「俺が以前から買いだめていた大量のチョコが姿を消した。食べた奴は正直に手ェ挙げろ。今なら4分の3殺しで許してやる」
「4分の3ってほとんど死んでんじゃないスか。っていうかアンタいい加減にしないとホント糖尿になりますよ」


こんにちは、常磐陽です。この銀魂世界にやって来て一ヶ月、更に万事屋で暮らすようになって一週間が経ちました。今までとは違う不定期な生活にも大分慣れてきたところです。なんせ日によって真選組屯所行って働いてその足でお登勢さんのところで働いて夜中帰宅してるからね。でも真選組にもお登勢さんにも関わっていけるなんて正直おいしいのだ。いくらでも働ける。

そもそも、本気で働かないと神楽の食費に足りないからね。


「またも狙われた大使館、連続爆破テロ凶行続く…物騒な世の中アルな〜私恐いヨ、パピーマミー」


夜兎族の食欲半端じゃない。
普段読まない新聞なんて広げちゃってわざとらしく読みあげている神楽を見れば、鼻からしっかりと鼻血を垂れ流していた。

どれだけのチョコを食べたんだろう、鼻血出す程って。

バレバレの犯人に怒鳴りつける銀さん、平然としてる犯人こと神楽、銀さんを宥める新八。いやあ、万事屋ですね。万事屋の風景。私はこれを間近で見ていられて幸せ者ですよ。ファン冥利に尽きる。

というか、なんかこのやり取り見覚えある気がする。


「!?」


一人状況にそぐわずに和んでいた私を含め、部屋にいた四人は突如聞こえてきた大きな音に一瞬動きを止める。
音が聞こえてきた外の様子を見ようと、銀さんを先頭に皆で玄関から外へと出る。視界に飛び込んできたのはうちの建物に不自然に集まる人だかり。その視線の先を見るように下――「スナックお登勢」の出入口を見下ろせば


「事故か…」


バイクが「スナックお登勢」に突っ込んでいた。

階段を下りて様子を見に行くと、お店の戸が片側丸々外れてしまっていた。ひどくお怒りのお登勢さんがバイクの運転手である男の人の胸倉を掴み怒鳴りつけている。今にも殴り殺してしまいそうな勢いのお登勢さんを新八が止めに入った。さっきから人を宥めてばかりだね新八。

ぐったりと倒れている男の人をしゃがみこんで見下ろした新八の側で、私は辺りに散らばってしまっている郵便物を見やる。運転手はどうやら郵便屋さんだったようだ。確かこの世界では“飛脚”っていうんだっけ。

というより、何だろうこれ、既視感?デジャヴ?初めて見た気がしないけど…。


「…こりゃひどいや。神楽ちゃん救急車呼んで」
「救急車ャャアア!!」
「誰がそんな原始的な呼び方しろっつったよ」


ツッコミを入れる銀さん。このやり取りも凄く覚えがあるような…。

頭を悩ませている私には誰も気付かず、不意に飛脚の人が苦しそうに表情を歪めさせながら体を起こした。お腹を抑えつつももう片方の手には小包を持っていて、それを銀さんへと差し出している。


「これを…俺の代わりに届けてください……お願い。なんか大事な届け物らしくて届け損ったら俺…クビになっちゃうかも」


最後に人に小包を押しつけて気絶してしまった飛脚の人を見て、私はハッとする。小包を手にどうしようかと視線で新八と神楽に尋ねている銀さんへ声をかけた。


「銀さん銀さん!それ確か爆弾入ってます!届けちゃ駄目なやつです!犯人扱いされます!!」


そうだ、これは漫画にあったお話だ。だからものっそい既視感あったんだ!記憶力が良くない自覚があるわりには、このあと面倒な展開になるんだと何となくストーリーを思い出した私。何も考えずに思いきりネタバレを口にしていた。
やらかしてしまったと気付いたのは銀さんの冷めた視線を向けられてからだ。容赦ねえなこの人。心を強くもて陽!


「お前ただでさえ初っ端から怪しさ満点だったのに拍車かけてんじゃねーよ、何なのマジで馬鹿なの?何がしたいの俺のこと脅したいの?」
「そ、そうじゃなくて……」


ああ、でもそう疑って当然だよね。何で小包の中身なんて分かるんだって話だよね。
しかもここで小包を届けさせなければストーリーが変わってしまって成り立たなくなっちゃうのでは?と考えると、変なことを言わない方が良い気がしてきた。だってこのあとは――…
その展開丸々無くなっちゃまずいよね、今後的に。

一ヶ月以上この世界にいて初めて漫画の内容に出くわしたものだから、あんまり深く考えていなかった。
これからだってきっと、私の覚えているお話の場面に居合わせる機会はあるはずだろう。

わ、私…その時はどうしてればいいんだ?


「面倒くせーけどしょうがねー。このアホ女はほっといて行くぞお前ら」


私を置いていこうと歩き出した銀さんに続く新八と神楽。私は頭を悩ませながらも慌ててその後を付いて行く。
下手なことしてストーリーがねじ曲がったらまずい、から……私は大人しくしてればいいのかな。傍観しているべきなの?



▼△▼



小包にある住所を確認しながら行き着いたのは、私の予想通りというか記憶通りというか、戌威星の大使館だった。思わぬ場所に到着してしまったからか何度も銀さん達は立派な建物と住所を見比べている。
銀魂世界では少し不釣り合いな洋風の建物は、周りを成人男性よりも高い塀で囲まれている。塀の奥にある建物を見上げながら門へと歩き出した銀さん達は、近くで塀に背中を預けるように座り込んでいる男の人に目もくれなかった。
大きな笠を被り側には錫杖を立てかけ、黒い着物を身に纏うその姿は、どう見たってお坊さんとかそこらへんの人。でも、確かこの人って……

私は万事屋の三人が門番に声をかけられているのを放っておいて、その男の人の前でしゃがみこむ。笠に隠れ気味の顔を見ようと覗きこめば――


「ほ、本物!」


予想通りの人物、しかも生だと普通に男前だわーとか初登場の時だーとか別の銀魂キャラに会えたーとか色々な感動を覚えていた私だけど
視線が合うなり、私の顔を見て見るからに驚いた表情に変わったその人に、違和感を覚えた。


「………悠月…か…?」
「……え?」


驚きと戸惑いが入り混じった声で、私の知らない名前を呟く。悠月…さん?誰だろう、漫画では目立っていなかったキャラとか?実は今後出る予定だったキャラとか?
私は、その悠月さん?と勘違いをされてるらしい。


「!!」


間違えてますよ、と否定して名乗ろうと思った矢先に、大きな爆音が耳に飛び込んできた。目の前のその人から視線を外して万事屋三人を見やる。門の奥を見つめて立ち尽くしている銀さん達は、爆風で瓦礫が飛んできているけれどそんなものを気にする余裕も無いらしい。私は塀のおかげで幸いにも瓦礫が飛んでくることはなかったので、暢気なものだった。


「わー(漫画と)同じだー」


自分の予想通りの展開になっているようで、何だか預言者になった気分だ。
私はそんな場違いなことを考えながら三人の許へ歩み寄る。状況がちゃんと把握できていなかった様子だったけど、とにもかくにも逃げ出そうとスタートダッシュをかける銀さん達。
だけど門番に新八がまず腕を掴まれ、道連れにするように新八は銀さんの腕を、同じように銀さんは神楽の腕を掴む。
本当に漫画通りなんだけど。場違いって分かるけど面白い。可愛い。私も万事屋の一員として混ざりたいところだ。


「新八ィィ!! てめっ、どーゆーつもりだ離しやがれっ」
「嫌だ!! 一人で捕まるのは!!」
「俺のことは構わず行け…とか言えねーのかお前!」
「私に構わず逝って二人とも!」
「ふざけんなお前も道連れだ!」
「いいなー…私も一緒にやりたかったなぁ…」
「ちょっ!アホ女ァァ!新八の手退かせ!俺のこと好きなんだろ!? な!!」
「純粋な人の気持ち利用してんなァァァ!!」
「大丈夫だよ、みんな」
「何がだ!!」


仲良し三人組の様子を横で見ているしか出来ない。ああ…この疎外感どうしてくれよう。寂しい。神楽は神楽で傘持ってて手が塞がってるから私の腕を掴んではくれないだろうし。
少しだけしょんぼりしつつも、三人に安心させるように「大丈夫だ」と言えば、必死の形相をしていた銀さんが声を荒げる。このあとどうなるか、説明するわけにはいかないよね。さっきと同じ過ちは繰り返さないぞ!
そんなわけでどうしようかと一瞬考えたけれど、これ以上暇を与えないように門番らしき人?犬の天人たちが沢山こちらに駆け寄ってくる。
私はそちらを見てすぐ、さっきから動かずに門の側で腰掛けている――その人へ視線を向けた。


「手間のかかる奴だ」


呟いてやっと動き出したその人は、錫杖を握り立ち上がる。地面を強く踏み、銀さん達を捕まえようとした天人…というかワン公達を足蹴にしていく。華麗な身のこなしをぽけーっと見ているうちに、彼は最後新八の手を掴んでいた門番のワン公の頭を踏んで地面に着地した。あっという間の出来事だった。


「逃げるぞ銀時」



――桂さん、ktkr!!


「おまっ…ヅラ小太郎か!?」
「ヅラじゃない桂だァァ!!」
「ぶふォ!!」


生「ヅラじゃない桂だ」ktkr!!

桂さんも好きだよ!美形のくせに回を増すごとにアホさが酷くなっている気がして!


アッパーカットされて怒っている銀さんと、ヅラと言われて怒っている桂さん。ついでに密かに興奮している私。
見知らぬ人と盛り上がっている銀さんに完璧に置いてけぼり状態の新八と神楽は、「誰だコイツ」という感じの眼差しを桂さんに向けていた。



─ 続 ─


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