最悪だ。雨に降られるなんて。確か今日はお天気予報のお姉さんが爽やかな笑顔で「一日晴れるでしょう」と伝えていたはず。傘いらずと言っていたはず。
だから私はお姉さんの言葉を信じて傘を持たずに登校したのだ。
それなのに帰ろうと思った矢先降られるって何なんですか。

歩いて、二・三十分…流石に傘が無いのは辛い。走っていく体力もないし、ずぶ濡れで帰るには長い時間だ。
どうしよう。友達の少ない私には横を通り過ぎて帰っていく人たちに見知った顔がいない。
誰にも頼れない。


(ど、どうしよう…)


家には誰もいないから迎えも頼めないし
これは雨が止むまで待つしかないのだろうか。


「うっわ結構降ってんなー」
「!」


ふと聞こえた声に、思わず反応して声のした方を見る。
そこには私の憧れの人…田島君がいて。
いつもなら部活なのに、何故ここに。雨天中止とかあるのだろうか。

こんなところで出会えると思っていなかった私は、思わず田島君を見つめてしまっていたようで。
その視線に気付いた田島君がこちらを見て、がっつりと視線が交わる(う、わ!)


「あれ、八代じゃん!」
「た、田島君…もう帰り?」
「そー!部活無くなったから帰ろうと思ったんだけど、予想以上に降ってんなーオレ今日傘持ってきてないのに」
「私も…」
「八代も?まーオレはチャリ飛ばせばすぐだけどね」
「そうだね…私は、どうしようかって悩んでる」
「ふーん」


メアド交換したといっても、普段の関係がそこまで変わるわけではない。
こういった、奇跡的な遭遇でもない限りそう話すことはないのだ。
だから相変わらず彼が側にいるだけで緊張する。隣にいるというだけで心臓がバクバクしていて、話すのが精一杯だ。


「…あ!!」
「!?」


必死に心臓を落ち着かせようとしていたのに、突如大声をあげた田島君に私はビクッとする。
視線を戻すと、田島君は何か良い事を思いついたのかキラキラとした表情(可愛いなぁ)


「八代!オレいいこと思いついた!」
「な、なに?」
「オレいったん家行ってさ、傘持ってくるから!八代はその傘で帰ればいいよ!」
「…え!?」


な、なにをいってるんだこの人は。


「いいいいや!悪いよ!わざわざまた学校に来てもらうなんて…!」
「だってオレが濡れるのはもうどーしようもないんだから、だったら八代はさ。家遠いだろ」
「そ、そうだけど…!でも」
「ちょー良いアイデア!オレ天才!」
「いやいやいや!!」


乗り気の田島君だけど、流石にそこまでさせるのは悪い。そこまでしてもらう義理もない。
だって…悲しいけどそこまで仲良くないのだから。田島君にとっては私はただのクラスメイト。何十人もいるクラスメイトのうちの一人だ。それ以外何の関わりもない。(前にちょっと一緒に帰れただけ!)

頑なに首を縦に振らない私に、田島君は不満げである。申し訳ないがその顔も可愛いのである。


「ん〜…分かった!」

「じゃあ八代、後ろ乗せてくからとりあえずオレんちまで一緒濡れてこ!」


ホッとしたのも束の間、何だかまた宜しくない提案をされたような。
…それってつまり、私田島君の自転車に…相乗りさせてもらってことだよね。
………め、めちゃくちゃ恥ずかしいぞ…!


「い、いや」
「よし!そうと決まったらこっち!」
「え!?」


ぐいっと腕を引かれ、人の話も聞かずに田島君が走り出す。
雨の中、地面もゆるくなっているから転んでしまうんじゃないかとハラハラしながら何とか田島君についていく。
腕、掴まれてる!そんなことに恥ずかしくなる余裕が見せられたのは、自転車置き場についた時だった。

田島君は自分のバッグを自転車のカゴに突っ込むと、着ていたパーカーを脱いで私へ放ってきた。
慌ててそれをキャッチすると、田島君は一度脱いだ学ランを着て自転車を動かす。
パーカーをただ渡された私は、それを手にしたまま意味が分からず呆然と立ち尽くす。


「それ着れば多少は濡れなくて済むだろー」
「…え!?」


つまり私に着てもらうためにわざわざ?ただでさえ迷惑かけるのに、パーカーまで貸してくれようとしてるの?…た、田島君って、こんなに優しい人だったの?こんなに気がきく人だったの?

またうろたえる私に、いい加減待てなくなったのか、田島君はいったん自転車を置いてから私に歩み寄る。
正面に立たれただけでドキッとする。
田島君は私の手から自分のパーカーを奪い取ると、それを私の背中にかけ、フードを頭にかぶせてきた。
……な、なんか…もの凄く恥ずかしい…っ!

顔真っ赤の私に気付いていないのだろう田島君は満足気に笑って自転車へと戻った。

「早く!」と私を急かす田島君。
…ああ、少し前まで全く関わりを持てなかった、憧れの存在だったのに。

パーカーをきゅっと掴み、覚悟を決める。
二人乗りなんて初めてで怖いけど、田島君ちまですぐだ。少しの我慢だ!

掴む場所が無くてサドルを掴んだけど、すぐに田島君に「ちゃんとオレに掴まれよ!」って言われてしまって
そーっと田島君の服に掴んだら「それじゃ危ないだろ!」って私の手を掴んで自分のお腹に回させた。
一気に密着する体。


わ、わ、わ


(た、田島君と、くっついてる…!)


目の前にある背中、そしてほんのりと香る田島君の匂い。

何だこの展開。こんな、少女漫画みたいな奇跡って、本当に起きるものなんですか。
意外と私は強運の持ち主なんじゃないだろうか。
恥ずかしいけど、それ以上に幸せに想うなんて、ちょっと厚かましい気がする。


──そして、この時初めて気付いたことがある。


「…、背中おっきいんだね」


ゆっくりと動き出した自転車。一気に体に感じる雨粒の感覚。
だけど、普段では感じた事のない、彼の背中の逞しさに、胸がいっぱいになった。


「──…そんなことはじめて言われた」


雨で聞こえてないと思った呟きは、どうやら彼に届いていたようだ。
恥ずかしさで顔が熱くなる。


「オレ、野球やってる中じゃチビだからさ」


「八代がそう言ってくれて、すげー嬉しい!」



自転車をこぎながら続けてお礼を言った田島君を見上げてみると、あの大好きな笑顔は見れなかったけど
短髪からのぞく耳が、ほんのりと赤いような気がした。







気付けば中間地点

(ん!八代がやっとメールくれた!……かーちゃん見て見て!今日傘貸した友達がお礼に何か作ってきてくれるってー!)


色々つっこみ所はあるけどスルーしてやってください←



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