「よし、ジム行くぞ」
ニビシティに到着してのヒトカゲの一言目がこれだった。
もう空は夕焼け色だというのに、平然とそんなこと言うものだから当然驚いた。道中、到着時間からしてジム戦は明日になるだろうと勝手にふんでいたからだ。勿論心の準備も出来ていないわけで。狼狽える私を余所に私の腕を掴んでずかずかと街中を進んでいくヒトカゲ。何だかデジャヴ。
助けを求めるようにキアへ振り向くと、キアはため息交じりにヒトカゲへ声をかけた。
「ヒトカゲ慌てすぎ。明日まで待ちなよ」
「あぁ!? 待ってられっかよ!!」
「今日は体力回復が優先」
「これっぽっちも疲れちゃいねー」
「ソラが大変でしょ」
その言葉に、キアを見ていたヒトカゲの視線がこちらに向いた。ぎろりと睨みつけられ、言葉は無いけど「足引っ張るな」と言っているのが感じ取れた。怖い。
そりゃあ体力のありそうなヒトカゲやキアと比べれば、私は人並みだ。いくら体力馬鹿のサトシと遊んでいたとはいえ、サトシと遊んでる時でも体力の差を何度か思い知ったことがあるぐらいだから。人間のサトシとでも差があるのに、ポケモンの二人とでは差があって当然だろう。いや、サトシのことも普通の人間と考えちゃいけないかもしれないけど。
「そんなに急かして余裕無さ過ぎじゃない?」
でも、キアのこの言葉で状況が変わってくる。
ヒトカゲとほぼ同時にキアを見れば、キアはヒトカゲのことを嘲笑うような笑みを浮かべていた。この表情とさっきの言葉に、ヒトカゲが反応しないわけがなかった。
「あんだとテメェ!」
「だってそうでしょ?ジムが逃げるわけでもないし。そういう待てる余裕が無い感じが本当子どもっぽいっていうか…」
キアが明らかにヒトカゲの癇に触れることを言っている。勿論わざとだろう。上手くジム戦を明日に持ち込むためへの。
なんというか、既にヒトカゲってキアの掌の上で弄ばれているような…。きっとキアが人の性格をよく理解しているからこそなんだろうな。美少年だしバトルも強いし、優しいし知識もあるし、コミュニケーションをとるのも上手いし。今のところ彼の欠点が見つかりません。
キアに任せておこうと、私は下手に口出しすることなく傍観。話からしてジム戦は明日になるようです。よかった。
だけど――
「じゃあテメェ今から俺と戦え!!」
「血気盛んだなーもう。まぁいいけど」
呆れながらも頷いたキア。どうやらこれからバトルが始まるようだ。
「俺が勝ったら、あの賭けはまだ有効だろうな!?」
「――いいよ、ずっと有効で」
ヒトカゲの言葉に対して一瞬面食らったキアも、ニヤリと笑みを浮かべて頷くのだ。ちょっと待って、賭けってもしかしてヒトカゲのことだよね?ヒトカゲが勝ったらヒトカゲを手放すっていう……。
トレーナーである私を差し置いて勝手に賭けを含めてバトルを始めようとする二人に私は驚きを隠せなかった。キアなら大丈夫かもしれないけど……ヒトカゲは前のバトルは油断したって言っていたし。ヒトカゲも自信満々なところを見ると何か策があるのかもしれない。
「き、キア…!」
「大丈夫だから。僕だってまだ本気出したわけじゃないし」
「でも賭けるなら負けられないし、これからは手を抜かずにいこうかな」
止めようとする私を宥めるキアは相変わらず余裕たっぷりな声音で。
寧ろヒトカゲの後に続いてバトル出来そうな広い場所へと移動する彼の表情は、気持ちいいぐらいの笑顔で。
(あ、あれ?)
――その笑顔が、何だか怖く見えた。
その後、キアとヒトカゲのバトルが始まったけれど……最初のバトルよりも早くに呆気なくキアが勝ってしまった。どうやらキアも最初は本気なんて出してなかったようで、本気を出したキアにヒトカゲは歯も立たないらしい。私のため、キアが負けないようちゃんとバトルをしてくれてるのだと分かっても、少しだけヒトカゲに同情を覚えてしまった。なんというか、キアは敵に回したくないなあと思いました。
▼△▼
ポケモンセンターに到着し万全の態勢でジムに挑むため、ヒトカゲとキアをジョーイさんに預けた。そして私はトレーナーカードを使い一室借りられることになる。本当に凄い優遇ぶりだと思う。部屋は二段ベッドが置いてある簡素な部屋だったけど、無料なのにケチをつけるつもりなんて無いし。それよりもトキワシティとは部屋も違うことに少し驚いた。外観も全く同じじゃないとは思ったけれど、どうやらそれぞれ個性があるようだ。
トキワシティのポケモンセンターには無かった二段ベッド。私は二段ベッドとか使ったことがなかったので、ちょっとウキウキしながら上のベッドへと登る。せっかくなので!
電気を消して布団に潜りこむ。旅を始めてからお布団の有り難さを身をもって実感する。仰向けになれば天井は思った以上に近くにあって不思議な感覚だった。
(明日はジム戦かあ…もう今度こそ逃げられないよなあ)
朝起きたら、ヒトカゲとキアをジョーイさんから返してもらい、きっとそのままジムに直行だ。ヒトカゲが急かすだろう。
イメージトレーニングなんてものもしてみようかと試みたけど、ジム戦で相手がどんなポケモンを出してくるかも分からないのにイメージしようがなかった。それだけにやっぱり不安だ。ジムリーダーも凄いトレーナーだから、きっと自分にも他人にも厳しいような怖い大人の人だろうな。もしかしてトキワジムにいた感じの悪いボディガードと似たような体格の人かもしれない。それだけで威圧感…怖すぎる。
ネガティブ思考を存分に発揮している私を止めてくれる人なんて今この場にはいない。天井と睨めっこしながらぐるぐると考え込み、眠気なんて訪れるはずもなく。
それに…
(………)
一人ぼっちだ。
今までは家族がいる慣れた我が家だったし、マサラタウンを出てもヒトカゲとキアがいた。でも今は本当に一人ぼっち。
明日への不安も相まって、妙な恐怖心を煽られた。
(ね、眠れないよう…!!)
4-4 ジム戦前夜
(サトシぃ…!!)
キアはたまに腹黒です。