「……どうした?」



葉は少し驚いた様子で襖を開けてあたしを見た。
ヘッドフォンも外し格好からしても今から寝るぜ!ってところ。
…何だか部屋に訪れて凄く悪い気がしてきた。寝るの邪魔しちゃったんじゃないかな。


「いや、あの……こんばんわ」
「おう」
「夜分遅くにすんません」
「平気さ。どうしたんよ、何か用事があったんだろ?」


頭を下げたあたしに葉はへらりと笑った。やっぱ葉って優しい。

用事…用事ね。うん、用事はあるんだ。あるけど…もうちょっと後じゃないと。
今云っちゃいけない。今云ったら意味がないというか。


「えぇとですね…」
「?」


云いよどんで視線を泳がせるあたしに葉は首を傾げる。
どうしよう間がもたないよ。


「……とりあえず入れよ。そこにいたら寒いだろ?」
「え、あ、…どもです」


葉はまた笑ってあたしを部屋に入れてくれた。
布団だけが敷かれた殺風景な部屋。ボブのCDぐらいしか余分なものはない(あ、余分なものって云っちゃ葉に悪いか)
昼間でもよく葉の部屋には来るんだけど、何だか今は少し緊張。夜だからかな。雰囲気変わるっていうか。

葉が布団の上に座ったので、あたしは畳の上に腰を下ろす。
そしたら葉がつまらなそうな顔をして「畳じゃ痛いしこっち来いよ」と手招き。云われたら断れないだろうが!
おずおずと四つ足で布団まで来て、葉と少し距離をおき座る。(…絶対あたし意識しすぎだ)


「…………」
「…………」


葉はあたしが何かを言うのを待っている。
あたしはただ、待っている。
自然と沈黙が生まれて、あたしは今部屋に来たことに激しく後悔した。
もうちょい遅く来れば良かった。


「…結局、何でオイラの部屋に来たんよ?」


葉が沈黙を破るように苦笑しながら訊いてきた。
あたしはちらりと時計に視線を向ける。
あと、ちょっとだ。


「あのさ、葉に、ね、云いたいことがあって、」
「…?」


なるべく、ゆっくり云って
時計と首を傾げる葉を交互に見て(あたし変な人だね)


さん





いち





「誕生日!おめでとッ!」





時計を見たあとに、バッと葉を見て少し大きな声で云った。
葉はぽかんとあたしを見て黙っている。そしてあたしに近づき持っている時計を覗き込んだ。


12時。
今日で、5月12日だ。



「……それを云いたかったんか?」


時計からあたしへ視線を移す。
予想以上に顔が近くてあたしは顔を真っ赤にしてしまい、それを誤魔化すように何度も頷いた。
暫くはあたしを見ていた葉(恥ずかしいなコイツはもう)目をぱちくりとさせて状況を把握しようとしてるんだと思う。(けど、可愛いとか思ったり)



そして葉は、小さく吹きだした。(…え)



「そうか、そうだったんか、オイラ今日誕生日だったんだな」
「…うん」
「すっかり忘れてたぞ」


毎日アンナにしごかれて大変そうだもんね。
まぁあたしとしては葉が誕生日忘れててくれた方が好都合。「おめでとう」云うと分かってて部屋に入れてもらったとか、嫌だし。自分がしたかったこと葉には全部分かっちゃうのも、癪というか。
それに忘れてたってことは、あたしが一番最初に葉に「おめでとう」が云えたってことにもなるし。

未だに笑ってる葉。心なしか、嬉しそう…?
喜んでくれたら、その方がいいな。


「ありがとうな」
「う、うん」


気恥ずかしくなって頷いた後葉から視線を逸らした。
そしたら葉があたしの頬に触れて(っ、)葉の方に向かされ、顔が近づいてきた。


「――」


あたしから離れた葉は目の前でへらりと笑って、「誕生日なら、これぐらい良いよな?」なんて訊いてきた。
反則だ。駄目なんて云えるわけもなくて。しかも了承得る前に葉は…その、しちゃうんだから。


「顔、真っ赤だな」
「だ、誰のせいさ」
「うぇっへっへ、可愛いぞ」


そうして、葉はまたあたしにキスをするんだ。















誰よりも先に云いたくて

(どうせだし一緒に寝るか)(え、…えええぇぇええ!?)(何だよ、とって喰うわけじゃあるまいし)(ほ、ほんとに?)(さぁ、どうだろうな)

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