「びっくり、した」



人気の無い体育館裏で、首に回したタオルで汗を拭う百春に呟いた。

体育館からはバスケットボールの弾む音がこっちにまでよく聞こえてくる。
練習頑張ってるなあ。何か凄く大変そうなメニューだったなあ。ちっちゃい男の子もいたけど、あの子も同じメニューこなしてるのかなあ。


「……だろうな」


今まで黙っていた百春が、暫くの沈黙の後に口を開いた。
私は少しだけ気まずくて百春を見ることが出来ず、たまたま見つけた木の枝に止まる鳥を見つけてボーっと眺めていた。


「まさかまたバスケやってるなんて思わなかった」
「…ん」
「それなのにリーゼントはそのままなのが倍増しで吃驚した」
「ほっとけ」


百春と最後に会ったのは、中三の卒業式の時だな。
でも結局百春はその卒業式さえすっぽかしてどっかで遊んでたんだっけ。煙草吹かしながら。
そんな不良へと成り下がった百春には最初幻滅したのを、今でも覚えてる。

バスケ部でシュート入んないくせして自信満々で頑張っちゃってる百春好きになって
部活の後も後輩の子(コニシ君だっけ)混ぜて練習してる百春はバスケ好きなんだって思って
凄く一生懸命な人だなって思った。

それなのに突然バスケ辞めてリーゼントにして煙草吸って喧嘩ばっかして変な連れといて
みんな、怖がってたな。
あたしも、百春が不良になる前は普通に仲良く話してたけど それも終わってたな。


「…常盤君の云う通りだったんだ。まさかバスケ部入ってたなんて。それで試合までやってさ」
「……アイツから聞いたのか。ていうか何でお前ら知り合いなんだよ」
「バンド仲間」


まあ、練習ではほとんど会わないけどね。

最初聞いた時は耳を疑った。
同じ名前の違う人かと思ったけど、クズ高で「ももはる」って云ったらコイツしかいないと思った。(モモハルなんて名前そうはいないよ)
常磐君のいる丸高と練習試合をしたらしく、中々凄いチームだったとか云ってて、驚く反面  嬉しくて


何だ、やっぱり、バスケ好きなんじゃんか。



「…見た目は変わらないけど、前の百春だね」
「あ?」
「何か、雰囲気柔らかくなったっていうか」
「そうか?」


ちょっと勇気を出して振り向くと、百春は頭を掻きながら視線を逸らしていた。


「シュートは入るようになった?」
「………」
「ダンクとかでなら入るんじゃない?」
「やっても入んねーんだよ!!」
「…何かもうここまで来ると奇跡だよね」


ていうかダンク出来るんだ、冗談で云ったのに。まあジャンプ力はあったもんね、昔から。
あれだよ、宝の持ち腐れ。(絶対本人に云ったら殺されるな)


怒ってるんだか拗ねてるんだかよく分かんないけど、確かに真剣にバスケをやってたあの時の百春がそこにいて、私は小さく笑った。
急に笑い出したから百春は何かとこっちを見てきたけど、絶対教えてやんない。
バスケをまたやってくれて嬉しくなったのも、百春のこと好きだったってことも。今も、本当は好きだってことも。


「じゃあ百春にやる気を出させてくれたっていう小さな勇者にお礼を云いに行こうかな」
「あぁ!?つーか勇者って何だよ!!」
「え?だって不良の百春を説得したんでしょ?凄すぎだよ」


見た目小学生なのにな。私よりも、私達がいた中学の誰よりもあの子は勇気があるな。度胸が据わってるっていうか。
バスケしてる時、楽しそうだったな。良い子そうだな。弟に欲しいな。


「よし!百春も早く練習戻らないとまずいもんね!行こう!!」
「お前は行かなくていい!!」
「良いじゃんか」
「だいたい何でお前来たんだよ!!」


歩き出そうとする私に声を張り上げる百春。
最後の言葉に私は足を止めて、振り向かずに口を開いた。




「――…ただ、百春に会いたかっただけ」




百春から返事は来なかった。
私は恥ずかしくて顔も見れず、何を云われるのかと不安になって逃げるように歩き出した。
すぐ体育館に行こう。千秋にも他のメンバーにも挨拶して、小さな勇者君には頭撫で撫でしておこうかな。「よくぞ百春を(千秋もか)改心させてくれた!」って。(ただあたしがあの子を撫で回したいってのもあるんだけど)


「……?」


けれど、私は腕を捕まれてぐいっと引っ張られて




「――――」




…き、きす…を、されました。(…え?)



「……俺が、怖くねぇのかよ」
「………う、うん」
「中学ん時、怖がって近づきもしなかったのに」
「……百春も怖かったし、百春の連れも怖かった。それに、幻滅もした、から」


目の前で百春は私をジッと見たまま訊いてきた。
私は真っ直ぐな百春の瞳から視線を逸らすことが出来なくて、そのまま正直に答えた。


「……幻滅したのに、会いたいって思ったのか」
「……うん。百春がバスケやってるって聞いて嬉しかったし……百春のこと、やっぱ好きだったから」


呆然としながら、何だか口が滑ったような感覚で私は余計なことまで口走っていた。
それに気付くのは、目の前で百春が顔を真っ赤にしてから。






心臓に悪い、

(ばっ…急に何云い出してんだ!!ていうか何でお前が先に云ってんだよ!!)(え?ええ?)(台詞とんな馬鹿女…!!)

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