「お、おじゃましまーす…」


「たのもー!」とか言うべきなの?と一瞬思ったけど、恥ずかしさが勝るので無難な挨拶をしてジムの重い扉を開けた。中は電気が点いてなくて真っ暗だったけど、目が慣れてくると外観から受けた印象通りの広い室内だと分かる。よく見ると中はポケモンバトルが出来るようなスタジアムになっていたので、広いことにもすぐ納得した。それよりも誰もいないのかと、そっちの方が不安だった。もしかして留守…?また先延ばしのパターンかな。


「挑戦者か?」
「!!」


ふと声が聞こえてビクッと肩を揺らす。振り向けば、暗闇の中から現れた…一人の男の子。逆立った茶色い髪の毛に、少し濃い肌色、細い目…身長は私より少し高いぐらいで、大人ではない。多分幾つか年が違うぐらいだと思う。
厳つい男の人が出てこなかったことに内心でホッとしつつ頷いた頃、やっと室内の電気がついた。突如明るくなったことで眩しさに目を細める。


「よく来たな。名前は?」
「え、あ、はい。ソラといいます…」
「ソラか。俺はタケシ。このニビジムのジムリーダーだ」
「えぇ!?」


思わず大きな声を出してしまってから、ハッとして口を両手で覆う。いや、もう遅いんだけど。
今のは明らかに失礼な反応だった。意外だって言ってるようなものだ。いや、実際意外だったんだけど。


「ご、ごめんなさい…その、ジムリーダーがこんなに若い人だと思わなくて…」
「そうか。ジム戦は初めてのようだな」
「はい…めちゃくちゃ成り立ての新人トレーナーです…」


だからお手柔らかにお願いします…と、内心で呟く。タケシさんはそんな私の心の声なんて聞こえるわけもなく、私の肩に乗るピカチュウと足元でガン垂れているヒトカゲを見やり、私へ手持ちポケモンなのかと確認するように訊いてきた。私はずっと気になっていた、ポケモン二体だけでもジム戦に挑戦出来るものなのかと訊いてみたけど、あっさりと頷いてくれた。…そこは駄目って言ってほしかったな、なんて思ったり。いい加減往生際が悪いと自覚はあるけど、でも未知の世界に不安しかないのが私だ。


「それじゃあ早速始めるか」
「は、はい!」


タケシさんに促されて私はラインをひかれた、スタジアムの全体の広さに比べれば小さな四角の中で立つ。向かい合うように大きな四角の向こう側にも小さな四角があり、そこにタケシさんが立った。どうやらトレーナーが立つ場所らしい。タケシさんが指を鳴らせば地鳴りのようなものが始まり何事かと縮こまっていると、私とタケシさんの間には岩肌の地面が左右から現れてスタジアムを覆う。――どうやら、平面の床でバトルするわけではないらしい。


「使用ポケモンは二体。先に二体戦闘不能にさせた方が勝ちだ」
「はい」


ああ、始まってしまうんだ。ドキドキと煩く鳴り始める私の心臓。鳴りすぎて気持ち悪くなってきそうだったけど、そこをグッとこらえた。相手がどんなポケモンを出してくるか分からないけど…まずは安心してバトルを進められるキアを出すのが無難に思えた。肩に乗るキアを見れば、私の意図が分かったのかコクリと頷いてスタジアムへと軽やかに跳び下りる。


「よし!行け!イシツブテ!」


タケシさんが出してきたのはイシツブテというポケモン。ポケモン図鑑を開いて概要を聞く。どうやら岩と地面タイプのポケモンらしい。タイプの通りな見た目で厳つい印象だ。思えばジムの建物のイメージに合ったポケモンだと思う。
「先手は譲るよ」とタケシさんが言ってくれたので(余裕だ)、お言葉に甘えて私から技を出すことにする。やっぱり手始めに…


「"10万ボルト"!」
「ピ!?」


私が指示を出すと、いつもは難なく応えてくれるキアが驚いたようにこちらを見てきた。え…なに?何の反応なのそれは。思わぬ反応に戸惑いが隠せない私と、正面で待ち構えているイシツブテを、キアは交互に見やったあと…苦い顔を浮かべながら渋々といった様子でやっと技を出してくれた。なに、反抗期なんですか?まだ出会って少しなのにヒトカゲに次いでキアにまで反抗されてしまったら耐えられそうにない…なんて呑気に考えていたのも束の間、キアの"10万ボルト"は避けようとする様子もないイシツブテに直撃した。


「え…」


けれど、まるで効いていないのか、くらう一瞬だけ目を瞑ったぐらいで今は平然としているイシツブテ。別にキアが手を抜いたわけでもない、いつも通りの"10万ボルト"だった…のに。キアは何故だか「やっぱり」というような微妙な表情を浮かべていたけど、流石にキアの技をくらってノーダメージだなんて信じられなくて訳が分からずに思考が真っ白になる私へ、タケシさんが呆れた様子で声をかけてきた。


「岩と地面タイプのイシツブテに、ピカチュウの電気タイプの技は効かないぞ」
「………ええ!?」





4-6  前途多難

(初っ端から私のジム戦でのバトルイメージが崩れ去っていく…)


アニメでは最初サトシに厳しめだったタケシだけど、女の子だから当たりはそこまできつくないと思うんです。タケシですから。



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