購買で買ってきたパンの袋を開け、それにかぶりつく。
フェンスに腰掛けて見る景色は、いつも通りだ。
いつも通り静かで、いつも通り独り。
いつしか毎日来ていた物好きな女子生徒は、あの日を機にすっかり来なくなっていた。
それでよかった。
これで、彼女が何かに巻き込まれることは無いだろう。
どうせずっと独りだったから、もう慣れている。
「…?」
屋上の扉が開く音がした。が、振り向くことはしないでただ町を眺める。
誰だか知らないが、どうせ自分がいると分かれば逃げ出すことだろう。
そう思い相手にはせず、ただ無言でパンを食べていた。
予想通り、扉はすぐに閉じられた。
人気もないから屋上を出て行ったのだろう。
何を思ったのか、ふと振り向いて屋上の出入り口の方を見ていた。
「…!!」
――そして、目を開く。
扉の側にぽつんと置かれた、見覚えのある色の弁当包み。明らかに、彼女が持ってきたものだった。
ということは、彼女はここに来て、これを置いて無言で去ったということ。
ヒトカゲはフェンスを飛び降り、弁当のところまで駆け寄って腰を下ろす。
弁当の上には小さなメモ用紙が置いてあり、シャーペンで書かれた小さな文字が並んでいた。
“約束でしたもんね。もうここには来ません、安心してください”
メモ用紙を見てから、弁当へ視線を戻す。
その場で胡坐をかき、一人弁当を広げた。
「……」
弁当箱の一角に、いつしか自分がリクエストした肉じゃがが。
…あぁ、これを届けに来たのか。もうこれで、本当に彼女との繋がりは 無い。
箸を手にとり、肉じゃがをつまむ。
ほどよく柔らかく、味も染み込んでいて悪くなかった。温かみも残っていて、肉じゃがの美味しさは残っている。
これが、肉じゃが。
今まで以上に感じる 愛情。
「……、」
違う、彼女は いつも愛情を詰め込んできてくれたのではないか。
こんな、ろくでもない不良なんかに、笑顔向けて、毎日屋上までやってきて。授業サボってずっと看病して。目を覚ませば本当に安心したように笑って。
(――畜生、)
孤独も痛みも 何てことはなかったのに
どうしてこうも怖くて仕方ないのだろう
彼女との繋がりを、失うのが
弁当を全て掻っ込んで、乱暴ながらも弁当包みでそれをまとめ、手に持って立ち上がる。
屋上を出て、階段を降り、廊下を歩き、向かう先は今まで全く縁の無かった自分のクラスの教室。
自分を見て立ち止まり目を疑う者や
怖がって避ける者もいた。
けど、関係無い。
ずんずんと廊下を歩いていき、教室のドアを勢いよく開ける。
驚いてこちらを見る中から、机に突っ伏している見覚えのある姿を見つけ真っ直ぐに歩み寄った。
彼女の近くにいたオレンジ髪の少女が、ヒトカゲが近づくと思わず立ち上がり距離をとった。
その生徒が座っていた椅子にどかりと座り、未だ突っ伏したままの彼女の頭を叩く。
「?」
何かと顔をあげた彼女も、ヒトカゲを見るなり目を丸める。
驚いたまま言葉が出ない彼女の机に弁当箱を置いた。
「ぇ…」
弁当箱とヒトカゲを交互に見て未だ困惑している彼女に、ヒトカゲは腕を組みながらぼそりと呟いた。
「……美味かった」
「――…」
ヒトカゲの言葉に、彼女は目を開く。彼からこうも素直な、自分にとって嬉しい言葉を貰ったのが初めてだったから。
思わず嬉しくて頬が綻ぶ。
「あ、ありがとう、ございます…」
ニヤケそうになる頬を必死に抑え込みながら、小さく頭を下げお礼を云う。
教室にいた生徒や、廊下からヒトカゲが入ってくるのを見ていた生徒が二人の光景をジッと見ている。
それもそうだろう、誰かと一緒にいるところなんて見たことがなかったヒトカゲが、今まで全く目立たなかったような平凡な女子生徒と会話しているのだ。そして女子も女子で普通に相手をしているのだ、驚きもするだろう。
「……お前…名前は」
「え?あぁ…イオ、です けど」
そういえば名乗っていなかった、と思い出したのか戸惑いながらも答える彼女…イオ。
ヒトカゲは腕を組んだまま窓から外を見る。視線を合わせられなかった。
云おうかどうかと考えている間、ただイオもヒトカゲが何故ここに来たのか分からないので、戸惑いながら恐る恐る彼を見るだけ。
「……、ヒトカゲ君…?」
恐る恐る訊ねた途端、ヒトカゲが立ち上がった。
いきなり行動を起こしたヒトカゲに驚いていると、軽くではあるが胸倉をつかまれ、力ずくで立たされる。
何が起きたのか分からないまま、ヒトカゲの顔が近づいてきて、唇に感触。
「――!?」
誰よりも驚いていたのは、二人を見ていた周りの生徒達。
やられた本人は、ヒトカゲを目の前にしてただ呆然と相手を見つめるだけ。何が起きているのか状況が把握出来ていないような状況だろう。
ヒトカゲは、イオに顔を近づけたまま、息が簡単に触れるような距離で、顔を真っ赤にして目を逸らした。
「……最初はお前を巻き込みたくなかったけど、」
「……」
「…元から俺は、自分勝手なんだよ。テメェの事情なんて知るか」
何が云いたいのかも分からないまま、ただ黙って目の前の真っ赤な顔を見つめる。
「俺がお前を守る。だから」
「また、俺の為に屋上来いよ イオ」
目の前で、ボロボロと涙を零すイオに気付いたのか、ヒトカゲは慣れない手つきでそれを拭いながら「…何泣いてんだよ」
イオはその手を握って、至極嬉しそうに笑った。
不良と平凡少女1-6
(ねぇ、知ってる?あの一匹狼のヒトカゲに彼女できたんだって)(えー!?嘘!?)
あのヒトカゲが名前呼んでる…と、自分でさえ違和感を覚えます(…)