ニビシティを発ち次の町へと向かう道中、たまたま見つけたポケモンセンターで今晩は過ごすことになった。まだ夕方だけど、このまま進んでも野宿が確定するだけだったので。流石にそれは避けたい。
先に進みたいヒトカゲからの文句は予想通りあったけど、キアが上手いことかわしてくれた。何でそんなに急ぐのかなと思ったらキア曰く「ジッとしてられないんだよ、馬鹿だから」と笑顔で言っていた。キアってヒトカゲに対して結構辛辣。
念のためヒトカゲとキアはジョーイさんに預けた…が。そうして一人になるとやっぱり寂しいし、部屋に閉じこもっているとまた色々悪い方向へと考えてしまいそうだったので近くを散歩することに。思えばポケモン連れてないのに、野生のポケモンに遭遇したらやばくないだろうか。…その時は全力で逃げよう。


木が生い茂る林は、ポケモンセンター以外周りには何もない。舗装もされてない人が歩いて出来ただろう道があるだけだ。…人気もあまり無い。ポケモンセンターでもジョーイさんしかいなかったし、田舎道であまり人が居ないんだろうな。


「?」


夜遅くなってきたら怖いだろうな、と思っていたらやっと人の声が聞こえてきた。どうやら全く人が居なかったわけではないみたい。バトルをしてるのかな?ポケモンに指示を出すような声が幾つか聞こえてくる。私のように旅をしてるトレーナーさんだろう。
一人が寂しいので何となく人気のある方に惹かれ、声のする方へと向かう。ポケモンセンターの裏手で二人の男の子――私と年は変わらないぐらいのトレーナーがそれぞれポケモンを出していた。一体は…一目見て分かった。嫌な思い出しかないポケモン…スピアーだ。もう一体のポケモンの名前は分からないのでポケモン図鑑を取り出して確認すると、オコリザルというらしい。
スピアーとオコリザルは並んで正面にいる一体のポケモンと対峙しているようだった。図鑑によると――フシギソウというらしい。ああ、初心者用ポケモンのフシギダネの進化形なんだ。


「スピアー、"ダブルニードル"!」
「オコリザル、"乱れ引っかき"!」


トレーナー二人が続いて技の指示を出す。スピアーもオコリザルも同時にフシギソウへと攻撃を仕掛けていた。

………。

二体一なんてバトルがあるの?一対一でしか戦ったことが無かったから、初めて見る光景だ。ああ、でもキアだって私がトラブル起こしてしまった時は大勢のスピアーに対して一人で戦っていたっけ。公式のバトルじゃなければこういうのも有りなのかな。
でも、私の中で抱いた違和感の原因はそれだけではなかった。そうだ、フシギソウが何の抵抗もしていないんだ。自分から技も仕掛けず覇気のない表情でただただスピアーとオコリザルの攻撃を受け続けている。…よく見れば、あのフシギソウ傷だらけだ。


「あっあの!!」


私が緊張で素っ頓狂な声を出すと、突然の声にビクッと肩を揺らしたトレーナー二人が驚いた表情でこちらに振り返った。スピアーとオコリザルの攻撃も一度止む。私は訝しげに向けられる視線に居た堪れない気持ちになりつつも、必死で言葉を紡いだ。


「そのフシギソウ、ゲットするつもりなら…も、もう良い頃合いじゃないでしょうか…。なんか、傷いっぱいだし、流石に可哀想というか…」


野生ポケモンはバトルで体力を消耗させたところでモンスターボールを投げるのだと、前にキアから教わった。その方が捕まりやすいらしい。だけど正直バトルで仲間に加えるというやり方にはどうも疑問が拭えなくて、私はオーキド博士から貰ったモンスターボールをキアのための一個しか消費出来ていないのだけど。
フシギソウをゲットするためにバトルをしているのだろうと思った挙動不審な私の言葉に、トレーナーは二人とも怪訝な顔をする。


「はあ?別にゲットするつもりじゃねーよ」
「あんな暗い顔の奴いらねーし」
「…え?」


「ただのストレス解消」


―――…。



「よしスピアー!とどめだ!」
「オコリザルもいけー!」


黙り込んだ私から視線をフシギソウに戻し、気を取り直してそれぞれのポケモンに指示を出すトレーナーたち。忠実に、スピアーもオコリザルも躊躇いなく技を仕掛けに行く。何で何の疑問も抱かないの。何で無抵抗でボロボロの相手に攻撃を仕掛けられるの。何でゲットするつもりもないポケモン相手に何度も技を指示できるの。

こんなの、苛めじゃないか。



「やめなよ!!」



さっきとは違う張り上げた声に、スピアーとオコリザルは驚いて動きを止めた。その間に私はフシギソウの前に立ち塞がる。流石に生身の人間に技を仕掛けはしないだろうと思ってのことだったけど、思えば無抵抗のポケモンに続けて技指示するような人たちでした。ただし、そう思い至ったのは後での話。この時の私は恐怖よりも珍しく怒りが勝っていて、二人と二体を止めさせることで頭がいっぱいだった。


「無抵抗のポケモンをストレス解消に利用…!? 趣味悪いですよ!」
「何だよ、お前!そいつは俺たちの獲物だぞ!」


獲物?


「お前には関係無いだろ!」
「あなた達だって野生のポケモン苛める権利無いでしょ!? ポケモンにだって、心があるのに、命があるのに…!“獲物”って!! 何様ですか!?」


マサラタウンにいた頃はこうやって声を荒げることもほとんど無かったのに、ヒトカゲと喧嘩した時といい、なんか声荒げてばかりだ。やっぱり慣れなくて息が荒れている。でも第一印象が気弱だったろう私の怒鳴り声に、トレーナー二人も戸惑いが隠せない様子だった。意地でもここから動かない、そう決意を固めて二人を睨みつけていると…やがて二人は気持ちを削がれたのか各々ポケモンをボールに戻して立ち去って行った。
その場に私とフシギソウだけになり、私は思わず安堵の息を零す。いやいや、ホッとしている場合じゃないでしょ。まだフシギソウはボロボロなままなんだ。


「フシギソウ!大丈夫?すぐポケモンセンターでジョーイさんに診てもら――」


振り向いた私がフシギソウに近寄ろうとしたけれど、それはフシギソウに許してもらえなかった。何かが顔の横を掠めたかと思えば、頬に一瞬の痛みが走る。何が起きたか分からなくてじんじんと痛む頬に触れてみると、指に鮮血が。それを見て、私は何かしらのフシギソウの技で攻撃をされたのだと理解した。威嚇されているのかもしれない。
赤い指からフシギソウに視線を戻すと、先程までの無表情とは違い、こちらを警戒するように睨みつけるフシギソウがいて。ああ、きっと私が人間である限り、このフシギソウの領域には踏み込めないんだと分かってしまった。





7-1  孤独のフシギソウ

(君を、助けたいのにな)


ゲーム序盤、レベル上げのために野生ポケモンに喧嘩売ってたあの頃が懐かしいですね←



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