目の前に広げたプリントと教科書とノート。すっかり手は止まり、プリントの問題は解けずにいた。
頭を動かす気になれなくて、テーブルに項垂れる。
因みにとっくに一緒に勉強していた田島はギブアップしていて、自分のベッドに寝転がっていた。

授業で出された宿題。
解いてこいと云われたって、馬鹿の田島が自力で解けるわけもなく。
最初は田島が泣きついてきたので、自分も一緒に宿題をやろうと思い、田島の部屋で共にやることになった。

なのに、田島はすぐに飽きてしまうし、
一人で真面目に解いていたが、応用問題が出た辺りから進みが悪くなり…やがて解けなくなったのだ。


頭を休めるためにも甘いものを食べようと、鞄を漁ってお菓子を幾つか取り出す。
箱型のお菓子を開ければ、中にはアーモンドがチョコでコーティングがされたお菓子が入っていた。

一粒口に放り入れた時、田島がこちらを見ていることに気付く。


「…何?」
「……八代さ、オレのチョコは?」
「は?」


チョコ。…これが食べたいのだろうか。
手に持っているアーモンドチョコを見下ろしてから一粒差し出すと、田島はがばりと起き上がって「違うって!」と声を荒げた。


「今日何の日か分かってる?」
「え?………、あー」


そういえば今日はバレンタイン。…正直すっかり忘れていた。
忘れていたので、準備という準備は全くしていないのである。
世間がバレンタインだと騒ぎたてるが、正直今日が何日かを、把握していなかった。まさか今日が世に云うバレンタインだったなんて。


「ごめん」
「うそ!?」


ショックを隠しきれない田島。がっくりと項垂れているが、どうせ女からのチョコが欲しかっただけなのだろうとあまり気に留めなかった。
最近野球部が活躍し、田島も少しモテるようになったから他の女子から貰っただろう、と考える。
部屋を見渡してみれば、彼が使っているバッグから可愛く包装された箱が見えた。


「もう貰ってるんだし良いじゃん。自分から催促するなんて欲張り」
「八代から欲しいんじゃん!」
「私お菓子作れないから無理」


そこらへんの女の子とは違い、自分は行事に対してワクワクしたりするような女ではない。
クリスマスも「親が何か買ってくれるだろう」ぐらいで色気のある考えなど全くないし、正月はこたつに入ってテレビを見てるのが当たり前だし、他の行事で盛り上がってるのは気が知れない。つまり面倒くさいのだ。

暫く田島からの視線を感じていたが、気にすることなくお菓子を食べ続ける。

お菓子を食べだしたら止まらず、このまま宿題を再開する気にはならないだろうなあ…とのんびり考える。
だけどお菓子を口に放り込む手は止まらず、また一つアーモンドチョコを口に含んだ  その時


「!」


頬に手が回ったかと思えば、田島の方へと向かされて唇を塞がれた。
驚いて何も出来ずにいるうちに、唇の間を割って入ってきた舌の感触に流石にハッとした。
慌てて離れようとするが、後頭部に手を回されてそれは許されず、田島にされるがまま。舌は口内にあるアーモンドチョコをとろうとしていた。
唾液の所為でチョコは溶け始め、口の中は甘ったるくなっている。長く慣れないキスに息が乱れて呼吸が出来ず、田島の胸板を叩いて抗議した。


「…っはぁ」


口の中にあったアーモンドチョコは田島の口の中に。
チョコも溶けて、決して素直に美味しいとは思えないだろうそれを抵抗なく食べている田島。


「…ッあんた何して…!」
「チョコ用意してくれなかった八代が悪いんじゃん!だからこのチョコ全部オレのね」


そう云ってアーモンドチョコの入った箱を指差す田島。
勝手に話を進める田島に抗議する余裕もなくて、息を整えるのに必死だった。
なのに、田島はそんなことお構いなしで。

再び口に入れられたアーモンドチョコ。──嫌な予感しかしない。


「このチョコ全部、八代が食べさせて」


ニッと、屈託のない笑顔で云いきる田島に、愕然とするしかなかった。
チョコをあげるぐらいなら良い。だけど全部食べさせるなんて。箱の中にはまだ幾つもそれが残っている。

これを、全部、さっきのように──…?


「…明日買ったチョコあげるから…今日のとこは」
「逃げようとすんなら八代のこと食べる!」


来年から行事も日にちもちゃんと把握してようと、心底思った。




結局理性の薄い田島がチョコもヒロインも美味k(ry


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