「HOTEL IKEDAYA」という立派なタワーホテルの一室に私たち万事屋は逃げ込んでいた。外観とは不釣り合いな畳の敷かれた一室で、暢気に横になっている銀さんとテレビをつけてニュースを見ている新八と神楽。
私はテーブルに置いてあったお茶菓子をつまみ食いしながら新八と神楽越しにテレビを見る。液晶画面には見事に大使館に爆弾を持っていってしまい爆風に曝される銀さん、新八、神楽の姿が映しだされていた。


「バッチリ映っちゃってますよ。どーしよ、姉上に殺される」
「テレビ出演。実家に電話しなきゃ」


顔を青くする新八と対照的に喜んでいる神楽。可愛い。
神楽は状況が分かってないんだろうけど、テレビにはテロリストとして顔が映っちゃってるからね。いやしかし私も一度はテレビに映ってみたいものだ。鏡と写真以外の媒体で自分の顔を見られるなんて貴重じゃないか。


「何かの陰謀ですかね、こりゃ。なんで僕らがこんな目に。唯一桂さんに会えたのが不幸中の幸いでしたよ、こんな状態の僕らかくまってくれるなんて」


新八は銀さんへと振り向きながら尋ねる。


「銀さん知り合いなんですよね?一体どーゆー人なんですか?」
「んーー テロリスト」
「はィ!?」


いつも通りの表情で言う銀さんに新八は思わず聞き返してしまう。…と、襖が開けられて桂さんの「そんな言い方は止せ」という声が飛び込んでくる。声が聞こえた方を見れば、部屋に入って来たのは声の通り桂さんと、仲間らしき男の人たちがぞろぞろ入ってきていた。


「この国を汚す害虫“天人”を討ち払い、もう一度侍の国を立て直す。我々が行うは国を護るがための攘夷だ。卑劣なテロなどと一緒にするな」


その話を聞いて新八はすぐに桂さんたちが攘夷志士だということに気付いたらしい。神楽は初めて聞いた単語に、煎餅をバリバリ音をたて食べながら尋ねた。
新八は漫画のための解説役として攘夷について長ったらしい説明を始める。今後の桂さんのアホさを思い出すと攘夷の本来の意味忘れてた私は復習をしている気分だった。漠然と攘夷志士は幕府の敵なんだって考えだったけど、そういえばちゃんとした経緯があったんだよね。いやーホントすっかり忘れてました。

説明を終えた辺りで私は新八に声をかける。


「何でそんなこと覚えてるの新八。それ覚えるぐらいならレジ打ち覚えよーよ。私バイトやった初日で覚えたよ」
「ちょっ…何それ何で知ってんですか!? 陽さんと会ったのもっと後ですよね!?」
「ふふふ。万事屋のファンなもんで」


まぁ第一訓の冒頭で結構印象的なシーンだったし、銀魂読者なら余裕で分かることだろう。けれどその第一訓の時に居なかった私は(せっかくなら最初から混ざりたかったよ)新八と銀さんがどういう経緯で知り合ったか知るわけがないと思っているんだろう。


「何なの最初に会った時も僕らのこと知ってたし!逆に不気味で怖いですよ!」
「ふふふふふ」
「陽キモイアル」
「辛辣だな神楽ちゃん」


動揺する新八に笑いが止まらない私へ冷たく言い放つ神楽。でも神楽の思ったこと真っ直ぐ伝えるところ、嫌いじゃないよ!


「おい…どうやら俺達ァ踊らされてたらしいな」
「?」


私たちの会話に混じらずにいた銀さんの少しシリアスな声が聞こえ、いつの間にか立ち上がっていた銀さんの視線の先を見やる。そこには桂さんの背後に隠れるようにいた気まずそうな表情の男の人が。小包を届けるようにお願いしてきた飛脚の人だった。その顔を見て銀さんはすぐに今回の騒ぎの真相が分かったらしい。
新八も神楽もハッとして問い詰めるけど、視線を合わせようともしない。


「全部てめーの仕業か桂。最近世を騒がすテロも、今回のことも」


桂さんは少しの沈黙のあと、腰にさしてある刀に手を伸ばしそれを取り出した。


「たとえ汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ。……銀時、この腐った国を立て直すため、再び俺と共に剣をとらんか」

「白夜叉と恐れられたお前の力、再び貸してくれ」


――ああ、凄く真面目なシーンだ。これ最初に読んだ時私は何を思っていたかな。これから真面目な戦いでも始まるのかと思ってたっけ?銀さんの思わぬ過去に驚いていたっけ?
まぁ、今となってはオチが分かるし、二人の今後の関係性も分かるので、何も感じられないんだけども。


「天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられた武神…坂田銀時。我らと共に再び天人と戦おうではないか」


私の少し外れた考えを知る由もなく、周りは緊張感を出したまま話を進めている。
銀さんの攘夷戦争に参加していたという予想外の過去に新八は驚きや戸惑いが隠せない表情だった。まぁ普段のだらけた姿を見るとねえ…納得できます。でもそのいざという時とのギャップがいいんですよ。


「俺ァ派手な喧嘩は好きだが、テロだのなんだの陰気くせーのは嫌いなの」


面倒くさそうに頭を掻きながら言うと、真剣味を帯びた声と視線を桂さんへと向ける。


「俺達の戦はもう終わったんだよ。それをいつまでもネチネチネチネチ京都の女かお前は!」
「馬鹿か貴様は!京女だけでなく女子はみんなネチネチしている。そういう全てを含めて包み込む度量がないから貴様はモテないんだ」
「バカヤロー俺がもし天然パーマじゃなかったらモテモテだぞ、多分」
「何でも天然パーマのせいにして自己を保っているのか。哀しい男だ」
「哀しくなんかないわ、人はコンプレックスをバネにしてより高みを…」
「アンタら何の話してんの!!」
「はいはい!私は天パの銀さんが大好きです!周りの見る目が無いだけなんだと思います!」


話が脱線していることについて新八は安定のツッコミを入れているけど、私は勢いよく挙手して話に加わろうとする。だって天パじゃない銀さんだなんてそんな…天パも銀さんの良いところの一つなのに。チャームポイントってやつです。
そもそも銀さんは今後何やかんやモテるじゃないか。色んな女性キャラとフラグたててるでしょうが。銀さんって原作始まるより前はあんまり若い女の子と絡むことなかったんじゃないの?銀さんの良いところ知ったら皆もれなく惚れちゃうよ。……改めてライバル多いな、私の好きな人は。いや、まぁ私はノマカプも好きなので生で拝めるならそれはそれで眼福ですがね。


瞬時に色々考え行き着いた頃、私の声に反応したのか桂さんがこちらを見ていることに気付いた。銀さんは相変わらず私の言葉に対して何も言ってくれないのに、何故だか桂さんがジッと、私を。…え、ちょ、何。アホだけど顔は整ってるんだからそんな見つめないで照れる。


「…桂さん?」
「――女か。この場を離れたくないのはそのためか」


首を傾げる私から目を離さず口を開いた桂さん。視線は私なのにどうやら銀さんへと話しているようだった。
この桂さんの問いに対し、僅かに銀さんの眉がピクリと動いたことに、桂さんを見つめ返していた私は気付けなかった。


「違ェよ」


私には、よく分からない会話だった。


「何で俺がこんなアホ女のために生活変えなきゃなんねーんだよ。ほぼ無理矢理に住み込んでるってのに、まぎわらしい言い方すんじゃねー。まるで俺がこれに惚れてるみてーな言い方」
「これって!」


今の会話について深く考えようと思った私は、そのあとに続いた銀さんの言葉に反応して考えることを忘れていた。指差してくる銀さんを見やる。お行儀悪いぞ!


「こんなのに惚れるぐらいなら俺ァ牛と付き合うぜ、牛」
「牛!? 牛と付き合えるんですか銀さんは!? 牛に負けたんか私は!! 牧草食って乳出すぐらいしかしてない牛に!! 確かに牛乳はカルシウムあって素晴らしい飲み物だけど牛とイチャコラ出来る銀さんの神経を疑いますわー!!」
「バッカお前言葉の綾も知らねーの?可哀想な頭で寧ろ同情してやるよ、アホで馬鹿なことしか言わねーくせによォ。イチゴ牛乳の前身である牛乳を生み出せる牛のがよっぽど世の役に立ってるからね。あーあとお前乳も負けてんじゃねーのか?まな板」
「銀ちゃんそれセクハラアル。キモイ」


女の子である神楽は表情を歪めさせさせて銀さんを咎めてくれたけど、私は銀さんの超的を得ている言葉に恥ずかしさより悔しさが勝っていた。


「ッ否定出来ませんけど!確かにちっさいですけど!私だって牛乳いっぱい飲んでこれから成長する予定なんですから!! あ、揉んでくれても構いませんよ!? 大きくなるっていうし!」
「だってよ新八」
「え!? 僕!?」
「銀さん揉んでよー!」
「無いもん揉むなんて無理だね!」
「いいからお前らその話終わりにしろよ!昼間だから!!」


さっきの桂さんと銀さんのやり取りを注意出来ないぐらいに脱線しまくっている私達の言い合いに、やっぱり安定の新八のツッコミが入った。そもそもツッコミっていうか、普通に注意された…?
だって、牛に負けるなんてさ…流石に女として辛いもの。せめて別の女にしてよ。……いや、それも悲しいな。


(…楽しそうではないか)


私達のやり取りを見て何を思ったのか分からないけど、桂さんは腕を組み目を伏せ静かに銀さんへと声をかける。


「…銀時、お前は忘れたのか。攘夷戦争で俺達は大切なものを失くしたのだぞ」
「………」


桂さんの言葉に、正面にいた銀さんが口を噤む。その時、私はどこか…悲しそうな顔をしたように見えた銀さんから、目が離せなかった。
……攘夷戦争…銀さんは確か、仲間や先生を失ったんだよね…。先生はともかく、銀さんの仲間のうち亡くなった人とか回想でも出てないから分かんないけど…多分、そうだよね。

さっきまでの喧しいやり取りから一転、再び部屋は重たい空気に包まれる。真面目な表情で桂さんは戦争で亡くなってしまった仲間たちのためにも攘夷をやり遂げること、そのためにこれからターミナルを破壊することを話した。ああ、まだちゃんと攘夷活動している頃の桂さんだなあ。あんなにアホなのに…。
最初の頃ってこんなにシリアスなキャラだったかな、と考えながら、私は黙って様子を見守る。

息を呑む新八と真剣な表情で見つめる神楽。そんな二人とは別に、私はこの先の展開も銀さんが桂さんに手を貸さないってのも分かってるから、特に私がシリアスムードになるつもりはないのだ。
だってこの後は、確か――…


「!!」


私が思い至るより先に、けたたましく襖を蹴破られる音が。音に反応してハッと視線をやったのは皆ほぼ同時だった。



「御用改めである、神妙にしろテロリストども!!」



キタ!真選組!!



─ 続 ─


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