『ソラ、待ってろよ!オレすぐにポケモンマスターになって帰って来るから!!』
『………』
『ソラ?どうしたんだよ、元気ないぞ?』
『…よかったねーサトシの夢だったもんねー』
『…ソラ?』
『勝手に行ってくれば?私には関係無いし』
『……何だよそれ!』
『そのまんま!サトシなんか知らない!どこにでも行っちゃえ!!』
『あぁそうするよ!オレだってソラなんか知らない!!』
「――!」
ハッとして体を起こした時、暗くなった夜空の下で仄かに明かりを灯す焚火の存在が視界に入った。側で眠る相棒のピカチュウに視線が移り、先程まで夢を見ていたのだとやっと自覚する。既に夜遅いだろう時間だ、誰も起きていないだろうと思わずため息をひとつ零したサトシ。
「どうした?サトシ」
しかし、タケシはまだ起きていたようだ。横たわる木に腰掛けて荷物の整理をしていたらしいタケシの視線を受け、サトシは苦笑いを浮かべる。
「ちょっと夢見たんだ、幼馴染の」
「へぇ、幼馴染がいたのか」
「あぁ、ずっと一緒だった」
そういえば幼馴染の話はカスミにもタケシにも…そしてピカチュウにもしたことがなかった。気持ち良さそうに眠るピカチュウの体をそっと撫でながら、サトシは彼女の姿を思い浮かべた。
「泣き虫で臆病で、いつもオレがいないと何もできないくらいの奴。ちょっと目を離すと転んでるか立ち止まっちゃっててさ、しょっちゅう引っ張ってやってたよ」
「へぇ」
自分に自信が無くてすぐに悪い方向へと考えては躊躇してしまう。「自分には何もない」と卑下しては閉じこもってしまう。何をするにも優柔不断で、すぐに泣きだしてしまう。
彼女の欠点を挙げようと思えばいくらでも出てきてしまう。幼い頃から一緒にいたのだから出てこない方が不思議だ。それでも少し欠点が多い気はするけれど、
「でも、凄い優しい奴でさ!お人好しっていうのかな。いつも自分より周りのことばっかで」
トレーナーになることにも、ポケモン自体にも興味は持っていなかった。だけど“家族”や“友達”として、周りにいるポケモンたちを心から慕っていたし――彼女は、自分の周り以外の名前も知らないようなポケモンや他人にだって傷つかないような配慮が出来る少女だった。
優柔不断だけど一度決断すると頑固であり、誰かが傷つこうものなら必死で止めさせようとするのだ。そこには確かな芯が彼女の中にある。
だから、自分にとっては自慢の幼馴染だった。
「あいつの親のポケモンも混じったりして、毎日一緒に遊んでたよ」
「仲が良いんだな」
「ああ。…だけど、」
自慢の幼馴染なだけに嬉しそうに語っていた表情が、途端に曇る。何を思い出したのか一変してしまった表情に、微笑んで様子を見ていたタケシも気付いて首を傾げた。
「…最後は、喧嘩して別れたんだ」
「喧嘩?何か怒らせるような事でもしたんじゃないのか?」
「オレじゃないよ!…よく分かんないけど、あいつが機嫌悪くて先に喧嘩売ってきたんだ」
サトシは先程見た夢を思い出した。旅立ちの前日、あの日のままだった状況の夢だ。いつも笑顔で駆け寄ってきていた彼女がその日はむすっとした表情で、吐き捨てるように可愛げのないことを言った。待ちに待った旅立ちの日を前にわくわくしていたサトシは、幼馴染の態度にカッとなった。元来気が長い性格ではなかったのもあり、そのまま口論となり仲直りもしないまま別れた。
元々自分は悪いことなどしていないのだ。謝ることなんてない。
翌日の旅立つ日だって、彼女は全く顔を見せてはくれなかった。向こうに謝罪の意思が無いのなら、こっちが何か行動を起こす必要もない、とムカムカした気持ちのまま旅立った。
「へぇ、それで仲直りもしないで出てきたのか」
「…だって、オレは悪くないし」
「それでサトシは良いのか?」
「………」
痛いところをつかれて何も言えない。
勿論、このままで良いだなんて全く思っていない。毎日一緒にいた彼女がいない日々が続くうちに、別れ際も別れ際だっため彼女を思い出してはどうしようもない気分になっていた。何か大切なものを失くしたようにぽっかりと胸に空いた穴。それを埋める方法は流石に分かっていた。
寂しいのかもしれない。最後に笑顔が見れなかったから心配なのかもしれない。今、彼女はどうしているだろう。いつも外へ連れ出していた自分がいなくなって、また部屋に閉じこもっていないだろうか。泣いていないだろうか。
『サトシ!』
また、あの笑顔が見たいな。
「…次会えた時に、ちゃんと話し合わないとな」
「……分かってるよ」
どこか拗ねた表情で答えたサトシを見て、タケシは笑みを零す。幾つも年下の彼はタケシから見ればやはりまだまだ子どもだ。
だけどそんな子どもが、一途に大切に想っている幼馴染。幼馴染の話をするサトシの表情を見れば、彼にとってどれ程の存在なのかタケシには容易に想像がついた。
サトシ本人も今までは一緒に居るあまり感じたことが無かったけれど、離れて漸く彼女の存在の大きさを理解していた。そう、大切なのだ。
「……ソラ、元気かな…」
星が煌めく夜空を見上げてぽつりと呟いた言葉。久しぶりに口にした幼馴染の名前にどこか新鮮味さえ感じてしまった。そこにまた複雑な気持ちに陥っているサトシの心境など知りもしないタケシは、彼がこの日初めて口にした名前に引っ掛かりを覚えていた。
「“ソラ”?」
「?…どうしたんだ?タケシ」
「いや…(どこかで聞いたような)」
6 大切な人の話
(それはずっとずっと、守っていた笑顔)
5の夢主視点とは時間軸が違います。夢主がニビジムにチャレンジしてもう少し日にちが経った頃ですね。