霞む視界いっぱいに広がったのは、泣きそうな顔した女だった。
視界がはっきりした頃には、女…あいつも俺が目を覚ましたことに気付いたらしく、一気にほっとしたような顔をする。
辺りを見てもカーテンで覆われていた。…保健室か。
まさかコイツが連れてきたのか……、だろうな、制服に俺の血ついてる。
んだよコイツ…普通あんな量の血見たら怖がるだろうが。何普通に保健室に連れ込んでんだよ…ていうかさっきの喧嘩見て普通避けるだろうが…。
「ヒトカゲ君!大丈夫?」
「……」
本当に心配そうに覗き込んでくるそいつ。…こんなの初めて、だな。今まで独りだったから。
それが当たり前だったはずなのに――…いつの間にか、こいつがいたな。
それも 今日で終わりだ。
「…てめぇの所為だ」
「え…?」
「てめぇがいなきゃ…こんなになってなかったんだよ」
「……」
「うぜぇんだよ!」
呆然とする奴の顔を見れなくて、腕で顔を覆いながら、最後の言葉を振り絞った。
「もう 俺の目の前に 現れんな――…」
沈黙。
少しだけ奴を見てみれば、ぼろぼろと涙流してやがって、
隠すように俯いて、震える声で、
「ごめ、ん なさい…」
それを最後に、保健室を走り去った。
「……」
ころころ顔変えるとは思ってたけど…涙は初めて見た、な。
腕をおろして天井を見ながらボーッとしていると、不意にカーテンが少し開き、黄土色の頭した男が顔を出した。
「云いすぎやないんか。あいつ、お前が心配やからって授業もサボってずっと側におったんに」
「…うるせぇ」
良いんだ。これで良い。
あいつら、あの女を俺のだと勘違いしてやがったから、もしかしたらあっちに危険がいくかもしれねぇ。
…誤解されて、あいつを巻き込むわけにはいかない。傷つけるのだけは、ごめんだ。
(…泣かせた、けどな)
「そういやあの子、弁当置いとったわ」
「…?」
「後でお前にやるんだっちゅうて笑っとったで」
血を出しすぎたからか少し眩暈がするが、体を起こしてカーテンを開ける。
すぐ近くにあったテーブルには、見慣れた弁当箱。
時計を見たらあれから二時間は経ってる。(…どれだけ寝てたんだ俺は)
もうかなり時間経ってとっくに冷めてるだろうな…でも、
(最後の、弁当だ)
痛む体を動かして、テーブルの側にある椅子にどかりと座る。
どうやら保険医らしい黄土色頭の男は、先公のくせにキセル吹かしながらこっちを見てやがる。
弁当包みをほどいて中身を見る。…今日も玉子焼き作ってるじゃねぇかあいつ…。
流石に卵は飽きた。いい加減肉じゃがマスターしてこいよ。
…手作り料理食ったことねぇから、肉じゃがをあいつに頼んだんだよな。
けど…結局食えずじまい、か。
口に入れた玉子焼きは、最初に食った頃より柔らかく甘みがあり、やけに美味く感じた。
――そういや俺、あいつの名前さえ、知らなかった。
不良と平凡少女1-5
(…何、泣いてんだ 俺)
ヒロインを巻き込みたくないから…ね。全然ヒロインの所為になる理由無いけど←
フライングした保険医さんはオレンジ諸島編後半で登場します。
次回で不良は終わりかな