イシツブテが強い輝きに目を細めた一瞬、すぐに目を開けば目の前には電撃から突如現れるキアがいたことだろう。何度も繰り出されるパンチはまさに爆発するような威力を発揮する技で、モロにそんな技をくらったイシツブテはすぐに目を回して倒れた。
……た、倒したの…?
「ピイカ!」
腰を抜かした私にキアが笑顔で駆け寄ってきた。飛びついてきた小さな体を何とか両手で受け止める。
「まさか電気タイプのポケモンに負けるとは……だが、まだ終わりじゃないぞ」
困った表情でイシツブテをモンスターボールに戻したタケシさんは、次いで新しいモンスターボールを手に取る。ああ、そうか。二体倒さないといけないんだった。もう既に終わったような気持ちでいたのに。だけど、実際はもうお役御免も良いところだ。「次は俺だ」と言わんばかりにヒトカゲがスタジアムへと出てくると、もう私は何もやることが無い。指示出せないから、せめて応援するしかない。でも「頑張って」と言えばきっと睨まれるだけなので、心の中で声援を送って握り拳を作るしかなかった。
「行け!イワーク!!」
タケシさんが次に出したポケモンはイワークといって……随分と大きなポケモンだった。唖然としながら見上げつつ、かろうじてポケモン図鑑を取り出す。8.8m…勿論個体差で多少前後するだろうけど、それだけの高さがあると見て良いという事。私みたいな人間から見てもだいぶ大きく見えるのだから、原型姿のヒトカゲから見たら相当な大きさに見えるはずだ。それでもヒトカゲは全然驚いたり怯んだりする様子は見せなかったけど。
ヒトカゲが手始めに"火炎放射"を放つ。これまたキア同様彼のお得意の技だ。"火炎放射"は顔面に向けて放たれたけど、直撃した部分は少し焦げ目がついたかな…?というぐらいのもの。ダメージが無いわけではないようだったけど、さっきのタケシさんの言うとおりこれまた不利なバトルらしい。
「イワーク、"体当たり"だ!」
今度はイワークの番。タケシさんに指示を出されたイワークは勇ましい声をあげながら小さなヒトカゲに向かって大きな体をぶつけにいく。ヒトカゲは素早くそれを避けた。そこからイワークの"体当たり"の応酬が続くけど、ヒトカゲは問題なく避けていく。ヒトカゲもスピードがある方だと思う。それにイワークはただでさえ大きな体だから、素早く動くことは無理だし、素早く動くヒトカゲを捉えるのも大変だ。これならチャンスはあるかもしれない。
何度も"体当たり"をしていて疲れが見えてきた頃、ヒトカゲがジャンプしてイワークの体を駆け上り始める。きっと顔を狙っているんだろう。
「"締め付ける"!!」
初めて聞く技の名前がタケシさんの口から飛び出す。するとイワークは体の動きを変えた。首辺りから下の体を厳ついながらにしなやかに動かすと、自分の体を登っていたヒトカゲを長い体で閉じ込めるようにして捕まえた。巻きつかれた大きな体に、流石にヒトカゲのパワーでは敵いっこない。そのまま言葉通り締め付けられ苦しげな顔をするヒトカゲに息を呑む。キア以外を相手にこんな表情を見せるヒトカゲ初めて見る。あんなに自信満々だったけど、やっぱり体格差って大きいのだろうか。
「ヒトカゲッ!!」
そのまま地面へと叩きつけられたヒトカゲに私は思わず叫んでいた。今のは凄く痛そうだ。痛いとかで済む問題なのかも分からないけど、見てるこっちの方が辛かった。特に、私は彼に対して何も出来ないから。
「――!!」
だけど、ヒトカゲはムクリと体を起こす。難なく立ちあがる姿に、私は戸惑いや驚きを隠せない。口内を噛んでしまったのか、口内にある血をそこらにペッと吐きだす。それでも表情は未だに平然としていて、
『でけぇ図体のわりにはその程度かよ?』
「…!」
ヒトカゲが何かをイワークに言うと、イワークの表情が変わる。ムッとした表情を見る限り、多分ヒトカゲは挑発するようなことを言ったんだろう。挑発する余裕が、あるのか。あんな攻撃をくらっても未だに余裕綽々なんだ…。
「随分と丈夫なヒトカゲだな!まだ終わらないぞ!」
タケシさんは再び技を指示する。再度襲いかかるイワークだけど、ヒトカゲはダメージを負っている体とは思えない程素早く動いて躱すと、またイワークの体を駆け上る。"締め付ける"攻撃も一度見たからか上手いこと避けると、イワークの顔面に向けて"竜の怒り"を放った。顔面にくらったから大きな巨体もバランスを崩し後ろへと一瞬ふらつく。そこに追い打ちをかけるようにさっきよりも大きな"火炎放射"を放つと、今度こそイワークは後ろへと倒れた。巨体だけに倒れた時の衝撃も凄まじくて、少し離れた位置にいる私の足元まで振動が伝わってくる。
「………」
イワークの動向を固唾をのんで見つめるけど、動く様子は無い。巨体すぎて私たちにはイワークの表情は見えないけど、参ったという顔でイワークをモンスターボールに戻したタケシさんを見て、私はやっとヒトカゲの勝利を確信したのだ。
原型のままキアが笑顔で私へ声をかけると、更に勝利に対しての実感が湧いてきて、私の顔はどんどんと綻んでいく。
「凄い!ヒトカゲ!」
不利だったバトルなのに、自分一人の力であんな大きなイワークを倒してしまうなんて。駆け寄って「凄い凄い」と私は感動しているけど、対してヒトカゲはなんてことない顔をしている。勝って当たり前だというか、本当に自分への自信があるから負けるかもしれないなんて不安抱くことないんだろうな。私とは正反対だ。
仕舞いにはあまりのはしゃぎ様にヒトカゲに鼻で笑われショックを受けた頃、タケシさんが真剣な顔つきで私たちへと歩み寄ってきた。
「一つ、訊いていいか?」
「…え…はい」
なんか、ジム戦に勝ったはずなのにとても祝福されてるムードではない。ジム戦ってこんな感じなのかと思ったけど、キアの表情を見ると同じように警戒してるような顔つきだったから、今は普通の状況じゃないらしい。なに、私何かやらかした?説教でも始まるんじゃないかとビクビクしている私に、タケシさんは真剣な表情のまま口を開いた。
「どうしてヒトカゲは一人で戦っていたんだ?トレーナーの指示も無しに」
ドクン、と私の胸が音をたてる。正直言って痛いところをつかれてしまった。確かにジムリーダーとしてトレーナーの実力やポケモンとの関係性を見定めてバトルをしているんだろうから、私とヒトカゲの関係に違和感を抱いても不思議じゃないだろう。きっといないんだろうな、ジム戦でトレーナーの指示なしで戦うようなポケモン。
どう言い訳をしたら良いのかと思考を巡らせたけど――タケシさんの顔を見て、その考えをやめた。この人に嘘は通じない。ちゃんと、言おう。ちゃんと今の私たちの状況に向き合わなくちゃ。
「私が、トレーナーとして実力不足だからです」
「……」
「…私には勿体ないぐらい、ヒトカゲは強いポケモンです。いつか私が彼に見合うぐらいのトレーナーになるまで、ヒトカゲは一人で戦ってくれているんです」
「……俺にはピカチュウも十分強いポケモンだと思うが、君の指示を聞いているじゃないか。その差は何だ?」
「本人の意思です」
「!」
そうだ。難しいことなんて何もない。私を信じてくれて、私の指示通りに動いてくれるキア。私を認められないから、自分の思うがままに戦うヒトカゲ。どちらも自分の考えに素直に従っているんだ。私を見守ってくれるキアと、何も言わずそっぽを向いているヒトカゲを交互に見てから、タケシさんへ視線を戻した。
「いつかは、彼にちゃんとした技の指示が出せるようになりたいと思ってます。でもそれはこれからの話で。私がトレーナーだからって、彼がポケモンだからって……無理強いするものじゃないかな、って思いますから」
上手く気持ちを言葉にまとめて伝えられてる気がしなくて、誤魔化すように笑う。タケシさんは私の話を聞いている間ずっと硬い表情をしていたけど、話し終えた頃にはふっと笑みをこぼした。
「面白いことを言うんだな。君みたいなトレーナーは初めてだよ」
「あ、あはは…」
「ピカチュウとのバトル、最後の"10万ボルト"からの"爆裂パンチ"は驚かされた。タイプの相性も知らないような君がそんな発想をするとはな。そんな君だからこそ、俺は君の指示を聞くヒトカゲとバトルをしてみたいと思ったよ」
…それはつまり、バッジ保留ってことではなかろうか…。またヒトカゲが指示聞いてくれるようになってから出直せってことですか…?正直言ってそれはいつになるか分からない話なのですが…。
私の不安は思い切り顔に出ていたのか、タケシさんは私の表情を見てクスリと笑う。
「そんな不安そうな顔をするな。…ルールはルールだ。二体戦闘不能にさせた、君の勝利だ」
ポケットから取り出されケースから姿を現したそれは、キラッと光るグレーのバッジだった。
4-8 一つめ!
(まぁ、彼女の答えによってはバッジは保留にしていたところだったんだけどな)
バトル難しいわ…。