「ねえ、僕とバトルしない?」
勿論、ヒトカゲがすぐに頷くはずが無かった。それはバトルに臆しているというわけではなく、突如現れて意味深な笑顔を浮かべてバトルを申し込んできたピカチュウに対し警戒しているのだ。私としてもそんな話聞いていなかったので驚いた。狼狽える私を後ろに、ピカチュウはヒトカゲの反応は予想の範ちゅうだったのかそのまま言葉を続けている。
「勿論タダでとは言わない。君が勝ったら――ソラが持つ君のモンスターボール、壊してあげる」
「!」
クイッと親指で私を指差したピカチュウ。「ボールが壊れれば君は晴れて自由だよ」と、ヒトカゲにとって魅力的な言葉だ。バトルに次いで聞いていなかった賭けに誰よりも私が一番慌てていた。バトルだけで私とヒトカゲの今後が決まっちゃうの?そんな無茶苦茶な。今までがとても大人だったピカチュウのすることだからと安心して頼っていたけど、まさかこんな突飛なこと言いだすなんて。もしかしてヒトカゲが旅に出たばかりだからって、レベルが低いと思ってナメてるのかな。
「ぴ、ピカチュウ!ヒトカゲ、あれでも強いんだよ…!ここらへんの野生ポケモン、簡単に倒しちゃうようなポケモンだよ!」
「大丈夫だから」
ヒトカゲのことを伝えてもピカチュウは相変わらず笑みを浮かべたまま動揺一つ見せない。
「ただし、君が負けたら、ソラと一緒に旅してもらうからね」
「――上等じゃねぇか。勝ちゃ良い話だ」
ピカチュウはしっかりと釘をさしておいたけど、ヒトカゲもやっぱり自信があるからニヤリと笑った。持ち出された賭けにのったのか、高い木から身軽に飛び下りて着地する。10メートルぐらいは高さありそうなのに、凄い。
ヒトカゲが原型に変わり臨戦態勢になったところで、ピカチュウも原型になって構えた。
『先手は譲るよ』
ピカチュウが何かを言うと、ヒトカゲが攻撃を仕掛けバトル開始となった。口出しなんて到底出来ない私は少し離れた場所でバトルの行く末を見守るしかない。
ヒトカゲの“火炎放射”にはピカチュウも少し驚いた表情を見せたけど、素早い動きで華麗にかわしている。ピカチュウの攻撃もヒトカゲはしっかりとかわしつつ攻撃を仕掛けていたけど……そのやり取りが続くにつれ戦況が変わって行くのが、素人目にも分かった。
ヒトカゲが…押されてる。
「チュ〜〜〜〜!!」
ピカチュウの丸く赤い頬に電気が走ったかと思えば、体勢を僅かに崩したヒトカゲへ強大な電撃攻撃となって襲いかかった。その隙をついた攻撃は、今までに見た攻撃よりも明らかに威力が違う。多分ヒトカゲの隙が出来るのを狙っていて、ずっと本気を出していなかったんだ。
最初から本気を出していたヒトカゲとの差は…経験、なのかもしれない。
「…ッ」
『勝負ついたね』
地面に倒れたヒトカゲと着地したピカチュウ。あのヒトカゲが、倒れている。信じられない光景に私は瞬きを繰り返すばかりだった。上には上がいるっていうのは、本当だったようだ。ピカチュウが「大丈夫だよ」と言っていたのが納得できる強さだった。無事にピカチュウの勝利ってことは…ヒトカゲは私と旅してくれるってことだよね?で…でもこんな形で良いのかな…。
「ピィ!?」
ピカチュウの驚いた声が聞こえたと思って自然と俯いていた顔を上げると、ピカチュウが木から吊るされた網に捕らわれていた。
「え!? ピカチュウ、どうして…!」
「おーっと!これ以上近づくなよ!」
「!?」
慌ててピカチュウに近づこうとすると、突然目の前に人が現れる。立ち止まって見上げると、胸に「R」の文字がプリントされた白い洋服を着る、男女二人とポケモン一体がいた――
2-7 彼らは
(突然の展開についていけない!)
長くなってしまったので分けた結果、この回は短くなりました。