『原田はいっつも野球ばっかだ。原田が野球好きなの知ってる。知ってるけど…でも…少しは、構ってくれたって良いじゃん』
『…野球してる俺が好きって云ったくせに都合よすぎだろ』
『なっ…、原田はさぁ!いっつも自分のことしか考えてないよ!いっつもそう!空気も読まないし協調性もない!それが原田の悪いとこ!』
『お前に云われる筋合いはない』
『……ッ原田なんか嫌いだばーか!!』
一昨日、そう云って怒鳴って自分の教室に戻った紗枝が姿を見せない。昨日も、今日も。
いつもアホみたいに笑ってクラスが違えども休み時間に教室に遊びに来る彼女が、来ない。
やはり喧嘩をしたからだろうか?そう思ったが、紗枝はなかなかのアホですぐに怒っていたことがどうでもよくなっていて、飄々としているタイプ。今回もすぐに立ち直っているだろうと思った。
しかしそうなれば、やはり紗枝が来ない理由が分からない。
昨日はさして気にしなかった。どうせ時が経てばまたいつも通りになっているだろうと思い。
しかし、二日も続けて顔を見ないと流石に気になるのだ。
「原田ぁ、お前知っとるんか?」
「何が」
「八代、今日休みなんじゃて」
頬杖をつきながら一人悶々と考えていると、前の席に座った豪が声をかけてきた。
それから出てきた豪の言葉に、巧は少し目を開く。
「…何で」
「風邪引いたんじゃと。昨日うちに診てもらいに来てな」
「……そう」
「原田知らんかったのか?彼氏なんじゃから、見舞いぐらい行ってやったらどうじゃ」
「……」
彼氏、ね。
こんな彼氏で良いのだろうかとふと思う。
だいたいこんな冷たい男を、何故紗枝は好きになったのだろうか。
「あんまり突き放してると、八代浮気するかもしれんぞ!あ、相手はわしかもしれんな!」
会話にいつも通りに騒がしい吉貞が乱入してきて、巧は眉間に皺を寄せる。
「うるさい」
「何じゃ原田ー!お前もしかしてずっと八代に一途に好かれると思っとるんか!?自分が愛あげなきゃ嫌われるんじゃ誰でも!」
「おい吉貞…」
豪が巧に注意をしている吉貞に苦笑いを浮かべる。
一方の巧は、吉貞の話など聞きもせず、ボーっと窓から外を眺めていた。
今日は随分と空が青く晴れ渡っている。
昨日一昨日と二日続いた雨が嘘のようだ。これなら、久々に練習も出来そうである。
それに雨の中でランニングをしなくて済む。どんな日でも走るが、やはり晴れている方が良いに決まってる。
ぴんぽーん。
インターホンの鳴る音にベッドに寝転がっていた紗枝はのっそりと体を起こした。
今は自分以外家の者がいないので、自分が出るしかない。
上着を羽織り、髪を手櫛で簡単に整えながら階段を下りて玄関へ向かう。
「はーい……って、あれ」
ドアを開けてから、紗枝はぽかんとした。
なんせ、今自分の目の前には…ジャージ姿の巧がいたから。
「は、原田…どうしたの。久しぶり」
「…起きて良いのかよ」
「え…あぁ、二日も寝れば流石にね!もう結構回復してるんだー明日は学校行けるよ」
笑顔で応える紗枝は…やはり一昨日の喧嘩もすっかり忘れているようだ。
小さく溜息。人のことを「嫌い」だとか「馬鹿」だとか云っておきながらすっかりいつも通りなんて。
(…けど)
自分はそういう、女らしくないさっぱりした所を、好きになったんだっけ。
女子なんて、ねちっこいばかりだと思っていたから。
「ていうか…どうしたの?今ランニング中なんでしょ?いつもここ通らないのに」
「…久々に天気良かったから、ちょっとこっちまで来ただけ」
「そーなんだ。おつかれ。上がる?」
「いい」
巧の素っ気無い返事に「あぁ、そう」と慣れた様子で返す紗枝。特に気にしてないようだ。
「…えーと、」
「?」
「お見舞い…きてくれたの、かな?」
なんつって!
すぐに笑って誤魔化した紗枝。
気まぐれで来たとしても、たとえお見舞いではなくても、巧の顔を見れるだけで紗枝は嬉しかった。
巧は相変わらずの笑顔でいる紗枝を静かに呼ぶ。
「…八代」
「ん?」
「俺、デートとか連れてくの無理」
「……」
巧の突然の話題に紗枝は目をぱちくりさせる。
「野球の練習休んでまで、お前と過ごそうとは思わない」
「……」
「八代にでも、右手触られるのは嫌」
紗枝は巧の云う言葉に特別落ち込みもせず、ただ無表情。
何となく分かっていたのだ。付き合ってきて、嫌というほど。
巧にとっての一番は野球で、自分がその間を割って入ることは出来ない。
所詮、自分もその程度の存在。
「…でも、学校でお前の顔見れないと、調子狂う」
毎回鬱陶しいほどに休み時間に訪れてきた紗枝が急に来ないとなると、
色々な想いが駆け巡り、野球だけに集中出来なかった。
最初はやはり、嫌われたのではないかと 少しだけ掠めた不安があったぐらい。
「……」
呆然とする紗枝の頬にそっと触れ、口付けを落とす。
「野球以外の時間、お前でいっぱいなんだから――…急に消えんな」
紗枝を抱きしめて、静かに呟いた巧。
今までにこんなことをされなかったので、紗枝は驚きや困惑で混乱していた。
「…、とりあえず云えるのは」
「?」
「原田って、凄く我侭」
「……」
抱きしめられたまま、紗枝は冷静に続ける。
「やっぱ、自分のことばっか。いっつも中心にいるのは自分だよ。…もう何か、原田の中でのあたしの存在価値が分かんない」
「……」
「あたしは…野球以外の時間埋めるためのものでしか、ないみたい」
「…それは、違う」
巧が静かに否定すると、紗枝は巧の背中に腕を回してくすりと笑った。
「…うん、今分かった。だって巧――…部活休んでまで来てくれたもん」
自分でも分からない。
雨だった昨日と一昨日は体力作りだけで、今日はやっと外で野球の練習が出来るというのに。
なのに、そんな日に部活を休み、ランニングをしながら彼女の家へと来ていた。
嫌われたのかと掠めた不安。
たった二日顔を見なかっただけで“日常”が“非日常”へと変わる。
あの笑顔を見れないだけで、何かが足りないと思いだす。
「…やっぱ原田好き!」
「…ん」
「今度練習見に行くね」
「それ凄いやだ」
「えー!いいじゃん!一緒に帰ろ!」
「……、」
「じゃあ明日行くから宜しく!」
気付かないだけで
(野球にも彼女にも依存してる)
相変わらず遅くなってしまいました巧夢です。何だかまとまらなくてすいません…。
野球ばかりで女に興味の無かった巧にとっては、これが精一杯の愛情表現だと思うのは私だけですかね。きっと巧はツンデr(ry
ひや様のみお持ち帰りOKです!本当に大変お待たせしました!