万事屋が桂の策により大使館で爆弾を爆発させてしまった頃――
その様子を建物から観察している男がいた。
「とうとう尻尾出しやがった」
双眼鏡を手に呟いたのは、指名手配されている桂を捕まえるため動向を探っていた真選組の一人である土方だ。大使館の門番から逃げている桂と万事屋の面々を見つめながら背後で控えている山崎へと指示を出す。
お目当ての桂を見つけられたうえ、仲間も何人か顔が割れた。これで真選組としての晴れ舞台を飾ることが出来る――そう思ったが、
「……ん?」
双眼鏡で桂の仲間の顔を確認していた土方は一人の少女を見るなり視線が釘付けになる。何故って、あまりに見慣れた姿のうえ……他にはいないだろう奇妙な服を着た女だったからだ。
あんな奇妙な服、他で見ることはないはずだ。
「………いやいや」
世界は広いんだから。天人もいるぐらいの世の中なんだから。あんな変な服着てる女、きっと他にもいるはずだ。
誰に聞かれたわけでもないのに土方は必至に脳内で否定する。まるで自分に言い聞かせるように。
いやしかし見間違うには結構同じ時を過ごした。昨日も屯所に着て掃除洗濯をしていた。顔を見間違えるわけはない。いやしかしそこを認めてしまうと色々とまずいことになってしまう予感がしていたのだ。
「ねぇちょっと総悟くんアレ見てアレ。違うよねアレ。俺の頭に浮かんでる人と違うよねアレ。違うって言ってっつーか起きろテメー!!」
畳に枕を置き愛用のアイマスクをつけて寝ている沖田へ、丸めた桂の手配書を力を込めて投げつける。涎を垂らしながら爆睡している姿が、今の心境では苛立ちが増すばかりだった。
爆弾による爆音でも起きなかったくせに丸めた紙が顔に当たると意外にもあっさり起きてくれた沖田。アイマスクをずらしながら「何ですかィ」と鬱陶しそうに訊ねられる。「何ですかィ」じゃないだろ仕事中だろ、と怒鳴りたいところだが、今はそれどころではない。
焦った様子で手招きをする土方に、沖田も普段との様子の違いに気付いた。素直に立ち上がり土方の隣りに立つと、双眼鏡を借りて窓から土方の指差す方向を見やる。
土方が姿を確認した時より既に離れた位置にいるものの、かろうじて後ろ姿を双眼鏡で捉えることが出来た。
「桂と一緒に逃げてるの誰だ」
「あー…見覚えのある銀髪天パがいやすねィ」
「あァ!? そっちじゃねーだろ!?」
沖田のその言葉に嘘はなかった。見た目に特徴があるうえ、最初に見かけた時のことを思えば覚えてしまうのも自然である。ただ土方は最早他の仲間も、寧ろ桂さえ今この瞬間はどうでもよくなっていた。問題なのは女の一人だ。
沖田もその姿を見逃さなかった。小さな背中しか見えないけれど、沖田は確信さえ得ていた。
「捕まえりゃあいいんですよね?」
「?」
「あいつァ主人にどれだけ隠し事すりゃあ気が済むんですかねィ……一度奴隷としての自覚ってのを叩きこまねーといけねェらしい」
「………」
目、据わってんですけど。
一瞬陽に同情したものの、今回のことはこちらも問い質さなければならない。まぁ今日無理に捕まえずとも、明日になれば屯所にアホ面で出勤してくるのだが――…
(いやいや、そもそもあれは常磐じゃねーから)
自然と陽として考えてしまっていたけれど、認めるわけにはいかない。
屯所で下働きとして雇っている女が、攘夷志士の仲間だなんて。