を 見 つ け た




『姉ちゃん、いつ帰ってくんの?』

『金曜日!』

『ほら、準備出来たんならさっさと寝なさい!明日早いんでしょ?』

『父さんにお土産宜しくなー』

『ちゃんと買ってこいよなっ!約束だぞ』

『任しといてっ!』



私の最後の幸せな思い出は小学校の修学旅行。仲の良かった友達と遊び歩いて、布団の中で恋バナを聞いたりして
沢山写真も撮って、ご当地の有名なお菓子と沢山の思い出話を土産に意気揚々と帰路についていた。

そこまでだ。


《 昨日午後4時過ぎ、東京都○○区の住宅で常磐光司さんと妻の耀子さん、長男の星汰くんの親子三人が死亡しているのが発見されました。発見者は修学旅行に行っていたため助かった常磐さんの長女です。警察によりますと、三人ともリビングで倒れており、刃物で刺されたような痕が幾つもあったことから、先日付近で起きた殺人犯との関連性を調べており―― 》


赤く染まるリビングも、動かない体も、晒された焦点のあわない瞳も、頭から離れることはない。
数日前まで笑顔を向けてくれたはずなのに。もうその瞳に私が写ることもない。


私が何をしたっていうんだ。

ごく普通の家庭だったじゃないか。恨まれるようなことなんてしてないじゃないか。
勉強はともかく運動神経だけは負け知らずだった私と
漫画とゲームが好きなサッカークラブに通う弟
時に厳しく時に優しい料理上手なお母さんに
家では立場が低いけど会社では課長だったお父さん

よくぶつかって、喧嘩ばっかで、でも最終的には一緒に晩御飯食べてるような
そんなどこにでもあるような家庭だったんだ。


死んでやりたかった。
生きる意味なんてあるわけなかった。大好きな人たちを追いかけたかった。



『“人の一生は重き荷を負うて遠き道を往くが如し”』


『荷物ってんじゃねーが誰でも両手に大事に何か抱えてるもんだ。だが担いでる時にゃ気づきゃしねー』

『その重さに気づくのは全部手元からすべり落ちた時だ。もうこんなもん持たねェと何度思ったかしれねェ。なのに…またいつの間にか背負いこんでんだ』

『いっそ捨てちまえば楽になれるんだろうが、どーにもそーゆ気になれねー』



荷物(あいつら)がいねーと、歩いててもあんま面白くなくなっちまったからよォ』



絶望のどん底にいた私。
そんな私にとっての貴方は、光だったんだ。


当時漫画を読まなかった私にとっては、名前も知らないような白髪頭の(いち)キャラクター。
けれど不器用なりに仲間を大切に想ってる貴方の言葉にとても惹かれたんだ。

貴方の仲間は、心底羨ましく思えたし
家族のような――そんな万事屋の関係はどこかうちと重なって見えて、泣けてきたんだよ。


漫画を読んで、知れば知るほど
貴方はだらしなくて主人公とは思えないような駄目なところばっかり露呈して、それさえ開き直ってるような駄目な大人だと分かった。

なのに、その人の中にある確かな信念を知って、信念のために行動し、誰かを救い出してしまう貴方を見て
特別な感情を抱いてしまうのは当然だと思った。


――…ねえ、銀さん


紙面や液晶画面にいる貴方に焦がれる私は、きっと周りから見たら変人なんだろう。

だけど、貴方に出会えたこの奇跡を、私は誇りに思えるよ。

だって貴方がいなければ、この作品が無ければ
私は家族を奪った犯人を捜し復讐のため人の命を奪っていただろう。
前を向いて生きていけなかっただろう。

笑顔になれることは、なかっただろう。


真っ暗な世界に、静かに銀色の光を差し込んでくれた――まるで月のような貴方

銀さん 私はそんな貴方が好きなんだ。





太 陽 を 見 つ け た




『私さぁ、子ども好きなのよ』

『あぁ?何、あんな我が儘で自分の事ばっか考えてギャーギャー泣き出すわ騒ぐわの子どもが良いわけ?』

『うん。それが自分の子って考えると、可愛いと思うのよね』

『マジでか』

『マジでだ』


『それでさ、銀』

『ん?』


『私、銀の子どもが欲しい』


『………は』

『…ねぇ、女からのプロポーズって凄い恥ずかしいんだけど。これ以上言わせるわけ?』

『……………』

『……コノヤロー』



『すぐじゃなくていい。戦争が終わって、平和な世の中になったら…銀とこのあとの人生も共に歩んでいきたいの』

『貧乏でもいい、特別じゃなくていい、同じ食卓囲むような普通の家庭作って、私も料理頑張って覚えて…――その時は銀もちゃんとお父さんやってくれる?」



別に今まで夢を持って生きていたわけじゃねー。ただ、愛する女が傍にいてくれるんならそれだけで良いと思ってた。
他は何も望んでねーよ。現実がそんなパフェみたいに甘いもんじゃねーってことも分かってたつもりだし?

そうだ、分かってたんだよ、ちゃんと。

けどよォ、


俺の唯一無二の幸せまで、奪わなくても良いと思わねーか?


『おい…っおい、目開けろ。何寝てんだよ、眠ってる場合じゃねぇだろ』

『銀時』

『侍が刀捨ててんじゃねぇよ、お前はまだ戦えんだろ?な?ガキん時俺らのこと散々負かしてた女だろうが』

『銀時』

『おま、約束どうしてくれんだよ。戦争終わったら幸せな家庭作るんじゃなかったのかよ』

『銀時』

『俺あの時程…ッ子どもに感謝したこと、ないんだぜ?』

『銀時、』


『もう――…』



笑えねーよなァ。大事なもんばっか失ったこの戦争は、結局何も実ることなく終わっただけだ。
平和な世がやってきたって、大事な人のいない世界なんて俺には空虚なもんでしかねーよ。

まぁしかし、安心して見てろよ。
俺はそんな悲劇の主人公気取るつもりねーし、死ぬつもりもねー。わざわざ命絶って追いかけようなんて馬鹿なこと考えてねーから。


『美しく最後を飾り付ける暇があるなら、最後まで美しく生きようじゃねーか』


なんたってお前に救われた命だ。
それを捨てようとは思わねーさ。

……つーか追っかけても、お前なら怒って追い返してきそうだしな。


まぁ、一からやり直すなんて軽々しくは言えないけどよ
刀は、捨てた。随分と血も浴びてねー。

数少ない幸せの糖分とジャンプ糧に生きてるうちに、気付いたら色々手に入れてたんだよ。


お前が、闇にいる俺を照らす月ってくさく例えてみれば――…マジでくせーな、我ながらサブイボたつわ。

まー…奴らは星ってところだな。

お前には少し劣る光だけどよ、大切なんだわ。もう……失いたくはねーんだわ。


だから、俺らしく生きてみようと思うわけよ。


沢山の星と喧嘩して馬鹿やって、くだらねーことで笑って
やっぱお前が隣りにいない世界は少し薄暗いが、結構楽しんでんの、今。


なのに、そんな世界を変えるような女が現れやがってな。



『だって私銀さんが好きだから!!』



奴は急に現れて、急に迫ってきて、急に告白してくる、馬鹿通りこしてある意味すげーぐらいの女。あ、褒めてねーから。
俺は断ったんだぜ?なのに流れでうちに住むようになっちまうし、無駄にアピールしてくるし、俺の布団に入り込んでくるし、俺の顔見てニヤケてるし

“本気”と書いて“マジ”と読む程キモいしウザい。

俺は、お前以外の女あり得ねーから、そんな気持ち向けられても応えられねーから
諦めつくようにあしらってるってのに、無駄に諦めが悪いんだよ。


――…どれだけ突き放しても、付いてくるんだよ。

どれだけ冷たくしても、俺のこと好きでいんだよ。


絶対に、俺に笑顔を向けるんだよ。


邪気のない笑顔は、まるで――ああ、くそ。認めたくねーわ。
お前にだから言うんだからな。


今まで闇にいた俺に光を差し込んでくれたのはお前だ。
月が無いなりに僅かに光の中にいられたのは…アイツらのおかげだ。

薄暗い、俺の今の世界に足りないもの……見つけた気がする。


誰でも明るく照らしちまうような 太陽。








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