ずっと薄暗い日々を過ごしていた。

そんな日々に光を差し込んだのは あなたなんです。


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『うっわ、自主練なんてしてるよ』

『キャプテンだからって気合い入れすぎ』

『ほんと八代さんの熱意には私たちついていけないわ』

『これで部の練習増えたらどうしてくれんのよ。勘弁してほしいんだけど』


『別に勝利とか 目指してないし』




真剣の「し」の字もない程に不真面目なチームメイトに囲まれた、そんな部だった。
周りから見たら大したことのない練習量もかったるいと言いだす彼女たちには諦めを覚え、部の練習では足りず自主的に練習を始めた私。
それを練習量を増やしてほしいのだという遠回しのアピールだと勘違いした顧問は、練習量を増やし、望んじゃいない展開に何人もの生徒が部を辞める結果となった。

中学時代の部活は、活き活きとした輝きも敗北に涙する悲しみもない空っぽな場所で、空虚な生活しか過ごせなかった。
部員だった人には無視され、その部員の友達にまで変な噂が広がり、気付けば私に関わってくれる人はごく僅かな友達だけだった。

そんな、濁りきった中学生活だった。



だから


先輩
あなたが真摯に練習に取り組む姿を見て私はホッとしたし、感動したし、救われたの。
きっと自分よりも練習をしてる人なんてごまんといる筈だと思ってたけど、実際には出会わなかった。そんな人に出会えた安心感。
見た事のないような精巧なシュートを、何度でも繰り返すその姿には言葉を失った。どれ程の努力をすればここに辿り着くのだろうと胸が熱くなった。

そして

バスケに真剣になって失ったものがある私はずっと悩んだ。私がしたことは間違いだったのかと。ただ、好きなものに向かい合っただけなのに と。
そんな悩みが馬鹿馬鹿しくなったの。
心が軽くなったの。

救われたんだよ、先輩。





「こんにちはー…」


そっとドアを開ければ、既にそこには男子バスケ部の人達が揃っていた。すぐに目に留まるは、一際小さい彼。


「八代さん!今日はバッシュ持ってきた?」
「…はい」


その無垢な笑顔に自然と私の頬も緩んでしまう。相変わらずの子供みたいな笑顔だけど、真剣に練習をする姿は格好良いんだよなあ。本当に不思議な人だと思う。だから目が離せない。


「なんじゃ、今日も来たんか」
「…夏目さん」


声をかけられて振り向けば、ボールを片手に夏目さんがそこに立っていた。彼は女子からモテてはいるようだけど、決して目つきが良いわけではない。人類を二種類に分けるとすればこの人は確実に不良だ。小学生みたいな先輩を見た後だと、尚更。だからといって別に怖気づくような可愛げがある私でもないし、態度は素っ気ないけど悪い人ではないんだと昨日見学して分かった私は肩を竦めて答えてみせた。


「誰かさんからのお誘いが止まなくて」
「え?八代さん誰かに誘われてるの?」
「あー…お前も苦労するのォ」


天然ボケを発揮している先輩を見て夏目さんも呆れた表情を見せた。ね、苦労するでしょ。きっとそれは私よりも付き合いの長い夏目さんのが分かると思うけど。多分先輩はこういう無意識のうちに人を引き寄せているんじゃないかなと思う。彼の魅力に惹かれバスケ部に入った人が、きっと一人はいるはずだ。

嫌じゃったら適当に流してええんじゃからな

と、軽く言い残して立ち去り、練習を始めた夏目さん。冗談混じりだったけど、何となく言葉から私を気にかけてる意味合いが伝わってくる。一見変な人ばかりだけど、本当にこの部のみんなは優しい。


「…八代さん」


私も先輩も夏目さんの背中をボーっと見つめていたけど、横にいた先輩に声をかけられて私は視線を向けた。少し低い位置にある彼は未だに夏目さんを見つめたまま。


「はい?」
「八代さんさ、どうして僕だけ名前じゃなくて『先輩』って呼ぶの?」
「……」
「トビくんだって今夏目さんって言ってたし、モキチくんも茂吉さんだし、同じ女子でも七尾さんは七尾さんでしょ?どーして僕だけ?」


それには、いくつか理由がある。
基本的に人のことを苗字で呼んでいた私は、先輩の言う通り夏目さんのように上級生には“さん”をつける形で苗字を呼んでいる。それが普通。
だがしかし、先輩の苗字は“車谷”。珍しい苗字のうえ長くて言いづらい。名前はすごく馴染みのあるものだけど…名前で呼ぶのは、恥ずかしい。
そして第一印象が小学生。そんな彼が年上の先輩だという衝撃が強く、“先輩?この人が私の?先輩?”と何度も脳内で確認していたため“先輩”という単語に馴染みができた。だからって皆を先輩と呼ばないのは…単純な理由だった。


「それはですね」
「うん(ドキドキ)」
「先輩が 特別だからですよ」
「えっ」


私の言葉が予想外だったのか目を丸くして一瞬固まってしまう先輩。頬はだんだんと赤く染まり、私から視線を逸らし無造作に黒髪がはねた頭をかきながら「そ、そっかー僕って慕われてるなあ」なんて言っていた。私の勘違いでなければちょっとニヤケているような。この人のことだから、純粋に言葉のままに受け取り、素直に喜んでいるだけなんだろうな。
本当、心まで子供みたいな人。だけど、

私は そんな先輩を好きになってしまったようだ。




(まだ折り返し地点)
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