あの人の表情がころころと変わるものだから
気付いたら私の想定していた流れをどんどん逸脱していく。



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ああも笑顔で「待ってるね」と言われてしまっては、行かないわけにはいかないと思った。だってもし練習見に行かないまま道端でまた遭遇してしまったら、気まずくてしょうがない。だから行くだけ。一回行って「やっぱちょっとイメージと違うわ」とか言って適当に断ろう、そして早々に他の部活に入ってしまおう、そう思った。
でもそんな決意を固めるまで二日かかってしまった。

体育館に近付くと聞こえてくるボールの弾む音、バッシュが床と擦れる音──懐かしい音だ。出入り口前で一度深呼吸をしてから、ゆっくりと大きな扉を開けた。
思ったよりドアは音がしなくて、体育館の中にいた人たちは私の存在に気付かなかったよう。
そこでは思った通りバスケの練習をする男子が数人と先生と可愛らしい女子が一人。

私はコートの中ですぐに見つける。周りに部員だろう他の男子がいるため、否が応でも背丈を比べてしまい際立つ存在。
彼──車谷空は、あの時私が見惚れてしまった綺麗なシュートを放っていた。

何度見ても素晴らしいと思う。惚れ惚れする。凄く正確で、リングに当たらずにゴールを潜っていくボールを見るとそれはまぐれなものではないと分かる。
凄い。どれだけの練習をしてきたんだろう。聞いてみたいけど、そこで興味を持っている時点で私は本格的に勧誘をされそうだから思い止まる。


「…あれ?見学?」
「!」


ぼうっと練習を見ていたら突然声をかけられてハッとした。視線を向ければ部員たちに声をかけていた可愛らしい唯一の女子生徒。あれ…この人も小柄だな。女子だからそれは可愛いで済まされることだけど。


「い、一応見学…です」
「マネ希望?それとも女バス目当てだった?もしくは他の部?」


今日女バスは練習試合でいないんだーバレー部なら向こうだよ、通って大丈夫だけど

と、親切にバレー部の方を指差して教えてくれる女子生徒。出入り口から入って奥の方で確かにバレー部が練習をしていて、そこ目当てだと今このバスケ部のコートを通って行かなければいけない。壁沿いを行くとはいえ、先輩ばかりだろう部の練習を邪魔しそうで恐れ多い。まぁ私はバレー目当てではないんだけど。


「いえ、バスケ見に…来ました」
「そっか!今日は男子だけだけど、よかったらゆっくりしていって」


にこっと笑ったその人は本当に可愛い。女子から見ても可愛いと思うんだから男子への破壊力はどれほどのものなんだろう。私と違って小柄でこう…守ってあげたくなるような人だ。いたって平均身長で可愛げもない私にとっては、何もかもが羨ましい存在。


「八代さん!!」


この、声は。

視線を向ければ、練習をしていたはずの車谷空がこちらへと駆け寄ってきていた。しかも凄く嬉しそうな顔。その顔弱いからやめてほしいんだってば。


「見に来てくれたんだね!よかった!」
「車谷君、知り合い?」
「うん、前にちょっと話してさ。バスケやってたようだから誘ったんだ」


目の前で女子生徒と話をする車谷空。二人の身長差がすごくぴったりで何だか少し複雑な気持ちになってしまった。なんだろうかこのモヤモヤ感。私、この人より大きいもんな、

……ん?

そういえば何でこの人、女子生徒に向かってタメ口で話してるんだろう。慣れた様子で部員に声をかけていた女子生徒は、今の時期からすれば絶対に同級生じゃない。新入生なら雑用がいいところだろう。ということは私より年上だ。
そんな年上の人と、タメ口


「……あれ?」
「?」
「……あの…」
「なに?」
「………同い年?」


二人を交互に指差して引きつる頬をそのままに訊ねると、二人とも当たり前だというように平然とした顔で頷いた。


「……え。先輩?」
「何で僕にだけ言うの!?列記とした2年生だよっ!!」


車谷空…先輩を、信じられないという表情で確認したけど、彼は2年生だと豪語する。私よりも身長なくて、精神年齢も私より低そうなのに、そんな彼が 先輩。……2年生か…成長期、もう来ないんじゃないか、この人。


「…ごめんなさい、第一印象が小学生だったもんで、年上という発想が」
「八代さん、正直に言えば全部許されると思わないで…僕だって傷つくし怒るよ」


むうっと睨みつける先輩だけど…申し訳ない。全く怖くないのだ。なんだろう、この可愛い人は。
バスケしてる時とは全然違う表情を見せるんだなあ。


それから先輩より女子生徒…七尾さんを始めとした他の部員を紹介してもらう。他の部員の人もそれぞれの個性が強くバスケが上手い人たちばかりで、正直思った以上にレベルが高かった。こんな学校にこんな選手たちがいたなんて思いもしなくてちょっとした収穫だった。

見てるだけなら、充分面白いと思う。特に──
私は、先輩のプレーが 予想以上に好きらしい。他にも上手い人がいるのに、何故だか最終的に目で追ってるのは先輩なんだもんなぁ。



「八代さん!よかったらちょっとやってこうよ」
「…え!?いや、でも私バッシュもないし…」
「じゃあ明日から持ってこないとだね!」
「明日なんてないです…!」
「え?ないの…?」
「う…」


思わず出た本音に不安げに振り向いた先輩。その表情を見ると、何も言えなくなる。最初に練習を見に行くことを断れなかった時と同じ感覚だ。
私はまた無碍にすることが出来ず、小さな声で「じゃあ…ちょっとだけ…」と言うしかなかった。だって、そんな返事にでも嬉しそうに笑う先輩を見たら、もう。

──あれ?何だろうこの感じは。



(まだつづきます)
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