※「ヒカリヘ」夢主





「チョコ?ありませんけど」

「……は?」




いつもより冷めた予想外な返事が返ってきた。
俺の頭の中は真っ白っていうか、混乱っていうか。
俺から奪い取ったジャンプ(コノヤロー)を読んでこっちに全く視線を向けない。

…コイツは普段アホのくせにたまに妙な威厳みたいなものを見せるよな。(そういう時って極力近づきたくねぇ)
コイツが笑ってない時は泣いてる時か怒ってる時。
つまり今は怒って…んな。これまた何で。


「…いやいや、嘘でしょ。今日何の日か知ってるでしょ」
「バレンタインですね」
「バレンタインって好きな男子にチョコあげる日でしょ」
「そうですね」
「お前は俺に片思いの設定でしょ」
「そうですね」
「何?俺はタモさんですか」
「そうですね」
「オイ」


返事適当になってきてない?
おいおいお前の大好きな銀さんが話し掛けてんのにそれはないでしょ。


「…ほぉ、分かったぞ。さてはお前チョコ作ってないんだな」
「新八と真選組と長谷川さんにはあげました」
「はぁ!?」


何何?俺だけ無し?どんな嫌がらせ?あれー俺何かしたっけ?
ていうか新八なら…まぁ…まだしも、俺長谷川さんにまで負けたの?(いや、やっぱ新八にも多串君にも負けるの腹立つな)


「……銀さん、自分の言動にはちゃんと責任持たないと」
「何云ってんの?」


何かわざとらしく大きく溜息を吐いて、続けた。






『銀さーん!銀さんはどんなチョコお好みですかー?』
『は?何で』
『いやぁ…もう、決まってんじゃないですか#mtr19#バレンタインですよバレンタイン#mtr19#』
『………まさかお前…作る気?』
『当たり前じゃないですか。愛情たっぷりですよ!』
『いらん』
『え』
『お前の作った菓子は最悪だ。自分で作った方がマシなぐらい』
『えー今回は平気ですって!』
『お前そんなに俺に腹壊して欲しいの?死んじゃうよ銀さん。だからやめて』
『…………』






「………そんな事云った気…しなくも…」
「銀さんはあたしをひどく傷つけました。ていうか普通に傷つきました。いつも傷ついてるけど』



そうだ、コイツ…普通の家庭料理はまぁまぁなのに、菓子となるとてんで駄目なんだった。
じゃあ…寧ろ貰わない方が良いか?
いや待て、そういや新八元気だったよな?それに真選組の奴にも会ったけど…普通だったし……
厠に閉じこもってないってことは、チョコは普通に食えたってことか…?


「やめてって云うから作らなかったんです。だって銀さんいらないんでしょう?」
「…いや、えぇと…それはだな…」


参った。やばいぞこれ普通にキレてるだろこれ。
こうなるともう、手つけらんないんだよなぁ…相当良いことがあるか…俺が…折れるか……
いや、でもここで精一杯チョコ欲しがってると俺、コイツのこと好きみたいじゃねぇか。それは違う。断じて違う。
俺はただ糖分が欲しいだけ。そう、糖分だ糖分。


「良いじゃないですか。どうせ貰ったんでしょ」
「は?」
「さっちゃんから」


………いや…つーかお前何で知ってんだよ。俺誰にも云ってないんだけど。
それにこれ無理矢理渡されただけだし。誰が好き好んで貰うんだよ。


「…お前見ろ、これ……納豆混ざってんぞ、納豆」
「納豆チョコ?うわーこれまた新鮮。よかったですね。糖分と納豆の栄養が両方取れるなんて画期的ぃ」
「…死ぬだろオイ」
「いっそ死ねばいいのに」


ほらだからコイツ怒るとヤバイんだよ!性格が有り得ないんだって!(普段の性格も有り得ないけど)
二重人格者なんて設定いらねーっつの!


「都合よすぎるんですよ、銀さんは」
「そんなの今更だっつの」
「開き直らないでくれません?」
「…ハイ…」


…何でこう俺の周りの女は料理下手な奴ばっかなんだろうな…
料理が出来ると思ったら菓子だけ作れないとか何だよ嫌がらせか作者め。


「…あたしのはいらないって云うくせに、さっちゃんの貰うとか…」
「………」


……コイツがこんなに機嫌悪いのって、


「…何?嫉妬?」
「…………だって…扱いが違うじゃないですか…他の女の子と…」


そうか?結構似た扱いする奴はいるんだけどな。
特別お前だけひどい扱いしてる気はないんだけどな。
まともで可愛い女の子には優しく接するけどな。(ふふん)

拗ねたように顔を隠すそいつの雰囲気はいつもどおりになってた。
やっぱコイツも単純だよな。馬鹿だ馬鹿。
変わった奴だけど、やっぱ嫉妬とかすんのか。


「……ったく」


俺は溜息を吐くと、ジャンプで顔を隠すアホ女に近づいてポンと頭に手を置いた。
それに驚いたように丸くなった目が俺に向けられる。




「――…愛情の裏返しって言葉、知ってるか?」




正直自分で云うのは悔しかったけど、別にコイツが嫌いなわけじゃないし
寧ろ…そりゃあ、大事な一人だからよ
銀さんのこと好きなら、そういうことにも気付けっての、このアホ女。


「…………」


俺の云った事を理解するのに数十秒。(バーカ)
驚いていた顔は、いつも通りの締まりのない笑顔になった。


「えへへ…それじゃあ、今から一番頑張って作りますね」
「おう」


何でか、コイツの笑顔見るとホッとするんだよな。
それがコイツがキレると恐ろしいからなのかは、まぁよく分かんねぇけどよ。
事実、この笑顔守ろうとか思ってたりしちまうんだよな。






「……………銀さんって、ツンデレですよね」
「よしいっぺん死んどくかお前」





前言撤回。



.
X i c a