「ソラ、ところで旅に出て何する?」


ポケモンセンターで朝を迎え、荷物の支度を整えている間に聞かれたキアからの質問に、私は固まる。“旅に出て何をするか”――…そうだよね、本来旅とは何かしら目的があって行うものだよね。だけど私はお母さんから強制的に家を追い出された形であり、旅がしたかったわけでも何か目的があったわけでもない。家で何をしていたか思い出しても、その日に思い思いに実りない日々を過ごしていた自分しか思い出せない。……そう思うと私って本当つまらない人間だと思う。

キアは私が家から追い出されたのを既に聞いているから、特に何も考えずポケモンセンターを出る準備をしていた私にそう問いかけてきたのだろう。


「……な、何…しよっか……」


苦し紛れに返す私に、部屋の隅に居たヒトカゲから舌打ちが聞こえてきた。居た堪れない…。
キアは予想通りの反応が返ってきたからか少し苦笑いを交えつつ、人差し指をたててある提案をした。


「それじゃあ、ジム巡りはどう?」
「…ジム?」
「そう。聞いたことない?ポケモンジム」


…聞いたことはある。そりゃあやっぱり親がポケモントレーナーだっただけに、親や親のポケモン達からそういった話は嫌でも聞くことがあった。実力のあるトレーナーがジムリーダーを務め、私達のようなトレーナーはジムリーダーに勝つことでバッジを貰える。そのバッジを八つ集めると、ポケモンリーグに出られるんだっけ。


「…知ってはいるけど…私、ポケモンリーグとか別に興味ないよ…」
「リーグ戦は新人トレーナーのソラには現実味が無いもんね。それはまた置いておいて、ジム戦が目的」


せっかくの提案に対して前向きな返事が出来ず、恐る恐るキアの表情を窺いながら答えた。キアは私の不安に反して口元に笑みを浮かべながら説明を続ける。


「ジム戦ってただポケモンバトルするだけに見えるけど、そのバトルに勝つためにポケモンと協力したり、一緒に強くなったりして、自然とコミュニケーションをとり成長することができる。旅するにあたって、色々経験出来ると思うな」
「……」
「バッジっていう目に見える旅の証もあるしね」


嫌なら、無理強いはしないけど。
最後にそう付け足したキアの、大人びた姿勢にまた凄いなあと思いつつ。私は先に旅だった幼馴染のことを思い出した。サトシは、ポケモンマスターになりたいって言って旅に出ていたな。ということは、リーグ戦に挑戦するためにバッジを集めるんだろう。サトシは真っ先にジムに飛び込んでいきそうだし、元気よくポケモンに指示を出す姿が思い浮かぶ。いや、まあ気持ちが先走りすぎて空回りしそうでもあるんだけど。
でも…私よりはよっぽど、現実的なビジョンだなあ。


「……キア…私、ポケモンバトルのこと、本当に何も知らないよ…思った以上に出来ないよ」
「はは、新人なんだからバトル出来なくて当然。やったことないんだからさ」


「逆に、挑戦してみなきゃずっと出来ないままだよ」


分かってる。そんなこと頭では分かっているのだ。何もかもやってみなきゃ始まらないということは。ただ、自分への自信の無さや未知の世界に対しての漠然とした不安や恐怖が私を怖気づかせる。でも、このままでは目的も無いままだし、旅をするからにはポケモンバトルは避けられないわけで…。



「……っだあああ!! 焦れってぇな!!」


迷う私とそんな私を急かすこともなく待ってくれているキア。部屋の中には沈黙が訪れたけど、それを打ち破ったのはヒトカゲの声だった。大きな声にビクッと体を揺らしたのも束の間、私の腕を掴んで乱暴に引っ張るヒトカゲ。


「迷うぐらいなら行きゃぁいいだろ!!」
「えっ…え、ええ!?」


ずかずかと歩き出すヒトカゲに、私はろくな反論も浮かばないまま引っ張られる。後ろから呆れた様子で私の荷物を持って追いかけてくるキアが見えて、私は助けを求めるように視線を向けた。キアは私が視線を向けるまでもなく助け舟を出してくれる。


「ちょっとー無理矢理だよヒトカゲ」
「うだうだ悩んでる方が悪ィんだろうが!! 行きたくねぇならハッキリそう言えよ!!」


別に、行きたくないというわけじゃない。行かないといけない気はしていた。ただ踏み出せないだけなのだ。いつだって新しいことに挑戦する時は、たとえ些細なことであってもすぐに行動に起こせない、それが私なんだ。勇気を出すにも時間が必要なのだ。心の整理も必要なのだ!


「い、今から…!? 今からなの!? まだ意見を提示されただけだよ…!!? 今すぐやるかなんて聞かれてないよ…!!」
「迷ってるうちに悪い方向に考えるだけだろうが!! 時間の無駄だ!! 行きたくねぇわけじゃねぇんならこのまま行く!!」
「……うん…まぁわりと正論かも」
「キアまで…!!」


いつだって味方でいてくれたはずのキアにまで見限られてしまった私が、ヒトカゲに敵うわけがなかった。確かにヒトカゲの言うとおり、考えれば考えるほど悪い方向にいっちゃうけども。私が決意するまできっとだいぶ時間はかかるだろうけども。だけど、これからの旅の第一の目的になるんだから、しっかりと考えたって良くないでしょうか!
ヒトカゲは幼くて私よりも身長が低いくせに、私の右腕を掴んでいる腕は逞しくて脂肪もあまり見られない。きっと鍛えていて力があるだろうヒトカゲの腕を、私が振りほどけるわけもなくて。今の私に出来ることは、ずかずかとポケモンセンターの廊下を進むヒトカゲとずるずると引っ張られる私の後ろで、小さく笑いながらついてくるキアを恨めしげに睨むことだけだった。






4-1  保護者な気分

(余計なことまで考えちゃうソラには、ヒトカゲの強引さが必要かもね)


ヒトカゲはチビですが腹筋が割れてます。



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