※学パロ



「ミサワ先生、お前へじゃ」
「おう、そこ置いといてくれ」



自分のクラスから何人もの女子がミサワへ渡してくれといって差し出された綺麗に包装されたチョコレート。
直接自分で渡しにいけば良いものを……ミサワは忙しく、特にこんな日では中々会えないと考え、生徒たちは同じ先生である自分に渡したのだろう。


今日はバレンタインデー。
女子が、好意を寄せる男子へチョコを渡す日。

しかし自分には到底縁の無い行事。昔から女子とは関わりが無かったし、自分は変人扱いだったのでチョコなど貰えるわけもなく。
先生になってから渡されたかと思えば、美形で大人気のミサワへの物だった。

別に興味がないから悲しくはないが…はた迷惑である。
自分には何のメリットもない。



「アオイ先生は貰ったのか?」
「阿呆。わしが貰えると思うか」
「担任なら義理ぐらい貰っても良いと思うんだけど…」
「お前と一緒にするな」



隣の席で苦笑するミサワへは視線を向けず、大の苦手である書類整理を始める。
パソコンが使えないアオイには手書きで書類を書いていく作業は億劫なものでしかなかった。
ミサワはアオイを見兼ねて立ち上がり、授業の準備を始めて職員室を出ようとした。すると、職員室のもう一つの扉が開き思わず立ち止まる。



「失礼しまーす…」



入ってきたのは、アオイにとっては見知った生徒。それもそうだ。受け持っているクラスにいる生徒だから。
名前は確かイオ。…内気な性格なのだろう、ほとんどクラスの前で喋ることなど無いし、正直云って影は薄い。


「どうした」


声をかけると、イオはアオイを見るなり顔を真っ赤にさせる。そして両手を後ろに回した状態でアオイの所に来た。
ミサワはイオの表情に気付いて、そのまま職員室から出ずに様子を見ていてる。


「あ、あの…ですね、その……」
「…?」
「こ、これ…!」


顔は真っ赤のまま、後ろに回していた手をバッと前へ出す。
そこには、見飽きたぐらいの…包装された箱。見てすぐに何だか分かった。


「…ミサワ先生ならそこに」
「ち、ちがいます!先生に…」


立ち尽くしているミサワを親指で指すと、イオは慌てて否定して視線を逸らした。
相当恥ずかしいのだろう。アオイが見れないらしい。


「…わしにか?」
「……は、はい」


更に顔を赤くして、こくりと頷くイオ。
アオイは少しだけ驚きながらも、礼を云ってから箱を受け取った。

――まさか自分が貰える日が来るとは。
考えもしなかった。


「じゃ、じゃあそれだけなんで…!突然すいませんでした!」


云うなり、イオは最後に頭を下げてから職員室を出て行った。
ミサワは箱とイオが出て行った方を交互に見るアオイに歩み寄り、笑みを浮かべながら声をかけた。


「よかったじゃねえか」
「まぁ、な。義理でも貰うのは初めてじゃ」
「……え、先生義理だと思ってんの?」
「?」


「いや…あれは…明らかに本命だろ…」



俺でもあんな風に生徒から渡されたことは無いぜ。

アオイの鈍感さと、イオのまさかの想い人に、思わず頬を引きつらせるミサワ。
アオイは数回ミサワを見たまま瞬きをすると、無言で箱へ視線をおろした。



(アオイ先生、最近やけにイオのこと気にしてんな?)(…そうか?)


ヒトカゲ短編「不良と平凡少女」と同じ、シリーズとしてやるつもりで6月(←)に書いたやつでした。



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