ピカチュウが網に捕らわれ、助け出そうとした時に現れた男女二人とポケモン一体。男女は明らかに大人で、怪しい笑みを浮かべる姿から…とても良い人とは思えない。


「な、何なんですか…っ」
「なんだかんだと聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」


怖い気持ちを必死に抑えて問いかければ、二人は何か口上のようなものを交互に言い始めた。


「世界の破壊を防ぐため」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の悪を貫く」
「ラブリー・チャーミーな敵役」

「ムサシ!」
「コジロウ!」

「銀河をかけるロケット団の二人には」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」
「ニャーんてな」


赤い長髪の女の人がムサシ、男の人にしては長めな紫色の髪をもつのがコジロウというらしい。そして…ポケモンが喋った。思わずポケモン図鑑を取り出して名前を調べると、ニャースというらしい。でも図鑑で見るイラストとはニャースの雰囲気が違うような…そうか、図鑑は四足だったけど、目の前にいるニャースは二足歩行でいるんだ。なんというか、とても人間らしい。


「ニャースって…喋れるポケモンなの…?」
「ピカピカ…」
「違うニャ!ニャーだけが特別なんだニャ!」
「す、凄いんだね」


網に捕らわれたままのピカチュウにまで「違うでしょ」と呆れたように首を横に振られ、ニャースにも怒られた。私が思わずニャースのことを褒めると、何だか満更でもないのか照れた様子だ。最初は良い人には思えなかったけど…何か、悪い人じゃない、のかな?


「あの…ピカチュウを放してください」
「なーんでせっかく捕まえたピカチュウを手放さなきゃいけないのよ!」


淡い期待を抱いて要求してみたけど、あっさりとムサシに断られてしまった。そ、そうですよね…。


「さっきの“10万ボルト”、只者じゃなかったニャ!きっとサカキ様も喜んでくれるはずニャ」
「おっ、そこにいるのはヒトカゲだな。ヒトカゲも中々野生では捕まらないポケモンだし、一緒に連れていこうぜ」
「!!」


ピカチュウの渾身の攻撃をくらったヒトカゲは未だに動けないのか倒れたままだ。意識はあるようだけど、体が思うように聞いてくれないよう。コジロウの言葉に私はハッとしてヒトカゲの前に立ちはだかる。ピカチュウのことも助けたいけど、その前にヒトカゲまで連れていかれるなんて絶対にごめんだ。


「この子は私のポケモンです…!」
「俺達ロケット団は野生だろうが誰かのポケモンだろうが…関係ないんだよ!」
「ッ!」


コジロウに力づくで退かされて地面に転ぶ。そのままヒトカゲに近づこうとするコジロウを止めたくて足にしがみついて抵抗した。私にはこんなことしか出来ないけど、でも、何もしないままヒトカゲとピカチュウが連れて行かれることだけは避けたい。
私を引き剥がそうとコジロウが足を動かすけど、体や顔に足がぶつかって痛いけど、必死に腕に力を込めた。倒れたままのヒトカゲがこんな惨めな私の姿を見つめていたなんて、知りもしなかった。


「何よしつこいジャリガールね!アーボ!出てらっしゃい!」


とうとうムサシがアーボというポケモンを出す。黄色く鋭い目が怖くて体が竦みそうになる。「“体当たり”よ!」とムサシの指示。まさか、人間に技を使ってくるなんて。それはポケモンの技の中では威力が低い方の技だったかもしれないけど、それなりの大きさのアーボに体をぶつけられるのはどう考えたって痛い。それでも今更、地面に這った状態の私は逃げられるわけもなく、痛みを覚悟してギュッと目を瞑った。


「カーー…ゲッ!!」
「シャァ!?」


声が聞こえて目を開くと、怯んだアーボと私の側に立つヒトカゲがいた。ボロボロの体だけど、しっかりと立っているヒトカゲはどこか頼もしくさえ見える。改めて襲いかかってきたアーボに対して"火炎放射"を出して気を失ったのを確認すると、立ち尽くしているコジロウを見上げ、静かに顔面に向かって"火炎放射"をかました。肩から上だけまる焦げ状態のコジロウは狼狽えてムサシとニャースの方にまで退く。


「くっそ、こうなったら俺だって!いけ!ドガース!!」


悔しげにコジロウもポケモンを出してきた。二対一では明らかに不利じゃないかと思ったけど、そんな私の不安を払拭するほど簡単にアーボとドガースを蹴散らす。敵に向けた"火炎放射"が丁度網を焼いてくれて、網から脱出できたピカチュウも加わり、二人の技によってロケット団とやらは空の彼方へと吹っ飛ばされていった。
呆然と様子を見ていただけの私に、ピカチュウが人型になって駆け寄ってくる。


「ソラ、大丈夫!?」
「え、うん……ピカチュウこそ」
「僕は全然、網に一度捕まっただけだから」


確かにピカチュウは無傷のようだった。私はそれを確認するなり、背を向けたままのヒトカゲへ視線を向ける。


「ヒトカゲ……助けてくれた…?」


私に危険が迫った時、倒れたままだったヒトカゲが立ち上がってくれた。攻撃をしてくれた。ボロボロなのに勇ましく戦って、最後はピカチュウと一緒にロケット団を追いやってくれた。
戸惑いと嬉しさにどういった感情表現をすべきなのか分からず、きっと私は変な顔をしていただろう。
ヒトカゲは人型になると、振り向く。その表情はどこか忌々しげだった。


「勘違いすんじゃねぇ。俺は無抵抗の奴が痛めつけられんのを黙って見過ごすことは絶対しねぇ。相手がたとえ嫌いな奴だろうが、それが俺の信念だからな」


口ぶりからして私は未だに嫌われているらしい。どこか淡い期待を抱いていたものを難なく一蹴され、胸は少し痛んだ。けど、私は気付いたことがあるのだ。

彼は無愛想で口が悪くて乱暴だけど
きっと、悪い子ではない。

寧ろ私と違ってハッキリと物事を言えて、芯の通った真っ直ぐとした人だ。

ヒトカゲに心を傷つけられて散々酷いこと言われて、私は勝手に誤解して勝手に苦手意識を持っていた。けど…根が悪いわけじゃない。私のことが気にくわなくてぶつかってしまったけど、でもきっと、


「…助けてくれて、ありがとう」


自然と口をついて出たお礼。ヒトカゲは表情を変えることなくそのまま前を向いてしまったけど、私は構わずに続けた。


「それと、自分のことばかりで、ヒトカゲに酷いこと言ってごめんなさい」


ちゃんと、彼のこと理解したい。ちゃんと分かち合って、仲良くなりたい。これから旅をしていきたい。

淀みのない澄んだ翠色の瞳を信じたいと思ったんだ。





2-8  きっと

(これから変わっていける…よね)


ヒトカゲの鳴き声やりづらい



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