「雨だ…」



校舎を出てすぐに降っている雨に気づいて灰色の空を見上げていた。
雨の量は結構なものだが、もう気にする程の元気もなく歩き出す。
びしょ濡れになりながら家に帰ろうと思っていた。


「紗枝さん…!?」


だけど、背後から聞こえた声に足を止めて振り向く。
大きな目を更に大きくさせ、驚きを隠せずにいる空が、昇降口に立っていた。


「な、何してるんですか!?風邪引いちゃいますよ!」


慌てて持っていた傘を開き、駆け寄って紗枝の頭上へ持って行く。
身長的に空の方がずっと低いので、空は上へ手を伸ばして傘を持つ形になる。


「……うん、まぁ良いかなって」
「よくないですよ!僕紗枝さんが学校休むのは…さ、寂しくてやです!」


少し顔を紅く染めながら云う空に何も返さず視線を地面に落とした。
いつもと様子が違う紗枝に気づいて、空は首を傾げる。


「…どうしたんですか?」


空が訊ねると、紗枝は少しした後無理に笑って、



「あはは、ふられちゃった」



その言葉に、空は目を見開く。


「クラスにいた男子をさ、結構前から好きだったんだ。でも好きな人いるんだって」
「………、そう ですか」


歩き出し、それに歩行をあわせながら隣にいる空は、俯いたまま。
何だか自分と同じ雰囲気が漂ってきたと思い、首を傾げた。
しかしその時視線に入った空の腕を見て、自分の方が身長高かったんだと思い出す。自分が持った方が良いだろうと手を伸ばしたが、空は拒否するように自分の方に少し傘を引き寄せた。
更に、首を傾げる。


「……、空君?」
「紗枝さん、は……自分より小さい男は、駄目ですか?」
「え…?」





「僕じゃ 駄目ですか?」





空の言葉に、今度は紗枝が目を見開く。
俯いていて、更に空の方が背は低いので、顔は全く見えない。しかし黒髪から覗く耳は赤く染まっていた。

空の性格も分かっている。
彼は、こんなタチの悪い冗談を云う男ではない。


なら、本気で――




「………」
「………」
「………」
「………うわ!?」
「!?」


沈黙の中、最初に口を開いた…否、悲鳴をあげたのは空だった。
ただでさえ小さな彼が、更に小さくなっている。足元を見れば溝。片足が見事にそこへ落ちてしまっていた。


「…あぁあ…」


泥だらけになってしまった片足を見て顔を顰めた後、がっくりと肩を落とす。
何故こんな場面で溝に落ちなきゃならないんだろう。格好悪すぎる。


「……っぷ」


恥ずかしくて俯いて、どう声をかけようかと考えていると、頭上から吹き出した声。
顔をあげれば、口元に手をあてて笑いをこらえている紗枝の姿。


「――…」


今日、初めて笑顔を見た。


「っごめん、まさか今時そんなコントみたいなこと起きるなんて思わなくて…!」
「………」
「はー…面白かった」


笑った涙だろうか。それを拭って一息吐き、呆然としている空を見て微笑む。
ハンカチを取り出して空の足元にしゃがみ、泥だらけの片足へとハンカチを伸ばすと、紗枝が何をしようとしているのか気づき慌てて後退る。


「平気です!ハンカチ汚れちゃいますよ!」
「良いの良いの。はい動かない」
「う…」


何も返せなくなって仕方なく大人しくする。
耳に髪をかけ、自分のズボンに着いた泥を拭いてくれる紗枝。滅多にない光景に、何だかボーッとしていると、紗枝が徐に口を開いた。


「…あのね、さっきのことだけど」
「!」
「…ごめん」


あぁ、やっぱり。
自分なんかでは、駄目なんだ。

分かっていたはずなのに、目尻が熱くなる。こんなところで泣いても情けないだけだと必死で堪えた。



「ふられたばっかで他の人を好きになることは出来ない。でも…」
「…?」
「私、身長とか気にしないんだよね」



……それは、つまり?



「I like you」
「へ?」
「今は、それぐらい」



「だから、私を振り向かせてほしいな」








貴方の側が、こんなにも安心できるなんて

(君に気づけなかったんだなあ私)(どうしてもっと早く、君と出会えなかったんだろう)
ねえ、もっと好きにならせてよ、貴方のことを




何かまとまらなかったorz


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