『すまん、気持ちには応えられんわ』


『俺よりええ男なんて、ぎょーさんおるよ』





そう云われて、人生初の告白が失敗に終わってしまったあの日から一ヶ月。
あの日の翌日、あまりにも突然に転校してしまった。誰もが転校を知ったのはその当日のことだった。
送迎会なんてやる暇もなく、県外へと行ってしまった、私の大好きなあの人。



ねぇ、ニノ君。

私はどうしても、貴方のことを忘れられません。



恋とは不思議で厄介なものだ。
恋が楽しいと云ったのはどこのどいつだろう。(…私の友達です)

辛くて、悲しくて、心が押しつぶされそうで。
嫌いになりたいのに、どんな姿を思い浮かべたって嫌いになれる要素が見つからない。
好きになったらもう、終わり。何だって許せてしまう。

声も、目元も、笑顔も、プレーも、何もかも。
全て好きでたまらない。


どれだけ他の人を好きになろうと思ったろう。
ニノ君を忘れようと思ったろう。

ずっと、無理矢理に抑え込もうとしていた。


――なのに、なのに





「ニノーー!!」
「頑張れー!!」




何で…ニノ君がいるチームの応援をしているんだろう。


どこに行くのかも特別教えてもらえず、友達に半ば強制的に連れてこられた県外の体育館。
そこで行われていた試合。コートにいた――目立つ金髪。

新しい学校で、新しい仲間といる。
バスケをやめていなかったことにも、相変わらずな姿にも、驚きを通り越して涙が溢れそうだった。
私がニノ君を好きだったことを知っていた友達は、この為にわざわざ連れてきたらしい。なんて奴だ。

これじゃあ、もっと忘れられないじゃないか。


一瞬だけかち合った、視線。あれは絶対に目が合った。
私達、ニノ君の元クラスメイトがいることに驚いていたけど 私を見たら、もっと驚いたように見えた(う…気まずい)

思わず目を逸らしてしまった私は、なんて馬鹿なんだろうか。一気に後悔が押し寄せるけど、どうしようもなく。
ちらりと視線を戻した時には、ニノ君はプレーに戻っていた。


久しぶりに見るニノ君のプレーはやっぱり凄くて、素人目から見ても上手いって分かる程だった。
私の中では、一番輝いて見えていたニノ君。
クラスでもすぐに人気者になって、人見知りで地味な私とは 大違い。


(……)


そうだ、分かっていたはずだ。
私とニノ君は、遠い存在だって。
ニノ君の視界に、私なんて入っていなかったんだと。


見ていれれば良いって、思ってたのに。
……今は、そう思えるようになりたいな。どうせもう会えなくなるのに、どう思おうと意味は無いけど。





「…はぁ」



試合は何とか勝利したニノ君がいるチーム。
友達たちはニノ君のところへ盛り上がりに行っただろうけど、私は会わす顔も無いし、どうせ私のこと忘れてるだろうし、隠れていることにした。
といっても、体育館の外でボーッとしているだけ。体育館の出入り口横にいたから、コートの中の声もキュッキュとバッシュが鳴る音もボールが弾む音もよく聞こえる。

何か…一人でこんなところにいると、友達いないみたいだな…(悲しくなってきた)



「何で会いに来てくれへんの?」
「!!?」



突然後ろから聞こえた一ヶ月ぶりの声に過剰に反応する。
かなり後退りして、声をかけた張本人――ニノ君と距離を置いた。



「……もしや嫌われた…?」
「ちっ、ちが、そういうわけじゃ…!」


そんな私の態度に不安そうに訊ねてきたニノ君に、慌てて首を振って否定する。
よく見れば、汗だくでまださっき試合に出たTシャツのまま。


「…一ヶ月も経ちゃええ男見つかったやろ?自分顔悪ないんやから男の一人ぐらい出来たんちゃう?」
「……」


何となく嘘っぽいと思える笑顔でそう声をかけてきたニノ君に、最初何も云えなかった。
無言の私にニノ君が何かと思い首を傾げだした頃、手をぎゅっと握って勇気を振り絞り口を開いた。


「…見つからない」
「!」
「――…ニノ君以上に良い男なんて…見つけられる気しないよ…」


あぁああ云ってしまった。玉砕してるのにまたこんなこと云って、しつこい女って思われていたらどうしよう。
嫌われるのは、嫌だな。

云ってからどっと押し寄せる後悔。私って後悔してばかりだ。


「ご、ごめん、何でもな――」
「八代はさ、遠距離恋愛したことある?」
「…え?」


え、遠距離恋愛?まず恋愛をろくにしたことが無いんですが…。
ていうか今、私の苗字…


「俺、そういうの出来る気せえへんねん。会えへんのは辛いし、会わないうちに相手が浮気してるかもーとか思ってまうし、欲求不満になりそうやし」
「…はぁ…」


と、突然何なんですか…。
よく分からないけどとりあえず相槌を打っていると、


「八代は?どう思う?」
「え?」


私に振られ何かと思いながらも、少し考えてからチラリとニノ君を見て、俯く。


「私は……両思いになれればもう嬉しいし…遠くにいたって、ずっと好きでいると思う、な」


だって…実際、私はずっと貴方が、好きだったから。





「――…そおか」



聞こえてきたのは、優しいような…嬉しいような?そんな柔らかい声。
恐る恐る顔をあげてみると、ニノ君は目を細め微笑みを浮かべていた。うわ…格好良いな。普段の笑顔とは違うから、私はまたドキッとして、顔が熱くなる。
ああもう、いい加減ニノ君のこと忘れられないだろうか、私。ずっとこんなんじゃ駄目だ。


「八代」
「、?」


苗字呼ばれる度にドキッてしながら、ニノ君へ視線を向ける。
今度は何故か申し訳無さそうな、困ったような笑顔だった。


「前、フッてごめんな」
「……い、いえ…」


今更謝られるってどういうこと。また気まずくなるだけだし嫌な思い出が蘇ってくるだけなんですが。


「…次の日引っ越すような奴と、付き合ったって辛いだけやろーと思て」
「……え?」
「ほんまは嬉しかった」
「…………え」
「けど、遠距離なんて不安ばっかりやん?遠くにおるような奴と八代がずっと付き合うてくれるかも分からへんし…ていうか浮気とかされとったらほんまヘコむし」
「……………、」


呆然とする私を他所に、ニノ君はぺちゃくちゃと思ったことを喋っている。
言葉を聞いてはいるのに、全然理解することが出来なかった。

やがてニノ君は混乱状態の私に気づいたらしく、口を開けてぽかんとしている私のアホ面に小さく吹き出した後、とびっきりの笑顔を向けてくれた。
それはさっきとは違う、本物の





「俺、八代が好きや」









君しか見えない

(俺も八代しか見えへんねん)(…えぇええ!?嘘だ!!)(ほんま。せやから付き合お)(……ええええ!!)


モンスターバッシュやってた一か月前に前の学校にいたか?知りませんよそんなの(どーん)



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