ニビジムで奇跡的に手に入れたグレーバッジを手にニビジムのポケモンセンターへと戻る。ヒトカゲの文句に恐縮しながらも再び部屋を借りた私は、勝利の喜びを噛み締めるのもそこそこに気を失うようにベッドに倒れこんだという。後にキアから聞いた話だ。とても驚いたと言っていた。申し訳ない。
きっと睡眠不足が祟ったんだ。ジム戦の緊張から解放されて一気に眠気が襲ってきたのだ。



『サトシ!見て!私、グレーバッジを手に入れたよ!』

『なんだ、ソラもジムバトルやってるんだ!見ろよ、オレはもう三つ手に入れたんだぜ!』

『…え、三つも…?』

『これから次のジムを目指すんだ!ポケモンリーグに出るためにはあと五つ集めないといけないから』

『……そ、そっか』

『じゃあな!ソラ!ポケモンリーグで会おうぜ!』

『え?うそ、サトシ!待ってよ…っ』


待って




「ソラ!」
「…っ!!」


私を呼ぶ声に目を覚ました。すぐに飛び込んできたのはキアの心配そうな顔。どうやら体を揺すってくれたのか私の肩に手が置かれていた。ボーッとした頭で状況を理解しようと、見下ろしてくる赤い瞳から視線をずらす。帰って来た頃は日差しが差し込んで明るかった部屋も、今は蛍光灯に照らされている。窓の外を見れば真っ暗だ。
眠っていたんだ、と自覚してすぐにさっきの会話が夢だったのだと思い至った。あれ、でもどうしてキアはそんな顔で私を見下ろしてるんだろう。


「大丈夫?」
「…え?」
「泣いてたから」


言われて頬に手を持ってきたら、指が濡れた。本当だ、だからキアは起こしてくれたんだ。体を起こして涙を拭いながら「大丈夫だよ」と答えた。
壁にかかっていた時計を見て帰宅した時間を思い出す。結構長いこと寝てしまっていたらしい。…あれ、これ夜眠れるのかな。

ふと気付いたのは左手だった。硬い感触にぎゅっと握ったままでいた手を開けば、午前中に手に入れたばかりのグレーバッジがそこにいた。私がやっとの思いで手に入れたこのバッジ、サトシはもうとっくに手に入れてるんだろうな。だって三日も早くマサラタウンを出ていたし…ポケモンのことで頭いっぱいだったから、タイプとかも分かってたかな。いつもサトシは私の前を進んでいたからなあ、私に無いものをたくさん持っていたし。ずっと小さい頃から敵わない存在だと思ってたし、憧れでもあった。
でも、そんなサトシだけど、いつだって私に振り向いて手を差し伸べてくれてたんだ。絶対に私を置いていかなかった。



『また転んだのか?ほら、泣くなって!オレがついてるだろ!』



…ずるいよなぁ。今まで側にいてくれたくせに、急にどっか行っちゃうんだもんな。



「――…会いたいなぁ」


グレーバッジを見つめたまま思わず呟いてしまい、言ってからハッとする。キアが目の前にいるのに、ていうか部屋の隅にヒトカゲもいるのに、何独り言呟いてるんだろう…!流石にこれは恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じながらも「何でも無い!」と慌てて誤魔化そうとする。でもそう簡単に流されてくれるようなキアではなかった。


「…君が夢に見た相手に?」
「う…」


まさにその通りである。
言葉に詰まればそれは図星と言わんばかりで、上手に嘘をつけない私の態度を見ればキアはすぐに納得した。もうこれは変に誤魔化すより、話してしまった方が早い気がする。何より、今後一緒にいる仲間なんだから話しておきたいことだし。


「私の、幼馴染」
「幼馴染?」


首を傾げるキアに、つい最近まで毎日のように見ていた顔を思い浮かべつつ頷く。


「うん。同じマサラタウンに住んでた男の子で、サトシっていうんだ。ポケモンマスターになる!って言って私より先に旅に出たの。短気だけど元気いっぱいで運動神経抜群でさ、一緒に遊んでもまぁ私は勝てないし追いつけないしで…」
「そ、そうなんだ…」
「…でも、絶対に私を見捨てないんだ。先を歩いてても絶対に振り向いてくれる。手を差し伸べてくれる。…私はこんな性格だからいつもそんなサトシに甘えて、頼ってばかりだったなぁ」


昔を振り返れば、しょっちゅう泣きじゃくる私と、そんな私の手を引いてくれるサトシを思い出す。私が立ち止まったって、考える暇を与えない程に私を巻き込んで前に進んでしまうんだ。そんな人だ。
サトシとの圧倒的な差に、私は例の如く押し潰されるかと思いきや、物心がつく前から一緒に居すぎてそんなことを考える暇は無かった。どちらかというと親の遺伝を引き継いでいないことへのコンプレックスが凄かったので。

私より凄くて、私の一歩前にいて、私の手を引いてくれる、そんなサトシの存在は当たり前だった。
当たり前、だったのに。
一週間以上もサトシと会わなかったこと、なかったのに。


「……本当に会いたいんだね」
「え」


私の顔を見つめていたキアが徐に口にした言葉に、私は落としていた視線をあげる。視線が交わると、キアは小さく笑い「表情が物語ってる」と言った。なんか、見透かされているようで恥ずかしいな…。



「…ソラは大好きなんだね、そのサトシって子のこと」
「――うん!」



今度会えた時には、少しでも成長した私を見てもらいたいな。





5  大好きな人の話

(それはずっとずっと、追いかけていた背中)


そして夢主は今日も夜更かし(…)



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