「お待たせしました」


翌日。私は荷物をまとめて早速カウンターに行きジョーイさんへと声をかけた。奥に入って暫くして戻ってきたジョーイさんの手には、ヒトカゲとキアがちょこんと座るトレイが。疲れ一つ見られない二人にジョーイさんの許でよく休めたんだなあと他人事のように考える。だけどすっきりした顔でいた二人は、私の顔を見るなりぎょっとした。


「ピイカァ!?」
「おはようキア、ヒトカゲ」


どうしたの!? と言わんばかりのキアだけど、実際に何て言っているのかは分からないのでとりあえず挨拶しておいた。そんな私の声は情けないぐらいの弱々しさで、我ながら大丈夫なのかと思う。



「ソラ、その目元のクマどうしたの!?」


ポケモンセンターを出るなり、人型に変わったキアが訪ねてきた。やっぱりどうしたの?って聞きたかったんだ、相手の気持ちを理解出来てるみたいで何だか嬉しい…と一瞬思ったけど、この顔じゃ聞かれることなんてだいたい絞られてくるよね。
そう、私の目の下にはうっすらとではあるがクマが出来ていた。10歳でクマ作るってどうなんだろう。


「色々考え込んでたら中々眠れなくて…ちょっとしか寝てない」


そうだ。今日のジム戦のことや一人ぼっちの怖さなんかで目が覚醒しっぱなしだった。歩き疲れたおかげでやっと寝つけたのは朝方。いつもの半分も睡眠時間がとれていなかった。こんなの初めてだ、夜更かししたことやほんのりと明るくなってくる空を見たのは。この旅に出て初めてのことばかり起こっている。


「こっちが万全の態勢でもトレーナーが万全じゃないじゃん…!」
「大丈夫、うん、大丈夫大丈夫…!」


呆れた表情のキアに、私はほぼ自分に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返した。うん、だってキアもヒトカゲも強いし、ヒトカゲなんて私の指示聞かないだろうし…。
私なんて大した役割をもたないと思う。今まで通りの指示を出すだけでも、キアの圧倒的な強さならすぐに勝ってしまうように思える。夜更かしまでして悩み続けた結果、私はそんな結論に辿りついていた。一種の開き直りだ。

ヒトカゲにはこんな私に案の定といいますか、舌打ちをされ
キアは心配そうな顔で私を窺っていたけども
私は気を取り直してニビジムの場所を地図で確認する。


地図を参考に歩みを進めればあっという間にニビジムに到着した。
ポケモンセンター同様、ジムも個性が出るようだ。外観からしてトキワジムとは全然違っていて、岩をモチーフにしたような建物だ。


「……」


な、なんか…やっぱり怖いな。
トキワジムみたいなボディーガードはいないみたいだけど、建物が既に厳つい。こんな建物のジムリーダーって、やっぱり昨日イメージしたような体格が良くて怖い雰囲気の大人の人では……。そんな人と相対するって、結構…いやかなり緊張します。
ど、どうしよう、こんな目にクマ作ってるような状態で大丈夫だったのかな。確かにヒトカゲもキアも強いけど、トレーナーが基礎知識ないからなあ。「トレーナーがポケモンを駄目にしてる」とか「宝の持ち腐れ」とか言われたら否定できない。

さっきの開き直りはどこに行ってしまったのか。ネガティブ思考のオンパレードです。


「ソラ」
「!」


自然と下へと落ちていた視線を、名前を呼ばれて反射的に横にいるキアへ向けた。キアはいつも通り、焦りも不安も見せていない落ち着いた様子。口元には笑みを浮かべていて、すっと私の手をとった。


「大丈夫だよ」


キアのいつも通りの笑顔と、握られた手から伝わる体温が、自然と私の心を落ち着かせていく。
…ああ、キアってやっぱり凄いな。私の不安にいち早く気付いて、すぐにそれを取り払ってしまうのだ。この人の頼もしさは凄い。


「頑張るからさ。僕もヒトカゲも」
「別に俺はテメェのために頑張らねェがな」


私を突っぱねるようなヒトカゲの言葉でさえ、今は不安を取り払う材料にしかならないのだ。何だろう、彼らしいというのかな。キア同様にヒトカゲが通常運転なのは、やっぱり自分への自信に満ち溢れているからで、その自信に見合っただけの強さをもっているから。それはきっと、ジムリーダーにも渡り合えるほどの強さなのだ。
そして何より、ヒトカゲから声をかけてもらえるのが 嬉しいんだ。私。



「――うん、ありがとう」





4-5  二つの声

(行こう、みんなで)


短いですがキリが良いので。



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