「……ちょ、何その手に持ってるもの」
「見てのとおりです!」
紗枝が笑顔で手に持っているものに銀時は思わず顔を真っ青にさせる。
ゆっくりと後退りする銀時と、じりじりと近づいてくる紗枝。
やがて銀時は壁へと追いやられてしまい、逃げ場が無くなってしまった。
「ちょ…紗枝さん?その物体…手作り?」
「勿論ですよ、あたしの愛たっぷり詰め込んでおきました

」
紗枝が持っているのはそこまで大きくはないホールケーキ。
銀時の大好物の糖分…なのだが、残念ながら以前紗枝の手作りケーキで腹を壊し死ぬ想いをしたことがある。
もう二度と食わないと心に誓う程の代物が、見た目は少し綺麗になって今目の前に現れていた。
「お前の愛は普段から受け取ってるから良いって…遠慮しとくわ、俺」
「いつも人を冷たくあしらうくせに愛を受け取ったーなんてよく云えたもんですよ。さ、今日ぐらい遠慮なんてやめてください!あたしと銀さんの仲じゃないですか!」
「ただの居候だろうがよォォォオオオ!」
そう叫んだ瞬間、銀時が自分の作ったお菓子を食べる気が無いのだと分かり、ムッとした表情になる。
そして既に考えていたのだろうか…躊躇いもせず、銀時目掛けて駆け出した。
「誕生日おめでとうございまァァァアアアす!!」
大きな声でそう云いながら、勢いよく銀時の顔に向けケーキを押し付けた。
それはもう、どこかのテレビでやっているパイをぶつける行為そのもので。
顔がクリームだらけになった銀時は見事に少しそれを口にしてしまっていた。
「やべ、食っちまったァァアア……って、は?」
食べてしまったことへの後悔が押し寄せた後すぐに、紗枝の言葉にきょとんとする。
「…誕生日?」
「はい!今日は記念すべき銀さんが生まれた日でしょう?」
「……」
何で知ってるんだ。
そんなツッコミを入れるのも忘れてしまった。
紗枝は呆然としたまま壁際で突っ立っている銀時に近づき、少しだけ背伸びをする。
自分より下にあった顔が目の前にきたかと思えば、一瞬触れる唇。
「――…」
離れた時、彼女の唇にもクリームがついていた。
何も反応出来ない銀時に、唇についたクリームを指でとって舐めながら照れくさそうに笑う。
「銀さんが生まれたことに、銀さんが今この場にいてくれてることに、感謝です」
「………」
紗枝がその場を逃げ出した後も、銀時は暫くボーッとその場に突っ立ったままでいた。
顔についたままのクリームやフルーツなんて忘れてしまっていて、ただ唇に残る感触だけが頭の中を離れなかった。
「……ったく、今日だけだからな」
ふ、と笑い 頬を掻いて指についたクリームを何気なく口にした。
(…あれ、美味い)