3メートル程の距離。ヒトカゲが先を歩いているのか、私が後ろをついているのか。ヒトカゲが一緒に歩く気が無いのか、私が隣を歩く勇気が無いのか。
(多分、どっちもだろうなぁ…)
トキワシティを出て、ニビシティに向けて移動を始めた私たち。キア曰くトキワの森を歩きながら、私は前を歩くヒトカゲの背中を見つめ小さくため息を零した。
長期戦になるとは思っていたけど、さっきのヒトカゲの突然変わった態度を見たあとだと更に仲良くなれるとは思えなくなってしまった。怒らせてしまった、というとまた違うのかもしれないけど…そのきっかけを作ったのはキアだ。キアの問いかけに対してのあの態度の変わり様だったから、何か琴線に触れてしまったんだろう。直接あの怒気にあてられたキアよりも恐怖に竦んでしまった私は、未だにそれを引きずっている。いや、あんなの見たら、今までとまた違った意味で怖いもの。
正直想像がつかない。私とヒトカゲが仲良く出来ているところなんて。
私の横を歩きながら他愛ないことを話しかけてくるキアは至って普段通り。さっきの二人を思い出して不安しかない私は、平然としているキアと、ずっと振り向く様子のないヒトカゲを交互にちらちらと見てしまう。その視線の動きに勿論キアが気付かないわけがなく、ふと口を閉ざしてじっと私の顔を覗き込んできた。もしかして変な態度とって癇に障っちゃったのかな?と不安にかられる。
「──もしかして臆しちゃってる?」
少し潜めた声で尋ねられた内容は主語が無かったけど、私には何のことかすぐに分かった。問いかけてきたキアのことも、その“主語”の相手も見ることが出来ず、視線を彷徨わせた挙句俯いて小さく頷く。するとキアは私の返事は分かりきっていたようで、にこっと笑顔を向けてきた。
「大丈夫だって。あいつがいくらキレようと僕には敵いっこないんだから」
「聞こえてんだよ!!」
キアが普通の大きさの声でいえば、前を歩いていたヒトカゲが振り向いて怒鳴ってくる。だけどそれはさっきの異質な雰囲気とは違って、私の印象に根付いたままの怒りっぽいだけのヒトカゲだ。最初はこの怒鳴り声でびくびくしていたけど、さっきのを見たあとだと少しホッとしていた。怒ってるのに、変なの。
「聞こえるように言ったからね」
「テメェ調子乗ってんじゃねぇぞ、たかが一回勝ったぐらいで。あんなのマグレだ!俺が少し手抜いてやったんだろうが!!」
「駄目だね、誰相手であれ油断してる時点で君は一歩劣ってるんだよ」
「俺が誰に劣ってるだ!? アァ!?」
「僕にだよ」
声を荒げるヒトカゲに対し、キアは余裕の表情だ。何か気持ちの持ち様からして勝敗が見えている…。
キアはさっきのヒトカゲの怒気をあてられたというのに、そんな相手に対して平然と、しかも挑発させるようにからかっている。確かに今のヒトカゲは、キアに弄ばれているのもあってか全然怖いとは思わない。でも気まずいと思わずに普通の態度でいられるって凄いことだ。ヒトカゲもそういう意味では、キアに空気を戻してもらった立場なんじゃないかな。
ヒトカゲからギャーギャーと言われているのをさらりとかわしつつ私へと視線を向ける。その表情は得意げで、「ほらね」と言っているようだった。多分私たち三人のなかで、一番頼りになるのはキアだ。私もヒトカゲも彼に敵うことは無いだろうなあ。その上下関係が何だかおかしくて私は小さく笑いながら頷いた。
うん、キアの言うとおり、大丈夫そうだ。
▼△▼
トキワシティを旅立って一週間を過ぎたけど、相変わらずヒトカゲとの距離は変わらないまま私はただただ彼の後ろを付いて行く。時々はち合わせるトレーナーとバトルする羽目になったり、やる気満々な野生ポケモンともバトルをしたけど、特に私がバトルに慣れることもないしヒトカゲも私の指示を聞いてくれることもなく――進歩は無いままだ。ヒトカゲとキアが強すぎるというのもあるんだと思う。だって私がろくに考えずに指示した技でも、キアは呆気なく相手をダウンさせてしまう。ヒトカゲに至っては自分で勝手に技出してあっという間に勝ってしまうし。兎にも角にも、私はだいぶレベルの高いポケモンたちと巡り合えたようで、それも相まって私がトレーナーとして成長する機会がない。
トキワの森を抜けて2番道路を進み始めたのは数日前だ。迷いなく進むヒトカゲのおかげというか、私は最低限のルートを無駄なく歩いているように感じていた。
「ほんとに道知ってんだ。だいぶ早く到着出来そうだね」
「…え?」
「ニビシティ。ほら、見えてきた」
私の隣を歩いてくれていたキアが指差した先を見ると、ヒトカゲが歩くもっと先の方に町が見える。す、凄い…何となく感じていたことだったけど、やっぱり通常より早く到着出来るようだ。歩いて町から町へ移動するっていうことが想像つかなかったけど、もっと日数がかかるものだと思っていた。勿論、毎日朝から夜まで休憩を挟みつつ歩きっぱなしだし、ろくに寄り道もしてないし迷わずに進めたからだろう。キアからも最短ルートだったから、と補足を入れてくれて納得すると同時に、先導してくれたヒトカゲには感謝した。というか、キアもニビシティまでの道のりは何となく分かるんだな。
「まぁ、もっと色々探索したりバトルに勤しんでゆっくり旅するのも良いと思うけどね」
「でも、迷わずに行けたからありがたいよ。私地図見るの自信無いから」
…でも、感謝してるんだけど、それを本人に伝えるのは勇気がいる。近くにいてくれればまだしも、声を張り上げないと相手には聞こえない距離で、ヒトカゲは歩いている。仲良くもない相手に大声出すことも無いし、どんな反応されるか分からなくて自信が無いし、ヒトカゲに駆け寄る勇気も無いから、私はそのままヒトカゲの背中を見つめるしかない。本当、臆病な人間。サトシみたいなコミュニケーション能力とか、余計なことまで考えないところ、私にも分けてほしいよ。
4-3 目に見える距離
(いつか、距離を縮められたらな)
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