奇跡が起きたと思った。


普段朝も放課後も部活ばかりでいる憧れのクラスメート…田島君が、今日は部活が休みとかで早く帰れるんだとか。
だからって私がどうこう出来る話じゃないんだよなあ、と自分の情けなさに溜息を吐いていた時、たまたま昇降口で田島君と鉢合わせしたのだ。
そして家の方向が同じだということが分かって、田島君の提案で一緒に帰れることになったのです。

因みに私田島君とまともに話すの、今回が初めてです。


いつもクラスの人気者で、野球も凄く上手い田島君。人見知りで特に取り柄もない私には遠い存在だった。
だから、今この時間はまさに奇跡だったんです。


自転車を手で押し、徒歩通の私にスピードをあわしてくれる。
ころころと変わる表情が可愛くて、純粋な小学生みたいで。
そのくせ――野球では真剣な表情を見せるから、私はすっかり彼に夢中だ。





「あ、オレ家ここなんだよね!」



田島君がそう云って足を止め、一軒の家を指差す。
あぁ…そういえば田島君ちって自転車で一分だったような……。
これじゃ歩いてもたった数分だけだ。寧ろ自転車必要か?って距離。

あぁ、奇跡の時間はもう終わりかあ。きっともう二度とこんなこと無いんだろうな。
…儚かった。



「そっか、じゃあ私もうちょっと先だから…」
「八代んちって学校からどんぐらい歩くの?」
「二・三十分…かな」



「ふーん」と返した田島君に、何でそんなこと聞いたのかなあと思いながら軽く手を振って別れを云った。
何かを考えていたのかハッキリしない返しをした田島君を最後に、私は道を歩きだす。


「………」


うん、数分だけだけど、用事とか無しで会話出来たのは嬉しい。
届かないと思ってたから、隣で笑ってくれただけで幸せ。しかも名前呼んでくれたし(名前、覚えててくれたし)
どうせ私なんかじゃこれ以上の関係にはなれないんだから。

本当に奇跡で…夢のような時間だったなあ。




「八代ーー!!」

「?」



ふと後ろから呼ばれて立ち止まる。
声ですぐに田島君だと分かったけど、何故呼ばれたのかは不明。
忘れ物でもしたのかと思いながら振り向くと…何故か田島君はこちらに自転車で向かってきていた。


「…!?」


訳が分からず固まっている間に田島君は私に追い付き、自転車から降りてニッと笑った。


「オレも八代んちまで行く!」




……………え


「……な、何故…」
「だってちょっとしか話してねーじゃん!もっと八代と話してーの!ゲンミツに!」



な、な、な、

何、云って―――…




「歩いてこ!あ、チャリは帰り使うんだ」
「え…」


笑顔で歩きだした田島君。だけど状況が掴めない私は呆然と立ち尽くすだけ。



…期待するな。期待するな期待するな期待するな期待するな。

きっと喋るのが大好きで私なんかともっと話そうと思ったのも気まぐれで。


届かないって、分かってたはずでしょうが…。



(期待しちゃう)

(何でそういうことするの)

(割り切ろうって、思ってたのに)





「……っ何で…何でぇ…?」



着いてこない私に、震える声で云う私に振り向いた田島君。
ボロボロと涙を流す私に流石に驚いていた。


「え!何で泣いてんの!?」
「…ごめ…っ」


期待してしまう
だけど無理だと分かってるから
何もせずに諦めちゃう自分に
優しく接してくれてる田島君に八つ当たりした自分に
悔しくて、悲しくて


「私なんかと話したって…楽しくなんか、ないのに…っ」
「…………」
「折角部活休みで、遊べるのに…!何で…」
「……」


田島君は私の云いたいことを理解したのか、「んー」と呟きながら頬をぽりぽりと掻く。
かと思えばこちらに視線を戻し、


「普段八代と話せねーじゃん」
「……ぇ」
「部活あるからまたこうやって一緒に帰れるとは限んないし、教室じゃ席も遠いし」
「……」



「オレさっきも云ったじゃん、八代ともっと話してーの!」




そんだけ!


云って、また小さな子供みたいな笑顔を見せる田島君に、言葉を失う。

あぁ、そうだ。
田島君が気になるようになったのは、この笑顔に惹かれたからだっけ。
それから明るすぎる性格に、自分とは正反対な彼に、憧れていたんだ。



「―――……」



この奇跡を、与えられたまま終わらせて良いのか?

脈なんて無いかもしんない。けど、少しでも近付きたい。
折角田島君が私と話したいって、云ってくれたんだ。



受け取って、受け入れるだけじゃ駄目だ。

私も 一歩踏み出さなくちゃ。





「……」
「お、泣き止んだ?」



涙をごしごしと乱暴に拭ってから、私の顔を覗き込んでいた田島君を真っ直ぐ見る。
少し雰囲気が変わった私に気付いたのか、田島君は体勢を戻して見つめ返した。
ギュッと、拳を作る。


「あ、の……」
「?」



「め…メアド教えてください…!」



「おーいいぜ」






やっとスタート地点

(い、一歩が小さいとか云わないで…!)


田島が偽者…orz
続きます。



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