※「Master of God」夢主




「いりますか、いりませんか」




そう訊ねると、越前は「は?」と訝しげにあたしを見た。
先輩達はみんな着替えを済ませコートに向かった中、図書委員で今日当番だったあたしと越前だけが遅れて部活に参加することになってる。
二人っきりの部室(ていうか一人だけだった部室にあたしが入った)での沈黙は、結構辛いものがある。


「…普通それ、訊く?」


越前の呆れたような声。
あたしがいるにも関わらず着替えを再開させた越前にあたしは口を開いた。


「…いや…だって…ねぇ?」
「もし俺がいらないって云ったらそれ、どうするつもりなの」


ワイシャツを脱いでレギュラージャージとかテニスの道具を取り出す越前。
あたしは男子の上半身見て特別恥ずかしがったりするような乙女でもないので、平然と越前を見ながら答えた。


「…うーん…先輩達のも友達たちのもチョコは既に出来上がっていて、友達にはすぐにあげたからなぁ…自分で食べるか…弟にでもやるか」
「……」


今更だけど、あたしの手中にあるのはチョコ。
…まぁ、あれですよ。一応手作りですよ。
慣れないことしてるって自分でも分かってんだけどさ!!


「出来上がってんのに訊くっておかしいでしょ」
「だってさぁ…」


そう呟いてあたしは越前の荷物を見る。
…あの大きなテニスバッグの中には、沢山のチョコが入ってるんだろうな。

勿論、バレンタイン。越前はモテるから昼休み席が隣だというのにチョコをやる機会がなかった。
ていうか隣ずっと鬱陶しかった。久々にかなり苛ついた。
キャーキャーと女子は煩い。
そして他のレギュラー陣もモテるからチョコ沢山貰ってて、あたしは一応持ってきたけどあげる機会がやっぱり無くて。
もう、これからこうやってみんなに「いりますか、いりませんか」と訊ねる気満々で。


だって、嫌という程チョコ貰ってて、欲しいって思うか分からないじゃん。
迷惑になるんだったら、あたしの方で勝手に処理する。

どうせあたしのチョコは他の女子と違って気合充分で作ったわけでもないのでちょっと歪だし、込められた想いみたいなものも随分違う。
他の女子は「好き」あたしは「ありがとう」とかそこらた。あとは義理チョコってことだから。(まぁ本命無いけど)
義理チョコよりは本命貰う方が嬉しいに決まってる、うん。事実上も絶対に美味しいはず。


「…チョコって食べ過ぎると鼻血出すんだよ」


まぁ、ある意味越前が鼻血出したのも見てみたいけど。


「だから?」
「大変でしょ、越前」
「全部俺が食べると思ってんの?」
「違うの?」
「カルピンや親父にやるし」
「うっわ、最低」


みんな頑張って作ってくれてんのに。
しかもカルピンとか猫だし。猫にまで上げちゃうの?有り得ないよ人でなし。


「尚更あたしのチョコはいりませんね」
「いや、貰う。せっかくだし」
「はい?」


鞄にしまおうと思った手を掴まれる。
既に着替えて帽子も被った越前がテニスラケットを握る反対の手であたしのチョコを取り上げた。
呆然としていたあたしだけど、やがて「ははーん」と口を開く。


「それもおじさんかカルピンの腹の中に行くんだな」
「俺が食べるけど」
「え?」


…何か、越前って何考えてんのか分かんない。


「いや…あたしの美味しくないだろうからもっと他の食べた方が良いと…」
「俺がどれ食べようと俺の勝手じゃん」
「……そう、だけど……他の人はマジなのにさ…」
「何?これマジじゃないんだ?」
「当たり前でしょ、義理チョコだし」


「ふーん」と呟きながらあたしのチョコを自分の鞄の中へ。
…あぁ、あれで他の女子と同じチョコになっちゃったな。まぁ、いいけどさ。


「じゃあ、来年は本命ね」
「………は?」
「本命じゃないと、貰わないから」



……………いやいやいや、何で上目線?
ていうか…越前、頭壊れた?


呆然と突っ立っているあたしの横を通り過ぎて、後ろにある部室の出入り口であるドアのノブに手をかける越前。
そのまま、がちゃりとドアを開けて最後に呟くように去り際に言葉を放った。




「アンタのは、特別だから」




猫にチョコあげちゃ駄目ですよね、確か。


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