岩と地面タイプのイシツブテに、キアの得意技"10万ボルト"は効かないという衝撃の事実を、まさにジム戦の最中に知ることになった私。
岩と地面タイプがいけないの…?2タイプ揃ってると電気タイプが効かないとかそういうメリットがあるの?そうしたら2タイプあるの有利じゃないか。ずるい。確かキアもヒトカゲも一つのタイプしかない。
"10万ボルト"が効かないだなんて。"10万ボルト"でいつも通りあっさりと倒してくれるものだと思っていたのに。顔を真っ青にする私を見て、キアは呆れた様子を隠すこともせずに苦い顔をしていた。い、居た堪れない…!でもそういう大事なこと、しっかりしてるキアなら予め教えてくれていても良いと思うんです!


「……知らないようだからついでに言っておくが、炎タイプも俺のポケモンたちには相性が悪いぞ」
「!!?」


固まる私に追い打ちをかけるように(きっと本人は親切でだと思うけど)ヒトカゲの相性も良くないということを、見かねたタケシさんから知らされる。まさか最初にキアとヒトカゲが手持ちかと訊いてきたのは、あからさまに自分のポケモンと相性が悪いポケモンを、私が連れていたから…!? そもそも、タイプの相性云々初耳です。タイプってちゃんと意味があったんだ…親のポケモンのバトルを見たことはあったけど、深く気にしたことがなかった。
キアが駄目ならヒトカゲに…と思った私には今やピンチとしか言いようが無い。まさかヒトカゲの技も向こうには全く通用しないの?ノーダメージなの?真っ青な顔のまま恐る恐る後ろにいるヒトカゲに振り向いたら、


「カゲカゲェ!!(問題ねぇよ!!)」
「ひいっ」


凄い形相で怒鳴られたけど、何言ってるか分からない…雰囲気でも伝わらない。今この流れだと「そんなことも知らなかったのかボケ」とか「しゃんとしろやクズ」とか言ってきてそうだ。ヒトカゲを直視しているとまた何か言われかねないので正面を向いたけど、パニック状態の私は次の技を指示することも出来ずにだらだらと冷や汗を流していた。


「ピカ」


そんな私の耳に届いてきたのは、キアの声だった。やけに落ち着いた声に顔をあげると、キアはいつもの穏やかな顔で私に振り向いていた。――どうしてそんな、落ち着いてるの?技が効かないんだよ。倒しようがない、どうしよう、って思わないのかな。もしかして私を落ち着かせるために無理に落ち着いた表情を見せてる…?


「……」


いや、違う。短い時間だったかもしれないけど、分かる。キアは根拠もないことをする人ではない。何の理由も自信も無しにむやみやたらに私を落ち着かせようとする人ではない。彼が私を落ち着かせようとしてくれる時には、しっかりとした根拠が、いつだってあるんだ。
私がヒトカゲを仲間に戻すべきか悩んだ時
ヒトカゲの怖い雰囲気を目の当たりにして気まずくなってしまった時
強いヒトカゲとバトルをしようとした時
キアに救われた時を思い出して、今のキアの表情を見つめ…ポケモンの言葉も分からない私だけど、確かに聞こえた気がした。


「ピカピカ」


“大丈夫だ”と。


すると不思議なもので、さっきまでのパニックも冷や汗もどこへやら。私はすっと冷静さを取り戻す。きっと、勝算があるんだ、彼の中には。でなければキアは私にああやって振り向かない。バトルにも躊躇いなく出てきたりしない。勝算があるってことは、キアの技全てが…効かないわけじゃない、んだよね。きっと。


「…ッ"高速移動"!」
「ピカ!」


キアが他に覚えている技を思い出して、いまいちどういう技かも分からないまま指示を出した。何故って、キアはいつだって"10万ボルト"一発でこれまでのポケモンを倒してきたからだ。他の技を使う機会なんて無かった。まさかジム戦で初めて出すことになるとは。
キアは先程までの渋々といった様子ではなく、元気に答えて応じてくれる。どうやら"高速移動"という技はキアのスピードを活かした技のようで、イシツブテの周りを素早く動いている。目で追おうとするイシツブテはスピードに追い付けず混乱しているようだった。タケシさんが指示する技だって今のキアには当たらない。そうだ、こっちだって避ければ技は当たらない。そう思えば、イシツブテの立場とそう変わらないはずだ。


「"スピードスター"!」


次に覚えていた技を指示してみると、キアは体全体を使って尻尾から煌めく星を振りまく。それは一瞬綺麗だな、なんて思ったけど、スピードに追い付けないイシツブテに直撃し、歪んだ表情を見てハッとした。技が、効いている!"スピードスター"も"10万ボルト"みたいな輝く光の技って印象なのに、"スピードスター"はイシツブテに効くんだ!ということは……どういうことだろう?まだ私にはそんな核心には迫れなかったけど、細かいことは後でゆっくりキアに教えてもらうことにしよう。


「続けて"スピードスター"!」
「確かに"スピードスター"ならダメージがあるが…それも少しのものだ!俺のイシツブテはそう簡単に倒れるようなヤワなポケモンじゃないぞ!」


そう言ってタケシさんが体当たりの指示を出すと、イシツブテは勇ましい目つきのままキアへと襲いかかってくる。確かに今までのポケモンみたいに、弱った表情を見せないイシツブテ。それはタケシさんの育て方が良いのもあるんだろうけど…きっとタケシさんの言葉通り、"スピードスター"ではいまいちな威力なんだ。でも、せっかく効いてる技を見つけたのにどうしろと――いや、あと一つ、技があったな。たしか…


「"爆裂、パンチ"…!」


ぐっと拳を作って頼りない記憶から絞り出した技の名前を言うと、余裕だったタケシさんの表情が変わった。すぐさまに「避けろ!!」と声を荒げてイシツブテに指示を出している。イシツブテも、振りかぶるキアを目前にかろうじて技を避けた。キアの小さな拳からは想像もつかないような威力が、岩肌の地面へと抉りこまれる。ひび割れる地面を見て、私は一瞬考えた。
今までにない焦りの表情を見せたタケシさんが、まともに「避けろ」と指示した技…そして、イシツブテのように硬そうな地面が呆気なくひび割れる様。

きっとこの技は、相手にとって都合が悪い!


「"爆裂パンチ"!!」


味を占めたように同じ技名を口にする。キアが良い顔つきで拳を振るうところを見ると、きっとキアの勝算はこの技だったんだと予想がつく。けど、この技にも欠点があったようだ。キアの最大の魅力であるスピードだったけど、大きく振りかぶる所為で隙が生まれスピードは殺されてしまい、"爆裂パンチ"は避けられてしまうのだ。そのうえ体力が要る技なのか、疲れるところを見たことのないキアが数回技を使っただけで息を切らしだす。せっかくの良い技なのに、当たらなければ意味がない…。このままじゃ"爆裂パンチ"を使う体力が無くなってしまい、使える技も"スピードスター"ぐらいになってしまう。"10万ボルト"だったら慣れてるからいくらでも使えるのに、今は効果がないわけだし……。


「──…」


きっとこの時の私は、ひどく頭が冴えたんだと思う。普段の私なら考えもしないことだった。


「…"10万ボルト"」
「ピカ!?」


再び驚いて振り向いてきたキア。それもそうだろう、効果が無いと分かっている技をまた私が指示してきたから。だけどキアは私のパニックに陥っているわけでも、ビビりまくっているわけでもない真剣な顔を見て一瞬目を開いた後、勇ましい顔つきでコクリと頷く。
ありがとう、キア。私を信じてくれて。


「ピィィイカア……チュ〜〜〜〜!!」
「おい、いくら渾身のものだからって、タイプの相性は覆せないぞ!」


タケシさんもイシツブテもキアの大きな"10万ボルト"を前に怯むことはない。分かっている。それでいい。避ける必要のない"10万ボルト"を、イシツブテは微動だにせずに待ち構える。だけど"10万ボルト"をくらうその瞬間、聞こえてきた声にきっとイシツブテはさぞ驚いたことだろう。


「電気に飛び込んで、"爆裂パンチ"!!」
「!?」


暗い部屋に目が慣れたところで電気が点いた時、生理現象というもので私たちは思わず突然の眩さに目が眩んでしまう。どうしても目を閉じてしまう。それは、このジムに訪れた先程に私自身体験したところだし、"10万ボルト"をくらった時のイシツブテをさっき見て今気付いたことだ。イシツブテだって、ダメージがなかろうと視力がある。キアの強い電撃を真正面から浴びれば眩さに目を閉じてしまうんだ。

つまりその瞬間は、隙だらけなのだ。






4-7  彼の光は

(きっと誰にだって眩く思える、強い輝き)


覚えてる技についてのツッコミは無しでお願いしますw



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