イオに笑顔で手渡された、可愛く包装された箱。
前振りもなくプレゼントなんてされたものだから、ヒトカゲは面喰ってしまった。
袋を見つめて何の反応も示さないヒトカゲに、イオもだんだん不安から表情が曇ってゆく。


「…ヒトカゲ…?」
「…何だよこれ」
「え、…チョコだけど…」


何故、チョコ。

そんな目でイオを見ると、ヒトカゲが何が云いたいのか分かったのか、戸惑い気味に説明した。


「だって…今日はほら、バレンタインデーだから」
「……ばれんたいんでー?」


初めて聞く単語を繰り返したヒトカゲに、今度はイオが面喰ってしまった。
明らかにヒトカゲの反応は、バレンタインを知らないというものだ。まさか、バレンタインを知らなかったなんて。


「えーと…女の子が、好きな男の子にチョコを渡す日のことバレンタインデーっていうんだよ」
「……は」
「いや…!その!だからってヒトカゲを好きとかそういうのじゃなくて!いや、好きだけどさ!これは義理チョコっていうか…いや、でも想いはある意味本物だけど…」


呆然とするヒトカゲに、イオは顔を真っ赤にして否定したりフォローをしたりと、まとまらないままに説明をしている。
チョコが入っているだろう袋を手にしたまま視線を彷徨わせて、どう説明しようかと頭を働かせた。


「だから、その…いつもお世話になってるお礼でというか…親愛的な意味を込めてですね」
「……」


恋愛感情があって渡したわけではなかったのに、イオも自分でどんどん恥ずかしいことを云っていることにより顔が真っ赤である。
ただ笑顔で渡して、それで終わるはずだったのに。


「……世話した覚えなんざねぇぞ」
「だって、ここまで一緒に旅してくれたし…ヒトカゲのおかげで手に入れられたバッジもあるし…本当に感謝してるから」
「………」


バレンタインのことも、今渡されているチョコの意味も何となく把握したヒトカゲ。しかしイオの言葉を聞いて、彼まで頬を赤く染めてしまった。
自分は好き勝手にやっているだけなのに…こうも真面目に感謝されると、調子が狂うばかりだ。本当に馬鹿正直でクソ真面目で……純粋な子供だと思う。

ヒトカゲは奪うようにしてイオから袋を取り上げる。
俯いていた顔をあげてヒトカゲを見たイオは、そのまま袋の中身を見る彼をじっと見つめた。その場で開けられると更に緊張する。


「……俺甘いの好きじゃねぇんだけど」
「え!!」


ヒトカゲの言葉に声を荒げた後、イオはがっくりと肩を落とす。


「頑張って作ったのにな……うぅ、ごめん…いらないよね」
「……」


イオの言葉を聞いて、ヒトカゲはチョコへ視線を戻す。そういえばチョコは到底店で売ってるとは思えない程歪なものばかりだ。
買ったのなら詐欺並のものだが、作ったのなら納得がいく。特に普段料理もしない11歳の子供なのだし。

ヒトカゲはジッと小さなチョコたちを見つめた後、一つを手にとって口の中に放り込む。
噛めば甘い味が口内を広がっていき、思わず顔を顰め低い声で呟いた。


「…あっめぇ」
「ヒトカゲ…む、無理しなくても…」


イオが止めるが、ヒトカゲは顰めた表情のままチョコを食べていく。
袋を取り戻そうと伸ばした手はヒトカゲの手に掴まれてしまい、思わず動きを止めてしまった。

結局袋に入っていたチョコは全てヒトカゲの胃袋へと消えた。
ヒトカゲは袋を押し返して、目を逸らしながら顔を青くして云う。


「…礼は云わねぇぞ」
「…うん!ありがとうヒトカゲ!」


嬉しそうに笑って逆にお礼を云うイオに、ヒトカゲは照れくさくなってとうとう背を向けてしまった。
顔は見えないが、赤い短髪から見えた耳も同じように赤くなっていて、イオは小さく笑うのだった。




縁が無かったバレンタインなど知らないヒトカゲ


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