※大したオチはない


橋を通りがかった時、土方は町人たちが少し騒がしいことに気付く。喧嘩か何かかと役人の手前騒動は鎮めるべきかと見て見ぬふりはせず、土方は近くにいた男へ声をかける。


「オイオイ何の騒ぎだ?」


橋のフェンスに手を置いて下を見ていた男たちが振り返る。声をかけてきた土方が身に纏う黒い制服に役人だと気付き丁寧な言葉遣いで答えた。


「エエ、女とり合って決闘らしいんでさァ」
「女だァ?くだらねェ、どこのバカが…」


喧嘩は喧嘩でも理由がくだらない、と土方は呆れ半分で男たちの横から同じように橋の下――河川敷を見下ろした。そしてすぐに言葉を失う。
決闘とやらは既に決着がついていたらしいが、そこにいた人物が予想外だった。


「………」
「それが少し面白い展開でしてね、女は勝った男じゃなくて負けた男を選んだんですよ」
「人目に晒されても健気に男が起きるの待ってやって――あんなに可愛いのに、勿体無いぐらいですぜ」


何も言えないでいる土方の心境など知りもせず、男たちは経緯を話している。――が、それが事実とは少しねじ曲がって観衆に伝わっていたようで、完璧に勘違いをしていた。
「あのゴリラ羨ましい」とか言う男にうちの大将ゴリラ呼ばわりすんじゃねえと言ってやりたかったが
「あのゴリラが良いなら俺でもいける気がする」とか言う男にあいつは顔だけで蓋を開けるととんでもない阿呆だぞと言ってやりたかったが
気持ちを押し込んで土方は無言で河川敷へと向かう。


「あ、土方さん」


河川敷にいたのは近藤と陽であった。
河川敷に仰向けに倒れて気絶している近藤と側で腰をおろしたままこちらを見上げる陽を交互に見る。そして脳裏を過ぎるのは先程の男たちの言葉だ。

陽をとり合って、近藤が決闘を…?
近藤は陽のことを娘や妹のように可愛がっているが、とり合うというのは違う気がする。もしくは娘に男連れられ結婚の挨拶をされたお父さん宜しく「陽はお前なんぞにやらん!」と決闘をしたのだろうか。否、顔はともかく性格に難ありの陽を誰がもらいたいと宣うだろうか。先程の男のように彼女の性格を知らないなら分からなくもないが、そんな見た目でしか判断できないような男が、仮にも真選組局長の男を打ち負かしたとは考え難い。


「いやー良かったです、土方さん来てくれて。近藤さん起きないし、私じゃ運べないので待ってたんですよー」


土方が悶々と考えていることなど気付きもしない陽は暢気に笑っている。
こいつ、人が頭悩ませてるとも知らずに。

土方は静かに陽の正面で視線を合わせるように膝をつくと、徐に陽の頭に手を置く。唐突な土方の行動に陽は不思議に思いながらもジッとしていたが、頭に置かれた手に力が籠り鷲掴みされたことでさっと顔が青ざめる。ここで漸く土方が怒っていることに気付いたらしい。


「どういうことか話せ」
「え?えーと…わ、私からはちょっと…」


下手に話してネタバレするわけにはいかないと、陽は冷や汗を流しながらも静かに凄んでくる土方から視線を逸らして必死に抵抗する。その態度で後ろめたいことがあったのは明らかだというのに。いい加減彼女は隠し事と縁が無いのだと自覚してほしいものだ。

気絶したままの近藤を腕に抱え、ぎゃーぎゃーと騒ぐ陽の首根っこを掴み
沢山の視線に耐えながら通りを歩く土方は溜息を吐きだしたのだった。



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