原因は些細なものだった。なのにお互い引き下がることもせずに口論をした結果、昨日は仲直りもせずに家に帰った。
だけど家に着いてから反省したので、バレンタインのチョコも渡すつもりだったし、その時に謝ろうと思って頑張って作ったのだ。
彼氏に渡すとなれば力も入るわけで、何時間も夜遅くにまでチョコを作ったおかげで今日は寝不足である。

なのに。


「……どうしよう…」


彼氏の泉とはクラスが違う。しかも教室も少し離れていて、簡単に会いに行けるわけでもない。
しかも移動教室などですれ違うばかりで、今日は全く泉とは会えなかった。そのままうだうだしているうちに気づけば放課後である。

泉は野球部。夜遅くにまで練習をしているので、いつもは先に帰ってろと云われる。
帰宅部の自分は素直にいつも一人で帰っていた。…今日はどうしようか。
このままでは部活が始まってしまうだけ。だけどこのまま仲直りもせず彼女なのにチョコも渡さずに帰ったら…更に仲直りしづらいだけのような気がする。


(運無いなあ……このまま野球部終わるの待ってようかな)


皆帰ったり部活に行ったりで、教室には一人だけとなった。静かな教室で一人自分の席でうつ伏せになる。
暇つぶしの為に本でも持ってくればよかったと後悔しつつ、携帯で時間を見る。もうどこの部も練習を始める頃だろう。


「八代」


聞こえる筈のない声が聞こえて、一瞬動きが止まる。
目を開いてがばりと体を起こすと、教室の出入り口には息を切らした泉が立っていた。


「……泉君…」
「一人で何してんだよ」
「い…泉君こそ、何でここに…練習は?」


戸惑いながら訊ねれば、泉は「気付いてないのか?」と云いながら外を指差す。
振り向いて泉の視線の先を追えば、外には白い結晶がハラハラと落ちていた。


「……雪?」
「この量じゃすぐに積もるから、今日は練習無しになった。代わりに家で自主練」


──今日初めて、運が良いと思った。

普段そうは降らない雪が、まさか今日降るなんて。雪のおかげで練習が無しになるなんて。
野球が好きな泉に対しては失礼かもしれないけど。


「──…あっ!私傘持ってきてない!」
「ばーか。流石八代」


ムッとして泉を見たが、笑っている泉の表情を見て何だかホッとした。
いつもの泉だ。喧嘩したままだったから少し気まずく思っていたけど、考えすぎだったのかもしれない。


「……昨日はごめんなさい」
「…いや、オレこそごめん。云い過ぎた」
「ん」


バッグから夜なべして作ったチョコを差し出した。泉は嬉しそうに受け取って「オレもう貰えないかと思って焦った」と笑う。

泉も仲直りしたかったいみたいだが、見事にすれ違い会えずじまい。そのまま放課後を迎えてしまい、もう諦めてしまっていたのだとか。
だけど雪のおかげで部活が中止になり、淡い期待を胸に慌てて教室まで走ってきたのだという。だから先程まで息が切れていたのかと納得した。


「雪に感謝しねーと。練習は無しになったけど、こうやって八代と二人でゆっくり出来る時間作ってくれたから」
「……うん」
「彼女いるのにチョコ貰えないとか笑えねーし」


視線を下に落として溜息混じりに云う泉に、小さく笑った。



「わー!もう積もってる!」
「降りだして30分ぐらいしか経ってないのにな」
「ホワイトバレンタインだね」
「明日の練習も無さそうだなこれは…」
「……じゃあ、一緒に登校出来る?」
「…あぁ」


泉の傘に二人で入ってゆっくりとした歩調で帰路に就く。
真っ白になった道には、二人分の足跡だけが刻まれていた。




なんかちょっとした雪合戦が出来るぐらいに雪降ったもんで


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