“春雨”の一件の翌日、陽はいつも通りに朝食を用意してからいつも通りに真選組へと出社していった。後に桂から乱暴は受けたものの淫行までされていないということを聞いたが、非力な少女からすれば多大なショックだったはず。男に恐怖を抱いてトラウマになってもおかしくないのに、彼女は躊躇う様子もなく男所帯の真選組へと向かったのだ。

それをいつも通りろくに声もかけず見送った銀時は何とも言えない気持ちでいた。仕事も無いので神楽が定春と遊びに出掛け、新八が掃除を終わらせて陽からのメモを頼りに買い出しに行き、一人になると、普段はこんなに気にもかけない程に陽のことを考えていた。

新八と神楽は麻薬の影響もそこまで無く、怪我も見受けられるものはなかった。しかし陽は万事屋のなかで一番戦闘に慣れていないだろうに、右腕も怪我し、年頃の女なのに胸元にまで怪我を負わせ、少ない取り柄の一つである顔だって冷やした甲斐なく腫れさせてしまった。今朝周りに心配させるからどうしようかと考えていた陽にマスクを出してやったが、己の女として気にかけることはないのかと思ってしまう。普通「周りにこんな顔見せられない」と嘆くものではないのか。「周りに心配かけるから」って。どこまで周り基準で動いてるんだあのアホ女。


「………」


そういえば、シャツが駄目になったと彼女が零していた。口にはしないが下着も切られてしまい使えなくなったろう。流石に下着は難しいが、服ぐらいなら用意してやってもいいだろう。

そう思ったのは気紛れだと自分に言い聞かすが、傍から見ればどう見ても彼女を護れなかったことへの贖罪である。

しかし、銀時はいざ呉服屋へと赴き、後悔を覚えた。

女物の着物しかない店で良い歳した男が一人で来店すればまず浮く。こんな経験無いので羞恥心を煽られる。加えて着物の値段。元の世界の制服を着ている陽は着物を着るために必要な襦袢や帯、足袋なども持っていない。そして男性よりも女性は帯締めなどの小物も多く、決して裕福ではないうちの家計を考えると着物一式を揃えるのは中々の買い物だ。柄や素材を選ばなければもう少し安いものもあるが、地味な柄か着こなしの難しそうなド派手な柄しか無く、年頃の少女が好んで着るものとは思えない。そもそも普段から奇妙な服を着ている所為で陽の好みも分からない。

そして銀時は一つの謂われを思い出した。

男が女へ着物を贈ることは、それを脱がせたいという意味合いになることを。



「…あんな小娘何が楽しくて脱がせたいって思うんだクソ」


恥ずかしさに耐えられず店を出た銀時はそう一人ごちる。最初は適当に見繕って万事屋に置いておき、見付けた陽に「セールだった」とでも言おうと思っていたのに、これでは計画は台無しだ。
ただこのまま何もしないのも…彼女は全く気に留めないし自分を責めたりはしないだろうが……銀時のなかでもやもやが残ったままになるのだ。このもやもやを払拭したいだけなのだ。


「何で俺がこんなこと考えなきゃなんねーんだ!めんどくせェェ!!」


道の真ん中で頭を抱えて声を荒げる銀時に通行人たちは何事かと視線を向けていた。



余話Aへ続く

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