「で、どうしてソラはポケモンも連れずこの森にいるのかな?基本的に、ポケモンを連れずに森に入るのは駄目だって教育を、人間は受けてるはずだけど?」
私が落ち着いた頃、ピカチュウは優しく問いかける。確かに彼の言う通り、小さい頃から私もサトシも自分たちだけで森には入るなと言われてきた。というよりも…私たちマサラタウンの子供だけではなく、どこの地方でも同じように教育されているらしい。ホウエン地方出身のお父さんも小さい頃に親からそう言われて育ったらしいから、きっと皆が通る道なんだろう。
そりゃあ私だって、わざわざ危険なところにポケモンも連れずに入ろうだなんて思わない。そんな勇気も度胸も私には無い。
ちゃんとこの森に入ってきた時には――ポケモン、連れてたよ。
『どうせウマが合わねえのに、これ以上一緒にいても時間の無駄だ』
私が嫌々旅に出たこと、相棒として連れることになったヒトカゲとはてんでウマが合わず、喧嘩をして別れたこと…
隠す必要も無いし、何よりピカチュウが軽い気持ちで話を聞いてるわけじゃないと真剣な表情で分かるから、私は先程まであったことを全て話した。
脳裏を過ぎる、いつまでも苛々した顔のヒトカゲ。「大嫌い」だと言われた時。私が思わず口走ってしまった暴言…思い出すだけで胸が痛くなる。
「……話してくれてありがとう」
「…うん」
ピカチュウと出会う少し前までのことを洗いざらい話すと、ピカチュウは落ち着いた声でお礼を言ってきた。内容が内容だし、多分他人の自分がそうそう聞いていいものじゃなかったと思って、お礼を言ってきたんだと思う。人型の時の見た目はそんなにお兄さんに見えないけど、精神面は凄く大人な人だと思った。
「……僕なんかが偉そうに言うのは君に悪いかもしれないんだけど…そのヒトカゲのために、言わせてもらっていい?」
「…え?」
ピカチュウは一度視線を逸らし、金色の頭を掻いた後、言葉を選ぶようにして慎重に話を続ける。
「…僕たちポケモンが、人間のポケモンになるということは――大袈裟に言えば人生がかかってるんだよ」
ピカチュウの言葉が重く圧し掛かり、どくん、と胸が音をたてる。
「ソラ、ヒトカゲのモンスターボール、まだ持ってる?」
「う…うん」
言われて、私は慌てて腰元に手を伸ばしてまだ一つしかない使用済みモンスターボールを取り出す。ボタンを押していないので、卵ぐらいの小さなままのそれを見下ろしてから、ピカチュウへ視線を戻した。
「モンスターボールってさ、人間にとってはポケモンを手軽に持ち歩けて、ポケモンにとっても自分で移動しなくて済むようになる便利なものだけど…悪く言えば、ポケモンにとっては“鎖”だ。一度捕まえられたポケモンは、トレーナーが自分のボールを手放したりボール自体が壊れたりしない限り、そのトレーナーのポケモンで在り続けなければいけない。たとえトレーナーの許を逃げ出そうと、ボールをトレーナーが持っている限り、新しいトレーナーに捕まえてもらうことも出来ないんだ」
「……」
それは、つまり
ヒトカゲは私の許を離れていったけど…私がこのボールを手放さない限り、ヒトカゲは他のトレーナーのパートナーにもなれないってこと?
「野生として生きていくことは出来るだろうけど、話を聞く限り君のヒトカゲは好戦的みたいだね。でも当然、公式戦には出られない。気に入ったトレーナーの傍に置いてもらうことは出来るだろうけど…それまでだ」
「ヒトカゲもさ、人間のものになるって決めたのなら、それなりの覚悟と期待をしたはずだよ」
「だから…君の、旅に前向きじゃない姿勢は、ショックだったと思うよ」
「――…っ」
ヒトカゲ本人から、私をトレーナーとして認めない理由を聞いていた。けど、その時とは比べ物にならないほどの罪悪感に苛まれる。ポケモンが人のものになるということの重大さが、私は分かってなかったんだ。
私――自分のことでいっぱいいっぱいだった。ヒトカゲのこと…ちゃんと考えること出来てた…?
ヒトカゲの口が悪いからって、私まで反論して、仕舞いには酷いことを言われたからと、反撃と言わんばかりに酷いことを言い返して
『その程度で自分だけ被害者面かよ』
ああ、充分ヒトカゲも被害者だった。私なんかのポケモンになってしまって
『…ッそんなに私が気に食わないなら、他のトレーナーのもとへ行っちゃえば良いじゃん!!』
本当に私、トレーナー失格だ――…
「ほらほら泣かない」
「っう〜…」
せっかくおさまった涙がまた溢れだしてくると、それに気付いたピカチュウが苦笑いを浮かべて私の頬に手を添える。指の腹で優しく涙を拭われた。
「あのさ、人間の性格に色々あるように、ポケモンにも色んなポケモンがいるんだよ」
「…え?」
「ポケモンが傍にいたいって思う人間は、何もやる気に満ちた人だけじゃないんだ」
頬にあてられていた手が、頭に回されて顔を近づけられる。優しい表情で真っ直ぐと見つめてくるピカチュウの赤い瞳を見つめ返しながら、私は思考を巡らせる。
やる気に満ちた人ばかりを、ポケモンが好むわけではない…それってつまり…?
「君と旅をしていきたいと思うポケモンが、絶対現れるよ」
確信に満ちた表情でピカチュウはそう言う。――いったい、何を根拠にそう言いきれるのか 私には分からなかった。
でも、嘘偽りが無い表情・言葉だからこそ、私の心は今こうして救われているんだろうな。
2-5 魔法のような君
(ピカチュウのおかげで、笑顔になれる)
ゲームのシステムを考え込むとこんな感じに辿り着きました←