“ヒトカゲを探そう”


当たり前のように立ち上がったピカチュウにそう言われて、私は何も言葉を返すことが出来なかった。それは驚きと迷いが私の中であったからだ。
驚きというのは、ピカチュウが自らヒトカゲを探してくれると協力を申し出てくれたことに対して。散々迷惑をかけた私なんか、きっとさっさと別れたいと思って当然だ。多分、ピカチュウが相当優しくて、相当面倒見の良い人なんだと思う。本当は遠慮すべきなんだろうけど、正直今の私は彼がいないと何も出来ない自信がある。

それともう一つ、迷い。


「……私…ヒトカゲを探して、良いのかな…」


手に持ったままのヒトカゲのモンスターボールを見下ろしながら、私は呟く。
ピカチュウの指摘を受けて、自分がいかに愚かでヒトカゲのことを考えられていなかったかを思い知った。私なんかにヒトカゲのトレーナーが務まると思えない。ヒトカゲのためを思えば、ここでモンスターボールを手放した方が良いのではないかと。
事実、これから二人で旅をしていくなんて、どうやっていけるんだろうか。彼は私が嫌いなのに。私だって彼が怖いのに。こんなトレーナーとパートナー聞いたことないし、成り立つのか疑わしい。


「……このままヒトカゲを手放したら、また独りになっちゃうよ?」


立ち上がれず俯く私に視線を合わせるように、しゃがみこんで言うピカチュウ。その声は相変わらず優しさを帯びていて、決して怒ったり責めているわけではないと分かる。
でも、私の心がズンと重くなったのを感じた。今こうしてピカチュウは傍にいてくれてるけど…一時だけの話なんだ、とピカチュウの言葉で現実を突きつけられたような気分。ヒトカゲと旅をしようと、しなかろうと、ピカチュウとはいずれお別れなんだな…。


「まだ出会って少しでしょ?お互いに相手の知らないことが多いんじゃない?それなのに、このまま別れちゃうのは勿体無いと思うな」


言い様のない寂しさを抱いている私には気付いていないのか、ピカチュウはそのまま続ける。


「時間を費やせば、どれだけ嫌いな相手でも見直す瞬間だってくるんだよ」
「…そうかなぁ…」
「そうだよ。僕がそうだったから」


ピカチュウの言葉に、私は先程の彼の言葉を思い出す。そういえばピカチュウ、私に対して最初良く思ってなかったんだっけ…ショック受けたからよく覚えている。でも、そのあと確かにピカチュウはこう言ってくれた。
“私の良さをやっと知れた”と。――信じて、良いのかな。

差し出されたピカチュウの手を見つめて少し躊躇うも、恐る恐るその手をとる。重ねられた手を握るなり、グッと引っ張られ立ち上がると、ヒトカゲを探す間もピカチュウは私の手を握ってくれていた。…私の不安を和らげてくれるように。



▼△▼



『のお、ヒトカゲ。お前にどんな目的があるかわしは分からんが、まだ目的への過程が長いなら旅に出るのはどうじゃ』



木の枝に器用に腰掛けてボーッと青空を見つめている間、ヒトカゲがふと思い出したのはオーキドの言葉だった。



『――…あ?』

『新米のトレーナーのポケモンとなり、共に強くなっていく。やる気と期待、不安を抱いたトレーナーの力に、お前がなってやる。きっとヒトカゲも心身ともに成長すると思うぞ』

『…俺は一人で良い』

『強くなりたいんじゃろう?一人では限界があることも、仲間と一緒なら超えられるものもある』



別にそんなもの望んじゃいなかった。ただ旅をしていけば手練れのトレーナーとも出会える機会があるからと言われ、ただ強い相手を求めてオーキドに対し小さく頷いた。
それでもこれから毎日一緒にいることになるなら、とトレーナーに少なからず期待したのは事実だ。

新人なのだから、実力に関しては全くもって期待していなかった。
それでも新人だからこそ、世間の辛さなど知りもしない輝いた瞳で旅立つ子どもを予想していた。良くも悪くもやる気に満ち溢れ、これからの旅に対して期待で胸を膨らますような、トレーナーを。

――こればかりは、期待などしてしまった自分が悪いと思わざるを得ない。



「君がヒトカゲー?」


下方から聞こえた声に気付き見下ろせば、初めて見る金髪の少年と――少年と手を繋ぐソラがいた。目を合わせることも出来ないのか俯いて帽子のツバに顔を隠す彼女に気付き、眉間の皺を増やす。そんなヒトカゲの表情の変化に気付いたのか、少年…ピカチュウは探していた人物だと確信を得ると、返事が無いことも気にせず続けて声をかけた。



「ねえ、僕とバトルしない?」





2-6  それぞれの迷いと後悔

(それでも前に進まなくては)


次回少しバトル



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