受信トレイ
day:14/07/18 20:10
from:篠岡 千代
sub:今日もおつかれ☆
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今度の花火大会、野球部のみんなで行こうって話出てるから、一緒行こうよー!!(*^^*)
勿論、泉くんも行くって…


-END-


ち、千代ちゃん…
泉のことはいいってば、もう!



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千代ちゃんに誘われて、野球部のみんなで花火大会に行くことになった。この日は練習も夕方で終わりになって、充分に準備する時間はあった。千代ちゃんに誘われた時、一緒に浴衣を着ようと言われたけど、私は曖昧な返事しか出来ずにいたのを思い出す。


「……紗枝ちゃんの嘘つき」
「着てくるとは言ってないよ…」


おかげで千代ちゃんは不機嫌だ。
淡いピンク色の浴衣と、可愛らしい髪飾りをつけていつもより何倍も可愛いのに、顔を顰めてしまって勿体無い。対して私は普段着なのだから、まぁ一人だけ浴衣ってのは恥ずかしいだろうし、不機嫌になる気持ちも分かる。

でも…千代ちゃんには悪いけど、やっぱり着てこなくて正解だったかも。普段からガサツでさっぱりした性格の私には、こんな女の子らしい格好は似合わない。それに、可愛い千代ちゃんと一緒だと自然と比べられそうで…物怖じしてしまうのだ。


中々機嫌を直してくれない千代ちゃんをフォローしながら、男子と合流する。


「うわ!しのーか浴衣じゃん!」
「似合ってるー!」


勿論みんなは千代ちゃんのサプライズ浴衣に盛り上がってくれた。その中には泉もいるから、胸がチクリと痛む。田島や水谷、三橋みたいな騒がしい感じではないけど、千代ちゃんの浴衣姿にはわりと感心を持っているよう。…そんなとこ見たくなかったな。モヤモヤとした気持ちで泉を見つめてしまっていたらしく、一瞬だけ泉と視線が交わる。慌てて目を逸らした。

一方、褒められるとやっぱり悪い気はしないらしく、千代ちゃんの機嫌は直ってきた。ふと阿部と並んで歩く機会があった時なんて、本当…恋する乙女という表情。凄く可愛かった。

対して私。

普段運動ばかりの男子には負けるけど女子にしては食べる方の私は、まさに色気より食い気。今日も屋台を回り色んなものを食べながら花火を見ることとなる。
ちょうどよく見つけた穴場スポットは、花火も充分に見えて人気も少なく、まさに絶好の場所だった。見つけづらい位置にあっただけに何だか秘密基地にいるような気分。

芝生に座ったり寝転がったりする中、私もお尻に何も敷かずそのまま腰掛ける。チョコバナナを食べながら花火を見ていると、横に誰かが来る気配に気づく。
無言で腰掛けた隣の人物を見れば、それは泉だった。今日は浴衣のこともあり何だか悔しくて情けなくて、声をかける余裕がなく泉とはあまり喋っていなかった。それでも事実考えていたのは、泉のことだから。私の胸は僅かに跳ねる。


「八代って本当食い気ばっかだよな」
「……何を今更」
「しのーかは浴衣なのに、お前ときたら…」
「…どーせ私が着たって似合わないし、からかわれるのがオチよ」


好きな人から、別の人と比べるような発言をされるというのはきついものだ。比べられないように、真っ向勝負しなかったのに。勝負から逃げたのがいけなかったのだろうか。
でも、だって、勝てる気がしない。千代ちゃんみたいに顔も可愛くないし小さくて守ってあげたくなるような女の子らしさもない。こんな立ち位置になってしまった今から、女の子らしさ目指すなんて恥ずかしすぎて出来ないし。もう、このまま高校は突っ走るしかないのだ。
高校デビューとやらをちゃんと考えておくべきだったな、と中学生の頃の私に後悔した。


「来週さあ」
「ん?」
「隣町で縁日があるんだって」
「へー、そうなんだ。楽しそう」
「じゃあ行こうぜ」
「行く行く。みんな都合あうといいね」
「いや、今度は二人で」


突然話題が変わった、と思いながらもいつもの調子で会話を繰り広げていた私は
泉の最後の言葉に固まる。
私が泉を見たって、泉はこちらを見ることもなく花火を見上げているけど。


「そん時は 浴衣着てこいよ」
「………いやいや」


何も返事をしていないというのに、立て続けに泉はそんなことを言う。
話題が元に戻ったというか繋がりを見せたので、私はかろうじて言葉を紡ぎ出した。


「だから私が着ても似合わないって」
「分かんねーだろ」
「…は?」
「似合わないかどーかなんて、見てもねんだから」
「…………はぁ」


いつもは言わないようなことを淡々と口にする泉。私は戸惑いが隠せず、言いたいことも理解できず、とりあえず相槌をうつことしかできない。泉はずっと花火を見ているのに、その泉の言動の所為で私は花火を見ることも忘れてしまっていた。今日のメインイベントなのに。


「だから、来週は浴衣俺に見せろよ」
「…………がっかりするよ」
「しねーって。多分…いや、きっと……似合うと おもう」


恥ずかしくなったのか途切れ途切れに口にする泉の顔は、花火の光の色なのか分からないけど ほんのり赤いように思えた。そんな泉の態度、そしてその言葉が恥ずかしいのと同時に、胸をくすぐるような 決して嫌じゃない気持ちになる。

泉に そんなこと言われるなんて。


「今日、ちょっとホッとした」


我慢出来なかったのか、膝に顔を埋める泉はその後もごもごと続けた。



「八代が浴衣着たら、絶対他の奴らお前の事女として意識するから…困るし」



私の片想い、実ったと思ってもいいのかな。
来週の縁日は、気合い入れて浴衣着ます。髪も頑張ります。らしくなくてもいい、大好きな人に「可愛い」って思ってもらいたいもの。



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