『もうバスケなんかやめる』
泣きべそをかきながら云う空。あぁ、これを聞いたのは何度目だろう。
河原でしゃがみこみ、由夏さんから貰ったって嬉しそうに話していたバッシュを放った。
あたしは苦笑してからそのバッシュが入った鞄を拾い、泣いて鼻水を流しているだろう空に近づく。
小学生だとか関係なく小さなその背中を見ながら、あたしは声をかけた。
『今度はどうしたの』
『試合、出れなかったんだ…っ僕は小さいからって、試合出してもらえなかったんだっ』
『……』
『もうやらない!バスケなんか、』
『確かにさ、』
自棄になってるだろう声を張った空を遮り、あたしは静かに口を開いた。
それに黙って、空はこちらを見ることなくあたしの言葉の続きを待っている。
『空は頑張ってるよ。プレーだって小学生にしては中々出来てると思うよ』
『じゃあ、』
『由夏さんなら絶対云うね。「それでも、空の努力は身長に敵わなかったんだ」って』
『由夏さんは小さい方だけど、試合出て活躍してたじゃん。あたしにとっては偉大な人だね』
『お前は由夏さんの子供なんだから、同じように身長に敵うぐらいのプレーヤーにならないと』
空からは何も返ってこなかった。
あたしは小さく笑んでから、ゆっくりと歩み寄りバッシュの入った鞄を空の横に置く。
そして俯いて川を見つめている空の頭に手を置いて、意地悪く云ってやった。
『やめるなんて云っても、好きだからやめられないくせに』
…やっぱり、空は何も云わなかった。
これが図星だからだっていうのは、長い付き合いだからよく分かる。
あたしが小学校に入学する頃には園児の空が隣にいたからなぁ。世に云う幼馴染。
『――やめるなんて、云わないでよ』
『あたし、バスケしてる時の楽しそうな空、好きなのにな』
「あぁ、そんなこともあったなぁ。よく覚えてたね」
『流石に僕だってそれくらい…!』
「あはは!そんで?」
久々に空の声を聞いた。
あいつは由夏さん追って神奈川に行っちゃったから長野にいるあたしは当分会えない。
このまま疎遠みたいなのになって、そのまま連絡もせずに空とは関係が無くなっちゃうのかもな、とかちょっと寂しいことを考えてたんだけど、
見事に単純というか馬鹿というか、らしいっていうか、空はこまめにメールしてきていて、何だか顔は見ないけど今までとあまり変わらない関係だった。
電話越しに久々に聞いた空の声は、大して変わってなかった。
受験勉強のために広げた参考書とノートをそのままに、シャーペンを転がしながらかれこれ数十分あたし達は話していた。
『――…インターハイって遠いね』
突然、少し落ち着いた声が返ってきて驚いた。
目を丸めたけど、すぐに「当たり前でしょ」と返す。
『……でも、僕絶対行くよ!インターハイ』
「そっかそっか、目標があるのは良いことですな」
『その時には、認めてもらえるように頑張るから』
「……ん?」
「認めてもらえるように」?誰に?
疑問符を浮かべていると、空はそれに気付いたのかいないのか続けた。
『応援してくれてた人には、僕のプレー見てもらって、認めてもらいたいから、さ』
「え、それって、誰のこと――」
『き、決まってるじゃんか』
空は少し照れたような声で、あたしの名前を呟いた。
……何だ、こいつは。あたしに認めてもらおうとか、思ってたの?生意気な。
「……ばーか」
でも、なんか 嬉しいかも、な
「とっくの昔から、あんたの努力は認めてるよ」
自分を認めてくれる人
(っ僕のこと!)(…?)(ずっと、見てて、くれませんかっ?)(――…)
お前しか見えてないよ、ばーか