「はい、ルフィ」


目の前には、ルフィの顔ぐらいはありそうな大きなチョコが差し出されていた。
丁度いいサイズがなかったからか、透明な袋にリボンを巻いただけの簡単な包装であるが、ルフィにはそんなこと関係なかった。
大きなチョコを目の前にして、涎を垂らし目を輝かせるルフィ。


「くれるのか!?」
「うん」
「全部おれのか!?」
「そうだよ」


それを聞くなり、ルフィは輝いた表情のままあっという間に簡易包装を取り去って一瞬でチョコを平らげてしまった。
…まぁ、想像はついていたけど……このサイズのチョコを作るのは苦労したのに、一瞬で消え去ったなあと、イオは何とも云えない表情で見守った。


「さて…」


気を取り直して、テーブルの上に置いてある幾つものチョコへ視線を向ける。
こちらは普通のサイズで、包装も多少凝ったものだ。
適当にバスケットを取り出してチョコをそこに入れると、そのままダイニングを出ようとした。しかしルフィの呼びかけに足を止めて振り向く。


「イオ、それ何だ?」
「え?チョコだよ」
「……どうすんだ、それ」
「配るんだよ、皆に」


ちゃんと人数分…勿論友チョコとしてナミとロビンのも含め、全員分が用意されている。

平然と答えたイオに対し、ルフィの表情は曇っていく。眉を寄せると、腕を伸ばしてイオからチョコの入ったバスケットを奪い取った。
呆気にとられているうちにルフィは全て包装を取り去って食べてしまう。そう、全てだ。あんなにあった人数分のチョコ、一人分も残さずに食べたのである。


「…ルフィ!!」


流石にイオも声を荒げた。
あんなに苦労して作ったのに、まさかルフィの胃袋に全て消えてしまうなんて。

対してルフィは反省の色など見せず、ムッとした表情のままイオを見る。


「おれはイオが好きだ」
「……!?」
「今日は女が好きな男にチョコ渡す日なんだろ。イオはおれのこと好きなんじゃねェのか」


拗ねたようなその表情で、真っ直ぐとこちらを見たままストレートに訊ねてくるルフィ。
ルフィの告白はよくあることなのだが、「好きなのか」と訊かれたのは初めてだった。ルフィのようにはっきりと云えるタイプではないので、イオは口をぱくぱくさせた後に顔をほんのりと染めた。


「おれ、イオが他の男にチョコやるのは嫌だ!!」
「…嫌だって云われても…義理チョコだし…さ……別に『ありがとう』と『これからも宜しく』って意味合いであって、他意はなく──」
「嫌だ!!」


本当に子供だ。

…とりあえず、食べられてしまったのはしょうがない。新しく別のものを作ろうと思い、ルフィは放っておくことにした。
キッチンで材料があるかを確認しているイオを見て、ルフィも何をしようとしてるのか分かったのだろう。イオの所まで身軽に跳んで、後ろからイオを抱き締めた。
頑張れば作業が出来そうではあったが、懇願するように自分を抱き締める腕に力が籠もってきて……しょうがない、と溜息を吐く。

子供みたいに我が侭で無邪気で馬鹿正直で、なのにいざとなったら男になってしまうから…時々ルフィは卑怯だと思う。

今はまだ、子供みたいに独占欲を発揮している我らが船長を見やる。自分の肩に顔を埋めていて顔はよく見えなかった。


「…あのね、ルフィ」
「……」
「義理チョコだったら、あんなに大きいサイズのチョコ作ったりしないから」
「……?」
「形はシンプルだけど、結構苦労したんだよ?あれ…」


照れくさそうに笑うイオと、顔をあげたルフィの目が合う。


「ルフィのだけ特別なんだからね」


あまり理解していなかった様子のルフィにも分かるように付け足す。
単純なもので、あっさりと機嫌が直って笑うルフィにホッとする。歯を見せて笑った後、ルフィは嬉しさからかイオに一瞬だけのキスを送った。




翌日クッキーをクルーにプレゼントしたヒロインでした。


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