上手く説明できないけど

僕にとっても君は“特別”だったよ。



▼△▼




何も考えないようにひたすら練習に打ち込んだ。七尾さんにいつもと様子が違うから大丈夫かと聞かれたけど、大丈夫だって返した。


「そーいや八代遅いな」
「今日休みか?」
「あーだから空坊…」


百春くんが八代さんが来ていないことに気付き、ヤスハラさんがきょろきょろと辺りを見る。口角をあげてニヤニヤと僕を見るナベさん。僕の考えが分かっているような風で良い気持ちはしなかったけど、今は反論する気も起きなくてタオルで汗を拭いながら先輩たちに告げた。


「八代さんは、もう来ないですよ」
「あ?」
「他の部に決めたそうです」
「はぁ!?」


僕の言葉に先輩たちは口を揃えて驚きの声をあげる。モキチ君は何考えてるのか分からないけど、トビくんは少なくとも意外だったような表情だった。七尾さんも同じく八代さんがバスケ部に入らなかったことが意外だったのか、僕に詳しい説明を求める。


「やりたいことを見つけたんだって」


その場で色々聞くことができなかった僕は、理由なんてそのぐらいしか知らない。でも、そんな簡単な理由だけど、それって凄く良い事だと思う。望んでその部に入ったんなら、きっと八代さんにとって正しい選択だったんだ。僕がバスケをやりたくてバスケ部を選んだように、きっと八代さんも大変だけど楽しい生活を送っていけると思うから。


「……分かりやすい」
「八代が来るたびに一番嬉しそうだったの、空だからな。…大丈夫かよアイツ」


モキチくんと百春くんの言葉は僕には聞こえなかった。


きっと良い事だった。
たとえバスケじゃなくたって、八代さんにとっての目標ができたのなら。

でも、バスケ好きなんだと思ったんだけどな。練習参加してるの見て、バスケ上手かったから絶対練習頑張ってたんだ、それだけバスケに対して真剣なんだって思ったのに。
僕の思い違いだったのかな。でも毎日練習に来てくれてた。…僕が最初に誘ったのが駄目だったとか?それって凄く申し訳ないことを……



『先輩が 特別だからですよ』




──寂しくないといえば、嘘になる。

バスケを選んでもらえなかったことも、もう八代さんがバスケ部に来ないことも
「どうしてバスケ部じゃないの」って問い質したいところだけど、そんな子供みたいなこと流石に後輩に出来ないし
ちゃんとセンパイらしく、笑顔で送り出さないといけないと思った。…あの時、僕はちゃんと笑えてた、かな。


別に部が違っても、学年が違っても、全く会えないわけじゃない。
今度会えた時は、八代さんが別の部に入ったことに罪悪感を覚えないように、僕は応援してるよって気持ちが伝わるように
笑顔で、君に挨拶をするよ。


会う事が減ってしまっても、八代さんにとっての“特別”として在り続けたいから。




(唯一空視点。次回で終わり)
.
X i c a