「イオ〜〜!!」
今日も奴は来る。
「何?」
物凄い勢いで走ってきたルフィに今更驚くこともなくあたしは冷静に聞き返した。
本から視線を逸らさないあたしを気にする様子もなく、ルフィは大きな声で一言。
「好きだ!!」
もう、何度聞いただろう。
「あーはいはい」
「イオは!?」
「普通」
最初は驚いた。こいつ唐突に告白してくんだもん。
勿論、こいつが本気で、ちゃんとあたしを女として好きだと云ってくれてんのも知ってる。
それを知ったうえで、毎日一回以上は云ってるルフィにあたしは決まって「あ、そう」とか云ってスルーしてるわけで。
「何だ普通って」
「普通は普通。別にルフィのことはただの幼馴染としてしか見てないから」
顔を顰め不満そうなルフィにあっさりと返す。
これもいつものやり取り。
「じゃあよイオ、お前も一緒に海賊やろう」
「それこそやだってば」
「何でだよ!」
地面に腰を下ろしてあたしを見上げるルフィの言葉に今度はあたしが顔を顰めた。
恐ろしいこと云わないでよ、あたし一般人なんだからね。
悪魔の実食べて毎日修業してるアンタとは違うんだからね。
死ぬってあたし。
「戦えないもん。危ないじゃん。死ぬじゃん」
「俺が守る!」
「いやいやいややってけないでしょうよ」
嬉しいけどさ、正直ルフィってどれだけの実力があるんだか知らないし。
普通に怖いんです。あたしルフィと違ってチキンだから。
「………」
そしたら、ルフィは急に黙った。
普段煩い奴なだけあって黙っちゃうとちょっと調子が狂う。
「ルフィ、?」
「俺さ、」
「明日、島出るからよ」
「――――――」
頭の中が真っ白になった。
明日?明日、島を出る?島を出るって…海賊になるってこと、だよね…?
「……急、じゃん」
「おう」
「アンタ、まだ、十七じゃん。早いでしょ」
「エースはとっくに海賊やってるぞ!」
「だって、エースは強いから」
悪魔の実食べたルフィでも全然勝ち目のない程、エースは強かった。
だからエースが旅立つ時は特別不安にもならずに見送れた。
エースのことだから、笑顔でひょっこり帰ってこれる気がしたんだ。
けど、ルフィは違う。
エースは、強いし。
ルフィは、無鉄砲だし。
エースは、普段抜けてるけど結構しっかりしてるし。
ルフィは、全然駄目だし。
それに、もし、ルフィがやられたら――
あたし、
「――…イオ?」
「え…?」
ルフィが首を傾げて、あたしの頬へ手を伸ばした。
その手は目元で何かを拭うように触れて、
「何で、泣いてんだ?」
目を丸くして、あたしは自分の頬に触れた。
確かにそこは湿っていた。
嘘、泣いてんの?あたし、
「…っ」
「どうした?何かどっか痛ぇのか?」
心配そうな顔をしてるルフィから顔を逸らして涙を拭った。
そんなあたしを見て、ルフィはどこか楽しそうに歯を出してニッと笑う。
「そうか!イオ寂しいんだろ!!」
「ちが…!」
「じゃあ、心配してんのか!?」
「誰が!!」
心配に 決まってんでしょうが。
正直、アンタみたいな馬鹿が海賊王になんてなれると思えないもん。
どっかの海賊にやられそうな気がしてしょうがないんだよ。馬鹿野郎。
「俺、イオは泣いてるより笑ってる方が好きだ」
ルフィはそう云うと、笑顔のままあたしに近づいて唇を重ねてきた。
一瞬で離れたけど、こんなこと初めてされたあたしはすぐに顔を真っ赤にさせて
「アンタ何して…っ」
「だってよぉ、イオ海賊にならねぇって云うから。そしたらもう会えないだろ」
「……っ」
ごめん、ごめんルフィ。
「イオとはこれからもずっと一緒にいてぇけど!でも無理に連れてってイオが楽しくなくなるのは嫌だからな!!」
もう、あたしのこと忘れてくれて良いから。
海へ出ればあたしなんかより良い女ごまんといるから、他の人を好きになってくれて良いから。
「これから暫くはイオと会えなくなるからなぁ、だったら今しかないだろ!」
あたしなんか好きになっちゃ駄目だよ。
アンタみたいな良い奴なら、きっと素敵な人がルフィを愛してくれるから。
あたしは可愛くないしさ、性格だってブスだから、ルフィの隣にはいれないんだ。
今だって、嘘ばっか吐いて
「俺、海行ってもずっとイオのこと好きだからな!海賊王になって帰ってきた時には今度こそ俺のこと惚れさせるからよ!!」
「――迷惑だから!!」
ああ、ほら
「あたしは一生アンタなんか好きになんない。もっと良い男見つけて、アンタが海ではしゃいでる間に結婚だってしてやんの!」
素直じゃない。可愛く、ない。
「誰がルフィみたいな馬鹿好きになるのさ!!」
――嫌な、奴。
「…………」
「………っ」
ルフィを見れば、さっきの笑顔は消えて真剣な顔であたしを見ていた。
普段が普段なだけに時々見せるルフィの真面目な顔には恐れさえ感じる。
どうしよう、いくらルフィでも、馬鹿なルフィでも、あたしの云った事の意味は分かったはず。
怒ってるに決まってる。その前に、嫌われたよ、これ。
暫くの沈黙。
凄く、逃げ出したかった。
「……イオ」
「…ッ!!」
ルフィの低い声に思わず肩が揺れる。
あたしは顔を見れずに俯いた。
「…俺はよ、イオにどれだけ嫌なこと云われても、嫌いにはなんねェから」
「――!」
ルフィの言葉に、ハッと顔を上げた。
当のルフィはどこか遠くを見ていてこっちを見ようともしない。
真剣な横顔に、恐れを感じたはずなのに、何故だか今は胸が煩くなった。
「イオより綺麗な奴がいても、イオより優しい奴がいても」
「俺は、イオしか考えらんねぇから」
最後、あたしを見たルフィは、やっぱり笑顔だった。
…怒らない、んだ。
何で、そこまで
あたしそんなに、いい女じゃないのに。
「――――……」
思わず立ち上がったあたしだったけど、ルフィの言葉を聞いた後に涙がまた溢れ出てきて、その場に膝をついた。
また俯くと、地面にぽたぽたと涙が落ちて濡らす。
「……怖い、の」
声は情けない程に震えて、小さかった。
けどルフィはちゃんと聞き取ってくれて、あたしの前で座り直し話を聞いてくれた。
「だって…海へ行けば強い奴が沢山いる。色んな人から命狙われるようにだってなるはず。ルフィがここに必ず帰ってくる保証なんてないから……好きになったって…どうせ別れちゃうし……」
最初はね、アンタが告白してきた時凄く嬉しかったんだ。
両想いだ、って。
でもね、今思えばさ、すぐ別れちゃうんだもん。
ルフィに応えて「あたしも好き」とか云えば楽しい日々送れたかもしれないけど、その後…ルフィを失った生活が怖くなって受け入れられなかった。
どうせ別れちゃうんなら、いっそ嫌われちゃえば楽になれる。
あたしのこと好きじゃなくなれば、あたしも諦めがつくかも。
そう思ったんだ。
本当はさ、たまらなく好きなんだよ。
もう遅いんだよ。
ルフィがたとえ海へ行こうと、別れちゃうと分かってても、好きになってたんだよ。
本当は、側にいてほしい。
けど、あたしに止める権利はないから。
夢に向かう真っ直ぐなアンタも好きだから
どうしようも、出来なくなって
「何だ?じゃあイオは俺が死ぬと思ってんのか?」
首を傾げるルフィにあたしは小さく頷いた。
すると奴は、いつもみたいに笑って
「何だ、イオも結構馬鹿だな!!」
とうとう、馬鹿のルフィにまで云われた。
「死なねぇよ。俺は強いからね」
…どこからそんな自信が湧くんだか不思議でたまらないよ。
「俺がいなくなるのが嫌ならイオも一緒に海賊やればいいじゃねぇか!!絶対に俺が守ってやるからよ!」
ルフィは笑顔で云いきると、あたしをギュッと抱きしめた。
この時あたしはルフィの腕が予想以上にしっかりしてるのに気付いちゃって、一気に顔が真っ赤になっちゃって、心臓煩くなっちゃって。
そしたらルフィへの想いがどんどん溢れてきちゃって。
「……足、引っ張るよ?」
「良いぞ」
「…迷惑に思うかも」
「思わねぇさ」
「邪魔に、なるかも」
「絶対に無ぇ!」
「――…良い、の…?」
「おう!!」
あぁもう、嬉しすぎてどうしよう。
ありがと、ルフィ。
あたしなんか誘ってくれて。
ありがと、ルフィ。
あたしなんか好きになってくれて。
あたしもアンタのこと、大好きだから。
好き好き大好き!
(じゃあかわりに俺のこと好きになってくれ!)(とっくに好きだバーカ)(何ィ!?そうなのか!?)
アンタよりずっとずっと前からね
移転前10万打記念にフリー配布していたものでした。