運動神経、頭脳、家事、ある事への知識、その他諸々…どれをとっても私は並で、平凡的な人間だった。
特にこれといった趣味もないし、取り柄もない。顔も普通だしスタイルだって自慢できるところはない。
きっと世の中には私のような人間が多数いるはずだ。だから、私のような人を“特別”と呼ばないわけだし。

そんな私が毎日することといえば、親のポケモンや、大好きな幼馴染と遊ぶこと。だけどそんな日々も、少し変わってしまった。
幼馴染のサトシとシゲルが旅立ったのは、ちょうど三日前の話。サトシとは気持ちよくお別れも出来ないままで、私は後悔ばかりだ。そのまま落ち込んで部屋に籠もってボーっとしていた数日だったというのに、



『あんたは旅にでも出てその性格直してこい!!』




「――…って突然部屋に入るなり、お母さんが荷物押し付けて私を家から追い出したんですよ!!」
「そうじゃったか…」



マサラタウン。それはカントー地方にある小さな町の一つだ。家よりも自然が多く、特に施設というものもない。ポケモンセンターやフレンドリィショップなどに用があればトキワシティまで行かなくちゃいけないほど、“町”というのもはばかられるほどの田舎だ。そんな小さな町が唯一誇れるところは、オーキド博士の研究所があるということ。私はよく知らないけど、博士は研究者として凄く有名な人らしい。
そんなオーキド博士がテーブルを挟んで私の正面で苦笑いを浮かべている。今私がいるところは、まさにその博士の研究所だった。だってお母さんが家に入れてくれないんだもの。ここに来るしかないのだ。


「やっとソラくんも旅に出る気になったと思ったが…」
「……強制的に行くことになりました」


元々は旅に出る気なんて微塵も無かった。どうして大好きな家族がいる家から出て、見知らぬ土地まで危険を冒してまで行かなくちゃいけないのか。私には到底理解できないことだった。なのにサトシときたら、ずっと前から旅立てること楽しみにしてさ。結局私を置いてマサラタウンを出て行ってしまった。…いつも一緒だったのに…。

博士は私の露骨に出ている嫌そうな顔に困った表情を浮かべてから、腕を組んで考える素振りを見せた。


「まあ、旅に出るからにはポケモンを譲ってやりたいところなんじゃが…なんせソラくんの旅立ちを聞いたのが突然じゃったからな、初心者用のポケモンがちゃんと用意できておらんのじゃ」
「え、ほんとですか?」
「じゃが、少し待っておれ」


ポケモンがいないのなら旅立てないから、家に戻る理由になるんじゃないかと一瞬淡い期待を抱く。なのにそんな私の気持ちをくみ取ってくれず、博士は立ちあがって居間から出て行く。階段を上がっていく足音が聞こえたから、二階にある研究所に行ったようだ。
何だか…嫌な予感がする。一人、居間で待っている間にさっき抱いた期待がどんどんとしぼんでいく。


「さ、待たせたのお」


戻って来たオーキド博士の手には、モンスターボールが握られていた。


「唯一今譲れる初心者用ポケモンじゃ」


私は一度モンスターボールを覗き込む。赤と白の一般的なモンスターボールは、外見だけじゃ中にどのポケモンがいるかは分からない。私はモンスターボールから視線を外して博士の顔を見上げた。


「…残って、たんですか?」
「うーむ、というより、ちょうど準備ができていた…という方が正しいかのお」
「…?」
「少し癖があるが、良い奴じゃ。きっと君の力になってくれる」


博士の言いまわしは何だか少し不思議な感じだったけど、その後に続いた「力になってくれる」という言葉に興味を示してしまう。
――誰もがトレーナーになった時に通る道。初めて手にするポケモン。パートナーが出来る瞬間。…まさか私が、そんな体験をすることになるなんてね。
でも、ここまで来たからにはこのモンスターボールを手にするしかなさそうだ。

意を決して、差し出されたままだったモンスターボールを受け取る。緊張した面持ちでモンスターボールと睨めっこしている私に、博士は小さく笑ってから続いてポケモン図鑑と空のモンスターボールを幾つか渡してくれた。旅立つ人皆に同じプレゼントをしているそうだ。
サトシも、このやりとりをしたんだな。図鑑とモンスターボールを手に、マサラタウンを出たんだ。


「――…サトシとシゲルは、何のポケモンを選んだんですか?」
「シゲルはゼニガメ、サトシくんはその日遅刻してな…初心者用の三匹が既にいなくて、ピカチュウを連れていったぞ」
「遅刻したんですか」


あんなに楽しみにしていたのに。いや、楽しみにしていたからこそ前夜眠れなかったのかな。サトシらしくて、慌てて家を飛び出していく姿を容易に思い浮かべられて、思わず笑ってしまった。



『ポケモンマスターになるんだ!』



「……」


サトシは、大きな夢を持って町を出て行ったんだよなあ。
それに比べて私は――


「ソラくん、頑張るんじゃぞ。たまには連絡をくれ」
「あ、はい。…やれるだけやってみます」


背中を押してくれた博士に、私はそんな自信のない頼りない返事しか返せないまま、研究所を後にした。





1-1  めざせポケモンマスター!

(…なんて思うわけ無い無い)


何年も前の作品を書き直し。



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