「………」
「………」
先程よりも雰囲気が悪くなった私とヒトカゲです。同じように会話は無いのだけど、何と言うか…ヒトカゲの機嫌は更に悪くなった気がするし、私の心持ち的にも…かなり厳しい。少なからず私がヒトカゲを傷付けてしまったという罪悪感と、はっきりと「大嫌い」と言われたことへのショックが大きかった。誰かしらには嫌に思われていたのかもしれないけど、でも面と向かって「嫌い」なんて言われたことなかったし…。
ああ、こんな調子で二人きり?絶対無理です。あ…さっきのポッポ、仲間になってもらえばよかった。馬鹿だなあ…傷付けるだけ傷付けて放置してきちゃったんだ…最悪だ。
「……」
「泣くな!! 鬱陶しいんだよ!!」
自分に嫌になって目尻が熱くなってきたら、泣きだしそうだった私の雰囲気に気付いたヒトカゲが怒鳴って来た。…何で私、ここまで酷いこと言われなくちゃいけないんだろうか。本当辛い。ここまでされなくちゃいけないほど、私って悪いことしてましたか神様。そりゃあ、きっかけは私の所為かもしれない。私の言葉でヒトカゲが機嫌悪くしたわけだし。いや、でも元々は私を旅に出させた親が悪いわけだ。心の準備をする暇も無くやる気もなかったトレーナーをさせるんだから。
何さ性格直してこいって。娘の全てを受け入れてよ馬鹿。
「…ん」
ヒトカゲの後ろで小さくため息を吐いていると、前を歩いていたヒトカゲが横を見て足を止めた。
何かと思い私もヒトカゲの視線の先を追う。あ、…えーと、ポケモンがいました。名前が分からないのでバッグから取り出したポケモン図鑑で調べると、コラッタというらしい。
ヒトカゲに視線を戻すと、何だか随分楽しげに…ニヤリという感じに笑っていた。嫌な予感がする。でも私がヒトカゲに何かを言えるわけもなく、ヒトカゲは勝手に原型に戻るなり――コラッタにいきなり攻撃を仕掛けた。
またバトルが始まるとは思った私だけど、まさか突然仕掛けにいくとは思わなかったので目を見開いた。
「え…!?」
不意をつかれたコラッタは抵抗も出来ず地面を転がる。それでもすぐに体勢を立て直し、コラッタもヒトカゲへ攻撃する。多分“体当たり”だ。でも、ヒトカゲはコラッタの攻撃を難なく避けて、上手いことコラッタにダメージを与えていった。
見て分かる。
おそらくヒトカゲは元から潜在能力があるというか、バトルのセンスがあるんだろう。すぐにバトルを仕掛けられて、こうやって有利になっているわけだし。先程のポッポにも、そうだ。
それは凄いことだと思う。これから旅していくうえで、実力があるのは心強いともとれるだろう。才能も取り柄もない私にとっては、ヒトカゲのセンスを羨ましいとも思う。きっとヒトカゲは力が有り余ってるから好戦的なんだろう。でも、
「――――…」
ヒトカゲは、ボロボロで地面に臥してしまったコラッタの前に立ちはだかる私を睨む。元から目つきが悪く、バトルでの強さを見た今となってはその睨みは本当に迫力があるものだった。本気で私のことを嫌いなヒトカゲは、怒りで私にも技を出してくる可能性だってある。危険なことだと分かってる。でも、
でも、ここは私も引けない。
「バトルをするのは良いけど、その気はなかったコラッタに突然仕掛けるのは卑怯だと思う。酷いと思う」
震えそうになる声を何とか堪えて私が言うと、ヒトカゲは静かに人間の姿になり、やっぱり私を睨み上げる。
「卑怯だ…?野生の世界じゃよくあることだぜ。いつ誰にバトル仕掛けられるか分かったもんじゃねえんだ」
「…君は能力あると思うけど、“強い”わけじゃない。私はそんなの“強い”とは認めない」
「ド素人が偉そうなこと言ってんじゃねぇぞ。ポケモンのこともろくに知らねぇくせに何様のつもりだ」
「そんなの関係ないでしょ。卑怯なのに変わりはない。私は人としての意見を言ってるの」
敬語も忘れて必死に言い返し、反論しなくなったヒトカゲを見てすぐに後ろにいるコラッタへ振り向いた。
そこまで怪我は深くなさそうで、コラッタは自力で立ち上がることが出来た。ホッとするけど、痛々しい姿に申し訳なさでいっぱいになる。
「ごめんね、大丈夫?」
傷薬も持っていない今、私がコラッタに出来ることは謝ることしかなかった。そっと紫の体を撫でると、コラッタは気持ち良さそうに目を細めてくれた。
そのまま草陰へと消えていったコラッタを見送ると、その場には沈黙が生まれる。気まずくて後ろにいるヒトカゲを見ることが出来ずにいると、聞こえてきたのはチッと舌打ち。そして何かを殴ったような音。チラッと見てみれば、近くの木を殴ったヒトカゲがいた。……怖いんですけど。
頬を引きつらせながら見ていれば、キッと今までにないぐらいの眼力で睨んでくるヒトカゲ。
「苛々すんだよ!! テメェみてぇなの見てっと!! 実力も無ぇくせに偉そうに言いやがって!!」
「…わ、私は…ただ本当のこと言っただけで」
「そういう自分がいつでも正しいと思ってるとこも、バトルを邪魔してくんのも、ポケモンに興味なんか無ぇくせに変に同情しくさるとこも!!」
「か、可哀想なら助けるの当然じゃん!」
「あわよくばあのコラッタ手に入れられたんだぞ!?」
「私望んでないもん!!」
「テメェの望みなんか聞かねぇよ!!」
怒鳴ってくるヒトカゲの覇気が物凄くて怖いけど、喧嘩慣れしていない私なりに精一杯言い返した。でも言い返せば言い返すほど、ヒトカゲの目つきは悪くなるばかり。…私の知ってる一般的なヒトカゲは可愛かったのに、本当にどうして彼はこうなってしまったの。
「何の目的も持たねぇ、やる気も無ぇテメェなんかに、ついてくる奴なんか誰も居やしねぇよ!!」
ヒトカゲの言う事に間違いはなかった。でも…それでも、傷ついた。私だって、平凡な人間のわりには頑張る時だってあった。やる気を出す時だってあった。この旅に比べれば些細なことかもしれないけど、でもまるで人を本当に“何もない人間”のように言われるのは悲しかった。
何で。何で私ここまで言われなくちゃいけないの。ろくに反撃も出来ず傷つくコラッタが可哀想で、私にしては勇気を出して助けたのに。
私だって、
「…私だって!! 好きで旅に出たんじゃない!!」
「望んでもないのに今朝突然、心の準備も出来てないまま『旅に出ろ』って家から追い出されたの!! やる気も出す暇無いし知識を詰め込む時間だって無かったんだからしょうがないじゃん!!」
突然のことで、何もかもが未熟なままの私。バトルが強いヒトカゲにとっては私なんて話にもならないほど駄目なトレーナーかもしれない。でも、成り行きでこうなってしまったんだからしょうがないじゃないか。私だって辛いし、怖いし、寂しいし、まだ今日良い事なんて何一つ無かったんだ。
「――…なんだそれ」
人生で初めて怒鳴って、どっくんどっくんと胸が煩く鳴っている。そんな激しい動悸の音が、一瞬で耳に入ってこなくなったのは ヒトカゲの言葉でだった。
「その程度で自分だけ被害者面かよ」
――“カッとなる”とは、まさに今この瞬間かもしれない。
鼻で笑うように吐き捨てた彼の言葉に、私の中であまり抱いたことのない感情が湧きあがる。“その程度”?何も出来ない私が突然一人にさせられたことを、“その程度”って。私にとっては真剣に悩んだことなのに。ヒトカゲが今までどんな生き方をしてきたか知らないけど、でも、だからって、そんな言い方あるの。
「…ッそんなに私が気に食わないなら、他のトレーナーの許へ行っちゃえば良いじゃん!!」
悔しくてたまらなくて、気付いたら口走っていた。ハッとしたのは言い終えたあと。何を言ってるんだろう、私。元から出来る方ではないけど、いつも以上に冷静な判断が出来なくて、感情に任せて当たった。
慣れない怒鳴り声を出して息を乱す私が言い過ぎたことを謝るより先に、ヒトカゲがニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「良いなそれ」
「どうせウマが合わねぇのに、これ以上一緒にいても時間の無駄だ」
ヒトカゲは本当に都合が良いという様子で、私への未練など微塵も見せずに背を向けて歩き出す。呆気ない終わり方に私は声も出ず、小さくなっていく背中を見つめることしかできなかった。
1-4 さようなら、そして
(本当に、さよならしちゃうの?、)
野生ポケモンに突然バトル→ゲット
昔ゲームをしていなかった私が、アニメを見ていて思った疑問でした。