に私も微笑する。

私たちの間を冬の厳しさを伝える風が吹き抜ける。春はまだまだ遠い。なびく髪を押さえ、先の約束に思いを馳せながらどこまでも透き通った青空を見上げた。



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