「……」
本当に独りぼっちになってしまった私は、目的もなくとぼとぼと歩き続ける。地図を見て行く先を目指すこともせず。ただ、立ち止まってしまったらもう動けなくなってしまいそうで、かろうじて動いているのだ。もう心が折れてしまいそうだった。初めてのパートナーと、あんな言い合いをして別れてしまうなんて。本当に旅始めて早々にゲームオーバーが見えてきた。
『…ッそんなに私が気に食わないなら、他のトレーナーの許へ行っちゃえば良いじゃん!!』
――いくらムカついても、新人だとしても、トレーナーが自分のパートナーに対して言っていい言葉じゃないよね…。
最悪だ。あんな形で自分のポケモンを手放すなんて。情けない。…悔しい。
漏れてくるのはため息ばかり。静かだった森の中で、突然草木が音を鳴らしてポケモンの存在に気付くとビクッと体を揺らして、気配を必死に殺すようにして恐る恐る歩きだす…という繰り返し。ポケモンを連れていない私がこの森を歩くのは無謀だ。あんなに怖いヒトカゲでも、バトルが強いことに関しては唯一安心できるところだっただけに。
私、これからどうなってしまうんだろう。
お先真っ暗…とはまさにこの状態のことだろうな。あれ、さっきもそんなこと考えたような。つまりこの旅には希望が全く無いと言うことであって…空は晴れて太陽もあるのに、私には光が見えない。空を見上げてみると木が生い茂っていて光が差し込まれることはなかった。抽象的な表現をしたつもりだったけど本当に光が無くて薄暗い。
そんなことを考えていると、ろくに足元も見ていなかったために躓いてバランスを崩す。咄嗟に体勢を立て直すも、思わずため息を零す。暫くして今度はボーっとしているからか木にぶつかりそうになった。私こんなにぼけぼけしていたかなと思ったけど、今の状態を思えばこうなってもしょうがないと結論づけて再びため息を吐きだした。
「…わあああ!?」
暫くすると、雑草で足元が見えづらい場所で、踏み出した足を着地させるはずの地面が突如無くなったことに驚く。そのまま足を踏み外した私は滑り落ちるようにして雑草に隠れていた段差に対応出来ず転んだ。落ちた先でお尻をモロにぶつけ、痛みで暫く声も出ずに蹲る。落ちついた頃に後ろを振り返って段差を見てみると、多少は斜面になっていても高さは私の身長ぐらいはあった。
何やってんだ、私……本当にダメな奴だ。大好きなサトシとも嫌な感じで別れ、親には家を追い出され、最初のパートナーとも上手くいかず、独りぼっちで盛大に転んで――
「……っふ…うう……」
全てが嫌になってしまって、そのまま膝を抱えて泣きだす。いつもならサトシや家族が慰めて、支えてくれていた。一人になってやっと皆の有難みを実感した。それでも今は一人に変わり無くて、誰も助けてくれる人なんているわけないのだけど。そう思うと不安に押し潰されそうで、この森にいること自体に怖くなってきた。何も出来ない私が、野生ポケモンに襲われてしまうようなことになったらどうしよう。ひとたまりもない。このまま町に到着出来ずに夜になったら、暗い中で一人過ごさないといけないのだろうか。怖すぎる。
「――…ピィカ?」
ふと聞こえた自分以外の声に気付き、涙も鼻水もそのままにひどい有様の顔をあげる。私の正面には見た事のない黄色い小さなポケモンが立っていた。くりくりの丸い目を少し垂らして心配そうにこちらを窺うその姿に、私のことを気にかけてくれてるのだとかろうじて理解できた。
「……君…は…?」
「ピッカッチュウ!」
柔らかな笑顔で答えたポケモンの言葉を頭の中で反芻する。ぴっかっちゅう……ピカチュウ…?
『サトシくんはその日遅刻してな…初心者用の三匹が既にいなくて、ピカチュウを連れていったぞ』
「――ピカチュウって、もしかしてサトシの!?」
フッとオーキド博士の言葉を思い出した私は身を乗り出すようにして目の前にいるポケモン…ピカチュウに訊ねる。でも、ピカチュウは私が突然声を荒げたことに驚いた様子で、不思議そうに首を傾げた。…ああ、違ったらしい。一瞬サトシが近くにいるのかと思って舞い上がりかけた気持ちがしぼんでいき、恥ずかしさに見舞われる。
「ご、ごめんね…探してる友達がピカチュウを連れてたから、まさかって思っちゃって」
「…ピカ」
「心配してくれたんだよね。…ありがとう」
ハンカチを取り出して涙と鼻水を拭い、精一杯に口角をあげてお礼を言う。けどズタボロな心のままな私は今、上手く笑えているのだろうか。そんな私の不安通り、ピカチュウの顔は未だに微妙なもので…どうやら駄目だったらしい。
するとピカチュウは何かを思いついたのか、動作で私に「ここで待ってろ」と伝えると四足で駆け出して草木へと消えた。よく分からないけど動く元気も無いしその場でジッとしていると、暫くしてピカチュウが戻ってきた。ピカチュウが咥えていたのは、木の実が一つ。
「ピカピィカ」
「……私に…くれるの…?」
「ピカ」
足元に置いてから私の方へと前足を使って差し出された木の実。おずおずと受け取り、そっと一口かじってみる。甘酸っぱくて美味しい。思えば久々に食べ物を口にした気がする。今まで不安や緊張、恐怖で、半日以上は何も飲まず食わずだった。慣れない環境にいるから、お腹を空かせるほどの心の余裕が無かったのも事実。けれど、今こうして食べ物を口にして、ピカチュウが優しい表情で私を見守ってくれて、堰を切ったように鳴り出したお腹。
――美味しいなあ。
「……っううう…!」
せっかくおさまった涙がまた溢れだしてきた。でもさっきの涙と違う。旅に出て初めて優しさに触れた。初めて安堵感を覚えた。見ず知らずの私を元気づけようとしてくれたピカチュウの優しさがひどく嬉しくて、ホッとして
「ピィカチュ…」
「ありがとう…ありがとう、ピカチュウ…ッ!」
ボロボロと零れ落ちる涙を拭い続けながら、私は何度もピカチュウにお礼を言った。
2-1 あたたかい
(人の優しさを、家族や友達の有難みを、ひどく実感した)
書き直して内容が結構変わります。
前は簡単に肝心なシーンに行ってしまいましたが、もっとピカチュウの心境の変化や夢主への心を開く理由なんかを書いていけたらなと。