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1人の男が道端に座っていた。
私は、おもむろに近づいて行き、男の手を取った。
「ああ、ああ、」
男は唇をすぼめて、言葉にならぬ声を発しながら喜ぶ様子を見せた。
その時、直感した。
彼はおそらく、“人と同じように死ぬことは出来ない。
この廃退した世界は、もはや人間の住む世界ではないのだ。
ならば彼は一体何者だろう。
理想郷の成れの果てと共に廃れて、何者にもなれず
この錆びた建物のようにじっと佇んで
ただ何かを待ち続けていたのかもしれない。
同時に色んなモノを、その眼に映したことだろう。
いつかの傍にいた者達の帰り、再び闇夜を街灯が照らす日を、きっと明日にでもやってくると心待ちにしながら、今の今までここにいたのだ。
この街では、叶わぬ願いや望みを抱きながら
深い眠りにつくものがいる。
ああ、何て惨い姿をしているんだろう。
目に余る現実が、この廃街というかつて栄えていた場所で起こっている。
かつて愛されたはずの人々が、彼が住んだ世界は、人間世界から隔離された空間として、捨てさられた。
私の精神はこれ以上、男の傍にいる事を生理的に拒絶していた。
虫をまとい、皮膚は朽ちて、頭からつま先まで乱れている。それから伺える、男の危篤状態。
見れば見るほどに、私は現実から遠のいていった。
辛かったろう
苦しかったろう
通りすがっただけの私があなたの不遇の叫びを癒すことが出来ないことなど承知の上なのに。
だが、私はどうしてもあなたの手を握らずにはいられなかった。
例え、不快という言葉が適切と判断されるとしても、どうも“ただの不快ではない“と内心の深部が騒めいているのだ。
だから、ただ微笑んで見せた。
辛かったろう
苦しかったろう、悲しかったろう、憎かったろう
行為は一向に、哀れむことに他ならなかった。
「あなたは天使のように死んでいくのですよ」
「嬉しいよ ずっと、1人だったんだ」
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